2019年6月22日土曜日

読み終わった貴方も気づいていない⁉ 最後の伏線開示が物語後に待つ劇的ミステリー×ホラー。澤村伊智『予言の島』




こんばんは、ミニキャッパー周平です。第5回ジャンプホラー小説大賞〆切は間もなく、6月30日。ぜひラストスパートを。第4回ジャンプホラー小説大賞《金賞》『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ 僕たちの腐りきった青春に』も絶賛発売中です! noteに試し読みも掲載中ですよ!

さて、いきなりですが、本日ご紹介する一冊は、澤村伊智『予言の島』。



人気作家の作品ですし、あちこちで既にレビューが上がっています。既に買って読んだ方も多いでしょう。そこで今回は、いつもとテイストを変えて。「私は気づいたけど気づいていない人が多いっぽいから触れ回りたい!」というミーハーな気持ちでご紹介を。

天宮淳の古い友人である宗作は、東京の会社でパワハラに遭って自殺未遂を起こし、故郷に戻ってきた。同じく古くからの友人である春夫は、彼らを気晴らしの旅行に誘う。淳・宗作・春夫たちが向かったのは瀬戸内海の小島・霧久井島。90年代半ばに霊能力者・宇津木幽子が訪れ、祟りによって死んでしまったといういわくつきの島であった。更に、幽子は亡くなる前に、二〇年後の八月二十五日から二十六日の未明にかけて、島で六人が死ぬという予言を残していた。淳たちは、興味本位から、死の予言の日が迫る中で島に上陸しようとしていたのだ。やがて、島の民宿に泊まったメンバーの中から予言通りに死者が出始めるが、不気味な守り神の像を信仰する島の人々は、よそ者を拒絶し、むしろよそ者の死を望むような発言さえ始める……。

横溝正史テイストを漂わせ、オカルトブーム時代のモチーフを散りばめつつ、怪奇現象や超能力に対して推理によって謎を解こうとする。ミステリの論理にすべてが回収されるのか、ホラーの超常にすべてが飲み込まれてしまうのか、そんなせめぎあいのうちに明かされていく、怨霊の恐るべき起源と、物語全体に充満する狂気の正体に二度驚かされる作品です。

しかし、です。私が本書を読んで最も震えたのは、上記2つの驚きに襲われた瞬間ではありません。

物語のあとに、巻末に参考文献や引用資料を示した2ページがあるのですが、その中のある部分を見て、私はもう一度強い衝撃を受けました。その記述を見た瞬間に、『予言の島』という本のものすごく目立つ箇所に、物語の大仕掛けを暗示……というか、ほぼ回答を示すに近い伏線が置いてあったことに気づいて、愕然としたのです。

恐らく、作者としては「わかる人にだけ意味を分かってもらえればいい」と仕込んだネタだったのでしょう。私が分かったのは、「と学会」の本などで、オカルト・疑似科学ネタに親しんでいたからです。“それ”の意味が分かるのはたぶん日本中で数千人、多くて数万人くらいであり、『予言の島』読者の中でもきっと高い比率ではないと思います。編集部周りの読了者3名に聞きましたが誰も気づいていませんでした。

既に『予言の島』を読み終わっていて、この伏線に気づいていらっしゃない方は、319ページの印の一行目に書いてある文言”××××ד(五文字伏せます)をググってみて下さい。恐らく1番上にWikipediaの記事が出てきます。たぶん何番目かにニコニコ大百科の記事も出てきます。その辺りを読めばたちどころに、澤村伊智が大胆に配置した、初見時99.9%以上の確率で見破れないであろうこの伏線が、いかにこの物語そのものを的確に表しているか――大仕掛けや、オカルトを信じる/信じないことによって見える世界が変わるか――についても理解できると思います。この物語のためにここにこれを置いた、そのことが、私にとって何より凄味を感じさせました。もちろん、未読の方は読み終わった後にググッてみて下さいね。

2019年6月15日土曜日

ジャンプホラー小説大賞《金賞》受賞! ゾンビ化進行中、青春取り戻し中。折輝真透『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ ぼくたちの腐りきった青春に』


こんばんは、ミニキャッパー周平です。第5回ジャンプホラー小説大賞の〆切は6月30日。志望者の皆さんはぜひラストスパートをかけてください。そして、第4回ジャンプホラー小説大賞受賞作『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ ぼくたちの腐りきった青春に』の発売日(6/19)がいよいよ迫ってきました!

