今晩は。ミニキャッパー周平です。第2回ジャンプホラー小説大賞宣伝隊長として、現在まで通算21回にわたってホラー小説紹介などしているわけですが、私自身はものすごく怖がりです。
小学生の頃、学校の近くに墓場があり、同級生などは平気でそこで遊びまわっていたりしたようなのですが、私はなるべく近づかないようにしていました。幽霊がどうとか祟りがどうとかではなく、「侵してはならない場所」の独特な雰囲気に免疫がなかったのです。今回は、そんな私が「お墓」をモチーフにした作品を紹介します。
このテーマなら忘れてはいけないのがエドガー・アラン・ポー。「生きたまま葬られるのではないか」という不安にとりつかれ、あらかじめ墓内に安全装置まで準備した男の恐怖体験を描く「早まった埋葬」(『ポオ小説全集 3』収録)、妻を殺して壁に埋めた男の計略を、切れ味鋭いオチが待ち構える「黒猫」(『ポオ小説全集 4』収録)など、埋葬モチーフの作品が複数有りますが(「早まった埋葬」の主人公の怯え方などを見ると、ポー自身が埋葬に対して強い恐怖感、あるいは異常な関心を抱いていたのではないか、と思えます)、実は現実世界でも、ポー自身の墓に、正体不明の訪問者に纏わる奇妙なエピソードが発生しています(詳しくは「ポー・トースター」でググってみてください)。
墓に纏わるホラー作品で、他に思い出されるのは古典中の古典、W・F・ハーヴィー「炎天」(『怪奇小説傑作集1』収録)。ある暑い日に外出した男の、些細極まる出会いをスケッチした、「ほとんど何も起こらない」けれど、「何かが起こるかもしれない」物語で、何を言ってもネタバレになるので詳述しませんが、墓石をキーアイテムとして、いわく言いがたい不穏で奇妙な後味を残す傑作。
ちょっと毛色が変わってフィッツ=ジェイムズ・オブライエン「墓を愛した少年」(『怪奇小説日和』収録)。鄙びた村の寂れた教会墓地の中にある、小さな墓。墓碑銘もなく、ただ太陽の図だけが刻まれた墓を発見した少年は、次第にその墓に愛着を持つようになる。墓の周囲を手入れし、花を植え、墓とともに眠り、墓を抱き、接吻し、遊びさえ忘れて墓とともに幸せな歳月を過ごしていたが、ある日、その平穏を奪うものがやってきて――。1861年発表と、時代を経た作品ながら、少年の沈痛な哀しみに、現代の読者も心を乱されること必至の切ない一作。
ホラーというより幻想小説なので短く触れるに留めますが、シオドア・スタージョン「墓読み」(『海を失った男』)は、妻を喪った男が、妻の思いを知るため「墓を読む」という能力を持った「墓読み」に弟子入りするという、暖かく奇蹟的な物語。
日本の作品なら、アンソロジー『異形コレクション 幻想探偵』に書き下ろされた入江敦彦「霊廟探偵」の世界観が魅力的。切り裂きジャックの影に怯える19世紀末のイギリス。面積を無軌道に広げ、迷宮と化した霊園において、訪れる人々を目的の墓へ迷わず案内することのできる能力をもった「霊廟探偵」――その職を父から受け継いだ若者の物語。舞台設定から生まれるムードが素敵な一品。
最後は篠田真由美「墓屋」。本作品は、同じアンソロジー・シリーズ『異形コレクション』の中でも、東日本大震災を受けて編まれた『異形コレクション 物語のルミナリエ』に書き下ろされたもの。唯一の肉親である祖母を、大災害で喪った主人公。死者は墓に埋葬して弔うのが世のならわしだが、災害で墓すら失われてしまった今、祖母のために何ができるだろうか? 迷える主人公の前に訪れたのは、かつて祖母が語っていた「墓屋」なる人物だった。墓石や墓所を売るでもない「墓屋」は、死者を弔うために何をするのか。掌編ながら壮大なスケールで、鎮魂の想いが静かに胸を打つ佳品です。
墓とは、生者と死者、こちらと向こうの仲立ちをするインターフェース。いたずらに肝試しなどをせず、厳かな気持ちで手を合わせたいものですね。