2019年3月2日土曜日

幽霊たちに育てられた男の子――ニール・ゲイマン『墓場の少年 ノーボディ・オーエンズの奇妙な生活』


今晩は、ミニキャッパー周平です。第5回ジャンプホラー小説大賞、〆切まであと4カ月。応募者の皆さん、ぜひスケジュールに余裕をもった執筆を! さて、好きだけれどこのレビュー欄でなかなか紹介する機会がなかった作家の、ホラーに(ぎりぎりでも)分類できる作品が出ると嬉しくなってしまいます。今回ご紹介するのは、英国で絶大な人気を誇るファンタジー作家の、映画化作品の文庫版です。

本日の一冊は、ニール・ゲイマン『墓場の少年 ノーボディ・オーエンズの奇妙な生活』。



とある家族の平穏は、一夜にして破られた。家に侵入してきた何者かの手で、両親と娘が惨殺されたのだ。だがたったひとり、生まれたばかりの赤ん坊は難を逃れた。偶然から夜の墓地に辿り着いた赤ん坊を助けたのは、そこに住む住人……幽霊たちだった。幼い命が未だ殺人者に狙われていることを知った幽霊たちは、赤ん坊を匿い、自身らの手で育てることを決める。ノーボディ(誰でもない)と名付けられた彼は、すくすくと成長していく。

という訳で、本作品は心優しい幽霊たちを描くジェントル・ゴースト・ストーリー。であると同時に、『ジャングル・ブック』(狼に育てられた少年を主人公にした作品を含む連作)を下敷きにした、幽霊たちに育てられた少年の成長物語です。

墓場をテーマにしたホラー作品群は以前の更新でまとめて紹介したことがありますが、これだけ賑やかな墓場が描かれたことはあまりないでしょう。先史時代からの死者が眠っている墓地だけあって、二千年前のローマ人とか、魔女狩りで殺された少女とか、十八世紀の詩人とか、十九世紀の政治家とか、そういう生まれた時代もバラバラな幽霊たちが暮らしています。ボッド(ノーボディの愛称)の親を引き受ける夫婦の霊も、恐らく十九世紀生まれで、現代人とのジェネレーションギャップがあったりします。

彼らキャラの立った幽霊や、人ならざる種族から、墓碑銘を用いて綴りを教わったり、霊的な技術(人間に見えない姿になる、物をすり抜ける、他人の夢の中に入り込む、などなど)を授けられたりして、ボッドは決して孤独ではない子供時代を送ります。そして、食屍鬼(グール)に襲われたり、先史時代の墓で主人の帰りを待つ怪異に出くわしたり、様々な冒険を繰り広げて成長していくボッド。しかし同時に、彼の家族を殺害した正体不明の犯人“ジャック”は、今でも殺し損ねた赤ん坊の行方を追っていて、やがてボッドの身を脅かすことになり――。

積み重ねられる小さなエピソードのそれぞれに、最良のジュブナイルのもつ輝きがあります。個人的な一推しエピソードは、墓を作られなかった少女の霊に墓を用意してあげようとするボーイミーツガール話。しかし年を重ねるにつれ(描かれるのは十代半ばくらいまで)、普通の人間ではないけれど幽霊でもないボッドは、すれ違いや苦い別れも経験することになっていきます。やがて訪れるのは暖かく、涙を誘うラスト。優しいホラー、暖かく軽快なファンタジーをお求めの方は、必読の傑作です。