普段はこのコーナー『ミニキャッパー周平の百物語』で弊社の本・他社の本を問わず気になるホラーを紹介しているため、「あいつは角川ホラー文庫の回し者なのではないか」と社内で後ろ指さされていると噂の私ですが、今回は、年に一度の受賞作ダイレクトマーケティング回。折輝真透『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ ぼくたちの腐りきった青春に』。



今から5年ほど前。米国で、悪性腫瘍を根治するための研究中に、白血球を変異させるTLCウイルスが偶然誕生し、外部に漏れてしまう。TLCウイルスによって変異した白血球は肉体を徐々に腐敗させ、生物をいわゆる“ゾンビ”に変えてしまうのだ。幸いなことに、ワクチンの開発によってゾンビパンデミックは阻止された。各国は公共放送などを通じ、人々にワクチン接種を促している。
そんな時代に、ワクチン未接種だった大学2年生の藤堂翔は、文芸部の悪友たちと肝試しで埼玉の廃病院に訪れ、そこで遭遇したゾンビに噛まれてしまう。

……ストーリー開始早々いの一番にゾンビ化してしまうという、ゾンビもの小説の主人公としてはあるまじき失態を犯してしまった藤堂は、国立病院内のゾンビ治療施設に通うことになり、ゾンビ化患者の自助グループ《ゾンビの会》に入会する。ゾンビ化は腐敗の度合いによってステージが5段階に振り分けられており、脳が侵される《ステージ5》まで進行してしまうと、人権が剥奪され処理されることになる。藤堂は、《ゾンビの会》で、腐敗した足を切断し、車椅子に座っている《ステージ3》の少女・美也と知り合う……。

という訳で本書は、”ゾンビ化“という不治の死病に侵された若者の異色闘病小説です。しかしそれ以上に、色々こじらせた大学生の青春小説でもあります。フィッツジェラルドを愛し、韜晦癖のある藤堂が、ダメ人間比率の高い文芸部メンバーとつるみ、何とかゾンビなりに青春を謳歌しようとして空回りしていくおかしみとかなしみに、個人的には森見登美彦のデビュー作『太陽の塔』をほのかに連想しました。

作中で特に存在感を放っているキャラは、文芸部に居座る“エナさん”こと江波奈美。死病に侵されている藤堂の心情も鑑みず、ゾンビ化患者に与えられるクスリをぶん捕ろうとするヤバい女子。その行動は自分勝手さが度を越していて一種の爽快感さえ感じられます。

安楽死というタイムリミットに抗って、ゾンビは青春の思い出を残すことができるのか――ジャンプホラー小説大賞《金賞》受賞のそんな本書は、6月19日発売。Amazonほかで予約も始まっています。
発売日前後には、note上で無料一部公開も行う予定です。同日発売の、直木賞作家・東山彰良の最新作、AI×悪魔のバディもの『DEVIL'S DOOR』も宜しくお願いいたします!


2019年6月7日金曜日

芥川龍之介が愛したホラー小説とは? 澤西祐典・柴田元幸編訳『芥川龍之介選 英米怪異・幻想譚』


今晩は、ミニキャッパー周平です。「ジャンプホラー小説大賞」の宣伝企画として、古今東西の気になるホラーを気ままに紹介するこの企画「ミニキャッパー周平の百物語」ですが、編集部がnoteに力を入れていくことになり、noteへお引越しすることになりました。

すぐには機能すべてを移せませんし、旧記事の転載も含め、お引越しにはバタバタすると思いますが、「ミニキャッパー周平の百物語」、募集中の第5回ジャンプホラー小説大賞(6/30〆切)、6/19刊行の『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ ぼくたちの腐りきった青春に』、ともどもよろしくお願いいたします。

このところアンソロジーを紹介することが増えています。ホラーアンソロジーというものは“誰が”編むかによって全く別の恐怖の顔を見せますが、今回はそういう意味で非常に意外な選者の本。作品を選んだのはスーパービッグネーム・芥川龍之介。

という訳で本日の一冊は、澤西祐典・柴田元幸編訳『芥川龍之介選 英米怪異・幻想譚』。

1924年から25年にかけて、芥川龍之介は、旧制高校の生徒たちが使用するための英語読本を編みました。小説・戯曲・エッセイなど英語の文学51編を収めた(英語の原文のままであり、日本語訳はついていません)その読本は全8巻で、芥川による英語文学アンソロジーとも言えるものです。その中から、気鋭作家の澤西祐典とベテラン翻訳家の柴田元幸が更に20作品を精選して生まれたのが本書、とのことです。訳者は当代随一の名翻訳家たち。芥川が幽霊譚を好んだこと、今回の編集の時点でその傾向の作品が多く選ばれたこともあって、『怪異・幻想譚』になっているのですが、20作品の中で怪異色が色濃く出ている作品をご紹介しましょう。

最も目を引くのは、アンブローズ・ビアス「月明かりの道」。一読すると、芥川龍之介の「藪の中」がこの作品に絶大な影響を受けていることに気づくからです。
家に侵入した何者かによって母が殺害され、殺人者の影に怯えて生きていた主人公。ある日、父までもが何かに憑かれたように姿を消した。という物語が、複数の証言によって全く別の様相を呈し始めて真実が揺らいでいく。最後は口寄せによって死者の語りが提示されることまで「藪の中」と同じ。とはいえ、読み比べてみると、ビアスのほうがより超自然的で得体の知れないものを描いている点と、芥川とビアスの興味の差異について思い至ります。

マックス・ビアボーム「A・V・レイダー」は、手相占いの能力を持つと称する男の物語。
自分がいずれ命の危機に見舞われることを手相から知っていたために、他人の手相を見ることを拒んでいた男が、手相を見るよう強要されたのだが……2000年代にインターネットで流布された「意味が分かると怖い」ショートストーリーのシチュエーションを先取りしていることに驚きです。その上で、作品全体を覆う英国的な皮肉・ユーモアによって、件のショートストーリーとは全然違う味わいのものになっています。

ハリソン・ローズ「特別人員」は、南北戦争時代にジョージ・ワシントンが伝説を残した地が舞台。第一次世界大戦のために、孫が徴兵されることになった女性のところに訪れた者の正体は……。途中から《星条旗よ永遠なれ》が聞こえてきそうなパワーに溢れる物語。
フランシス・ギルクリスト・ウッド「白大隊」は、第一次世界大戦の戦場で、戦死した兵士たちの妻たちが部隊を結成し、ドイツ軍に襲撃をかけた際に起きた、とある奇跡について描きます。「特別人員」「白大隊」ともに、戦争を扱ったホラーですが、日本の戦争テーマホラーではまずお目にかかれないタイプの作品です。

M.R.ジェイムズ「秦皮(とねりこ)の木」は、魔女狩りで殺された女性と、彼女を魔女だと証言した男の因縁が、後の世代にも暗い影を落とす、というもの。邪悪な意思の介在をほのめかす、本書では最もストレートなホラーと言えます。

ヴィンセント・オサリヴァン「隔たり」は死んだ夫の影を追う女性が、占い師の託宣を受けたのちに体験する心霊現象。最小限の短さに纏められつつ、ラストの一文が印象的な作品です。

アルジャーノン・ブラックウッド「スランバブル嬢と閉所恐怖症」は、やや神経質な女性が鉄道の客室内で一人でいる時にパニックの発作に襲われる話。とにかく平静を取り戻そうとせわしなく動き回ってかえって混乱を深めていく様が怖ろしくリアルです。

最も印象に残った作品はブランダー・マシューズ「張りあう幽霊」。スコットランド生まれの父親と、アメリカ生まれの母親をもつ青年、エレファント・ダンカン。彼が母親から受け継いだセーレムの家は、昔から幽霊が棲みついている幽霊屋敷だった。
直接的な害を及ぼさない幽霊だったので、エレファントは放置していたのだが、父親側の親族がたまたま事故で亡くなった時に、状況は一変する。彼はダンカン家の男爵位を継ぐことになったのだが、実は、同家の男爵位を継いだ者にだけ取りつく霊が存在したのだ。
かくて、セーレムの屋敷内で、屋敷に取りついたアメリカ生まれの幽霊と、一族に取りついたスコットランド生まれの幽霊が、火花を散らすことになる――タイトル通り「張り合う幽霊」という訳です。この辺りで既に、現代でもあまり見ない発想ですが、結末もまさかと思う意外なもの。こんな小説が1883年に書かれていた事実、そして、この愉快な作品を芥川龍之介が選んで英語教本に入れたという事実を思うと、わけもなく嬉しくなってきます。

ホラー以外、幻想寄りの作品では、巨人と子供たちの交流を描く、オスカー・ワイルドの童話「身勝手な巨人」、絞首刑になった罪人のため、かつての仲間が奔走する、ダンセイニ卿のファンタジー「追い剝ぎ」辺りがお気に入りです。

巻末には付録として、芥川龍之介自身による翻訳2編(イェーツとルイス・キャロル)の他、芥川の短編「馬の脚」も収められています。「馬の脚」は冥界の官吏が手違いを起こしたせいで、両足を馬のものに変えられて蘇生した男の悲喜劇。

という訳で、芥川龍之介の小説を読んできた方にとっても、意外だったり驚いたりすることの多いであろう一冊。芥川にハマったことのある人はぜひ。

2019年6月1日土曜日

改造手術された足から煙が立ち上る……ジョン・メトカーフ『死者の饗宴』


今晩は、ミニキャッパー周平です。第5回ジャンプホラー小説大賞〆切は6月末。応募者の皆さんは最後の追い込み頑張ってください。第4回の金賞受賞作『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ』は6月19日発売。同時発売の東山彰良先生の『DEVIL‘S DOOR』とともにぜひよろしくお願いいたします!

さて本日の一冊は、ジョン・メトカーフ『死者の饗宴』。


こちらは、以前ご紹介したマイクル・ビショップ『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』と同じく、知られざる傑作や埋もれた異色作を再発掘するという全10巻のシリーズ『ドーキー・アーカイヴ』のうち一冊。メトカーフは1891年イギリス生まれ、第一次世界大戦に従軍し、終戦後から小説を書き始め1965年に亡くなったものの、怪奇小説集が初めて纏められたのは1998年カナダで(それも少部数出版)という、英米でも半ば忘れられた作家とのこと。この辺、ほぼ巻末解説の受け売りです。

そのメトカーフの中短編から全8編を選んで日本で独自にまとめたのがこの一冊です。
「悪夢のジャック」はビルマ(現ミャンマー)の奥地から宝石を盗み出した男たちに降りかかる奇妙な“呪い”について、「ふたりの提督」は、存在しないはずの島を目指した航海について描いています。どちらも予想外の捻くれた結末が待ち構えています。
「悪い土地」は、療養に訪れた土地で、散歩へ出かけた折に忌まわしい場所を見つける……という内容、「ブレナーの息子」は、かつての上官の子供が突然家に押しかけてきたが、とんだ悪ガキである上に挙動不審で……という内容。いずれも起きている現象の原因が外部にあるのか、語り手の狂気の中にあるか明言されず、読者を翻弄します。
「永代保有」「死者の饗宴」は長めの作品。「永代保有」はハネムーンの川下りの最中に出現した死者の舟、「死者の饗宴」はフランスの古い館に滞在していた少年にとりついた古き存在、が悪夢を引き起こします。予めほのめかされた悲劇的な展開――登場人物のうちの一人がこの世ならぬものに引きずられていってしまう――へ向けてじわじわと外堀を埋めていく手法に、語り手の無力感と焦燥は読者にも強く伝わってきます。

私が好きな作品のひとつ「時限信管」は、交霊会を扱っています。下宿を経営する女性は、交霊会に参加してからというもの、超常現象の存在をすっかり信じ込んでしまっていて、自分にも超常の力が手に入ることを願っています。一方で下宿人たちは交霊会で起きた怪奇現象についてペテンではないかという疑いの目を向けています。そのすれ違いが交霊会で決定的な事件を生み出してしまい……見事な構成に唸らされます。

最も推したい作品は「煙をあげる脚」。マッドサイエンティストならぬマッドドクターの気まぐれによって、足を改造手術されてしまった船員の災難を描いています。どういう風に改造されてしまったのかはタイトルからお察しという感じですが、そういう船員が果敢に船に乗り込んでは次々悲劇を起こしていく、その恐るべき過程がいっそ滑稽で笑えます。
「煙をあげる脚」は若島正編のアンソロジー『棄ててきた女』にも収録された一編ですが、『棄ててきた女』も(ホラー限定ではないですが)ヘンテコな発想の作品に満ちた名アンソロジーなのでおススメです。

2019年5月25日土曜日

白銀の夜に訪れる、美しい怪異。『異形コレクション 綺賓館Ⅱ 雪女のキス』


今晩は、ミニキャッパー周平です。この前、所用でたまたま訪れた町でかなり品ぞろえのよい古書店を見つけました。その店で、家の本棚で行方不明になっている昔の本、今では手に入らない本を多く見つけることができたので、今回はその中から一冊を。十九年前の本かつ冬を舞台にした本なので、タイミング的には唐突かもしれませんが、また家の中で見つからなくなったらいけないので。

というわけで、本日の一冊は、『異形コレクション 綺賓館Ⅱ 雪女のキス』。


本書は、このブログで何度かご紹介している『異形コレクション』の番外編シリーズの一冊。既発表の名作群(スタンダード)と本書のための書下ろし(オリジナル)作品が11作品ずつ、計22本収録されています。そしてテーマは雪女。日本ではオーソドックスな怪異とはいえ、これだけ多くの雪女作品を集めたアンソロジーは空前にして絶後なのではないでしょうか。

まずスタンダードの収録作から。
小泉八雲「雪おんな」は一九〇四年発表の作品で、木こりが吹雪を避けるために立ち寄った小屋で雪女に遭遇し、生還するものの……という、日本人に流布している雪女のイメージの源流。
坪谷京子「空知川の雪おんな」は明治期が舞台の童話。雪女に遭遇するのは、山形から北海道へ開拓に来た男。男は山形に残してきた許嫁のことを気にかけていたが……。
岡本綺堂「妖婆」は、江戸時代、雪の降る路上に座り込んでいる謎の老婆に遭遇した、武士たちに降りかかる怪異。得体の知れなさ、怪談らしさでは本書中随一。
山田風太郎「雪女」は、雪女の絵――描いた人間が狂死したといういわくつきのもの――に纏わる事件を、画家の狂気を絡めて描く、怪奇ミステリ。
皆川博子「雪女郎」は、雪女の子と呼ばれ、周囲からいじめられて育った少年の転落と救済を描く、儚い物語。
竹田真砂子「雪女臈」は江戸期のかぶき芝居を題材にした芸道小説。女方の元祖であった伝説的な役者・右近源左衛門は、舞台を去ったあとどこに行ったのか?
高木彬光「雪おんな」は捕物帖。冬の夜、江戸の町にのっぺらぼうの雪女が現れて人々を驚かせ、さらに嫁入り前の娘が雪女にさらわれた。雪女の正体と目的は?_
吉行淳之介「都会の雪女」は酒場で男女が怪談話を語り合う形式。語られるのは、病院のトイレで、ささやかな不自然に気づいたというものだったが……。
赤川次郎「雪女」は、雨女のような特殊能力をもつ者としての雪女を描く、軽妙なホラーショートショート。
阿刀田高「雪うぶめ」。中学3年生の少年が、知人に会うため訪れた田舎で、雪に潰された山小屋の下敷きになっていた女性を暴行する。二十年後、彼は再びそこに戻って来るが。
藤川桂介「ゆきおんな」は、特撮ドラマシリーズ《怪奇大作戦》の一エピソードの脚本。父を探して雪の町に帰郷する女と、その周りで巡らされる陰謀。

ここからはオリジナル。
中井紀夫「バスタブの湯」は、付き合い始めた女の体が異常に冷たく、彼女と肌を重ねるごとに触れた部分が凍傷のようになっていく、というエロティックな作品。
森真沙子「コールドゲーム」の語り手は交際中の男とのすれ違いに悩んでいる女性。彼女は電車の中で、路上で、仕事先で、白い服を着た不吉なムードの女をたびたび目撃する。
新津きよみ「戻って来る女」は、交際していた女を疎ましく感じはじめ、捨てようとした男を見舞う、<何度捨てても女が戻ってくる>、という恐怖を描く心理サスペンス。
久美沙織「涼しいのがお好き?」。極度の暑がりでクーラーをガンガンきかせる夫と、その寒さに耐えられない妻。妻が事態を解決しようと購入したアイテムとは?
矢崎存美「冷蔵庫の中で」。引っ越した先で、前の居住者が残した冷蔵庫を開けると、中には小さな女の子がいた。冷蔵庫の中から出ようとしない謎の少女の正体が涙を誘います。

森真沙子・新津きよみ・久美沙織・矢崎存美の4編は、本書収録前にいったん『女性自身』に掲載されていることもあり、どちらかといえば女性読者をイメージした、男性の持つ暴力性や身勝手さを浮き彫りにした作品になっています。

安土萌「深い窓」は、暖かい室内にいる少年と、吹雪の屋外にいる雪女の、窓を隔てた邂逅を描く詩的で幻想的なホラーショートショート。
菊地秀行「雪女のできるまで」は、人ならざる醜い獣が、いかにして美しい雪女として語られるようになっていったかを描くブラックな作品。
菅浩江「雪音」は、小さな会社を経営し、自分にも部下にも厳しい女性が、精神的な疲れから逃れるために、雪の中で出会った女に自分の心を明け渡してしまうというストーリー。
宮部みゆき「雪ン子」はこのブログでは『チヨ子』のレビュー時に、加門七海「雪」は『涙の招待席 異形コレクション傑作選』のレビュー時に、ご紹介していますのでそちらをご参照ください。

読み通すと、雪女のイメージが無限に広がるこの一冊。ちなみに『異形コレクション綺賓館』は、『桜憑き』『人魚の血』『十月のカーニヴァル』そして『雪女のキス』の4冊あり、つまり春夏秋冬ぶんのホラーが網羅されていることになります。復刊や文庫化、あるいは同様のコンセプトの新刊もどこかで出て欲しいものです。


2019年5月18日土曜日

令和のスクリーンに「彼女」が復活! 鈴木光司原作・杉原憲明脚本・牧野修著『貞子』


今晩は、ミニキャッパー周平です。第5回ジャンプホラー小説大賞の〆切(6/30)が迫りつつありますが、第4回ジャンプホラー小説大賞金賞受賞のゾンビ青春小説、『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ ぼくたちの腐りきった青春に』は6/19発売。更に、直木賞作家・東山彰良の最新作『DEVIL'S DOOR』も同日発売。両作品の書影は来週には公開されますのでJブックスのHPやtwitterを要チェック!

さて、来週5/24(金)には、とあるホラー映画が公開されます。本日は公開に先駆けて刊行されたノベライズを取り上げます。

というわけで本日の一冊は、鈴木光司原作・杉原憲明脚本・牧野修著『貞子』。



両親による虐待から逃れるために、洞窟の祠で貞子と取引した女・初子は、自身の体に得体の知れぬ存在が宿っていることに気づく。それは新たな災厄の始まりだった。
数十年後。総合医療センターのカウンセリング・ルームで働く秋川茉優は、幼いころ両親の虐待に耐えかねて弟・和真とともに逃げ出し、児童養護施設に保護されたという過去があった。ある日、医療センターに緊急搬送されてきた少女は、ポルターガイストに似た現象を起こす超能力を持っていた。ほとんどコミュニケーションを取ろうとしない少女の正体は、複数の死者が出た火災現場の生存者だった。少女の影には、かつて井戸で死に、ビデオテープの呪いによって多くの人間を呪殺したと語られる女・貞子の姿が見え隠れする。
時を同じくして、茉優の弟・和真は、Youtuberとして生計を立てようとするなかで、心霊スポットへの突入を思いつき、焼身自殺が起きたアパートに侵入するが……。

というわけで、本書はジャパニーズホラーの代名詞『リング』を踏まえた作品になっています。かつてはビデオテープに映った映像が呪いの感染源になり、謎を解く手がかりにもなったわけですが、2019年にはYoutubeの動画が重要な役割を果たすことは言うまでもありません。
意外だったのは、本作が親子をテーマにした作品になっている点です。親から愛情を受けられなかったことが心に大きな影を落としているキャラも多いですし、物語の鍵を握る少女は、見ようによっては、貞子の娘ともいえます。もちろんだからといって本作品がハートフルドラマになり呪いの力が緩むかといえばそんなことはなく、無辜の登場人物たちは次々に恐怖体験に巻き込まれ、理不尽かつおぞましい死を迎えていくのでホラーファンの皆さまはご心配なく。
それにしても、平成の初期、1991年に初登場したキャラクターである貞子が、小説や映画の様々なコンテンツで拡大し平成を通じて日本ホラーの顔となったばかりか、とうとう令和の時代まで生き延びているという事実に驚きの念を隠せません。さっきWikipediaを確認して知ったのですが、この映画化に合わせてスピンオフギャグコミック『貞子さんとさだこちゃん』や動画『【貞子】伊豆大島里帰りの旅〜友だち100人できるかな〜』がWEBに公開されているとのことで、もう国民的キャラクターと言ってもいいのではないでしょうか。願わくは、令和の時代にも、末永く語り継がれるホラーキャラクターが生まれて欲しいものです。

2019年5月11日土曜日

原稿用紙10枚以内、81編の怪。井上雅彦編『異形コレクション ひとにぎりの異形』


今晩は、ミニキャッパー周平です。GWが終わりましたが、ジャンプホラー小説大賞応募者の皆さんは原稿が進みましたでしょうか。さて、以前から予告していたショートショートホラー集がGW中にようやく本棚から見つかりましたのでご紹介を。

本日の一冊は、井上雅彦編『異形コレクション ひとにぎりの異形』。



このブログでも何度か言及してきた伝説的アンソロジー『異形コレクション』の1冊ですが、本書の特徴は、<四百字詰原稿用紙10枚以内>のショートショートの書下ろし作品81編、という超巨大ショートショートアンソロジーとなっていることです。『異形コレクション』の創刊10周年、星新一没後10周年、星新一デビュー50周年と様々な意味を持つ2007年に刊行されたアニバーサリーな一冊です。収録作家は星新一ショートショートコンテスト出身者を中心に、ホラーやSFや幻想小説の書き手など多岐にわたっています。

収録作は全7章にカテゴリ分けされていますが、章題も「デラックスな発明」「謎とひみつと犯罪」「闇の種族あれこれ」「未来からのノック」「つねならぬ日常」「妖夢のような」「ひとにぎりの人生」と、すべて星新一の作品タイトルを連想させるものになっています。

流石に81作品すべてをご紹介するわけにはいかないので、ストーリーを紹介しやすくオチを割らずに済むものを10編ほど、挙げてみます。

     田中啓文「あるいはマンボウでいっぱいの海」。卵のほとんどが他の魚に食べられてしまうため、3億個の卵を産むというマンボウ。その卵を食べられないように育てれば、マンボウの大量養殖ができる、と考えた男の浅慮により、海は大量発生したマンボウに覆われ……。
     太田忠司「ATM」。ATMを操作していると突然画面上で謎のアンケートが出題され、さらには金銭状態や交際相手など、男の個人情報を握っている旨のメッセージが流される。恐るべきATMの目的は?
     渡辺浩弐「これは小説ではない」。かつて小説家になる夢をもちながら挫折した男は、エンジニアとなり人工知能に小説を書かせようとする。彼は人工知能に、1000本以上の作品を残したとある作家の文章データを流し込むが……。
     北原尚彦「ワトスン博士の内幕」。シャーロック・ホームズが解決したと《事件簿》に記されているにもかかわらず、ホームズ自身は知らず、ワトスン博士のみが知っている事件の正体とは?
     岡崎弘明「怪人 影法師」。影を消すことで影の持ち主の存在さえ消し去ってしまう謎の怪人・影法師。連続人間消失事件を起こした影法師の次なる目的は、帝都にそびえる新帝都タワーを消すことだった。
     齋藤肇「誰そ」。嵐の孤島に閉じ込められた十二人。殺人事件が起きるには絶好のシチュエーションだが、孤島に集まっている者たちの正体は、妄想に囚われた者や、獣人、ロボット、果ては宇宙人を体内に住まわせている者などもおり……。
     草上仁「どこかの――」。悪魔らしき存在から、そこに記した願いが実現するという紙を手に入れた男。ただし紙に書けるのは2文字だけ。男が願うのは「不死」か「財産」か、それとも……?
     新井素子「ノックの音が」。様々な感染症が蔓延するようになった未来。致死率77パーセントのウイルスに侵されて隔離施設で暮らす女性は、来るはずのないノックの音を聞く。
     岬兄悟「誘蛾灯なおれ」。なぜか地縛霊を寄せ付ける体質になってしまった男の周りに、あたかも誘蛾灯に集まる虫のように、大量の霊が集まってくる。特に悪さをすることもないが恨めしげに男を見つめる霊たちに、男は業を煮やして……。
     藤井青銅「美しき夢の家族」。某テーマパークで着ぐるみに入る仕事をしていた男は、死ぬまでそのことを秘密にする契約を結んでいたが、死の間際にそれを家族に明かしてしまい……。


本が出版されてから既に12年も経っていますが、現在はショートショートや短い作品が多く読まれる、いわば夏の時代。超ボリュームかつバラエティも段違いのこの一冊も、改めて注目されることでしょう。