2018年11月10日土曜日

怪物に追われる一夜のドライブ。怪異を知る少女の願いとは? ――秋竹サラダ『祭火小夜の後悔』


今晩は、ミニキャッパー周平です。第5回ジャンプホラー小説大賞募集開始しています。〆切の20196月末まで時間はたっぷりありますので、ぜひ入念に準備をした全力の原稿を送ってください! さて、ホラー賞といえば、KADOKAWAが長年開催していた「日本ホラー小説大賞」は第25回で惜しまれつつも最終回となり、別の賞へ合流となったのですが、今回は、その最後の大賞受賞作のうち一冊をご紹介致します。

という訳で本日の一冊は、秋竹サラダ『祭火小夜の後悔』。


●高校の数学教師・坂口は、机の交換に向かった旧校舎で、二年の生徒・祭火小夜と出くわし、床板をひっくり返す奇妙な怪異の存在について教えられる。
●高校一年生の浅井緑郎は、夜ごと出現し、自分ににじり寄ってくる大ムカデの怪異に悩まされ、寝不足に苦しんでいたある日、祭火小夜と知り合う。
●高校二年生の糸川葵は、六歳の頃に出会った怪異「しげとら」との十年後の再会に怯え、警戒を続ける日々を送っているうちに、祭火小夜に関わることになる。

――それぞれが怪異との遭遇によって窮地に陥ったものの、小夜の知識によって助けられた三人は、小夜からの願いを聞くことになる。それは、小夜の兄・弦一郎が怪異に命を狙われているので、その「囮」となって、一晩、車で逃げ回ってほしいというものだった。坂口の車に4人は乗車し、怪異に追われる夜のドライブが始まった。しかし、坂口の心には疑念がわだかまっていた。兄の命を守りたいという小夜の言葉には、ある決定的な矛盾があったのだ……。

という訳で、前半の1・2・3話はそれぞれ別の視点人物によって語られ、独立した短編としても楽しめる内容ですが、特に「しげとら」の章が中編として圧倒的なクオリティ。
六歳の日、買ったばかりのワンピースを公園で破いてしまい、途方に暮れていた葵の前に現れた「しげとら」は、魔法のような力で新品のワンピースを出現させ、葵に与えた。喜ぶ葵だったが、しげとらからの「取り立て」を受けた男が消滅するのを目撃してしまう。しげとらは、葵に対して「三年後と七年後に確認に来て、十年後には取り立てに来る」と予告する。そこからの葵の人生は、しげとらの再来に怯えること、そして対抗手段を準備することに費やされていく。無機質な存在でありながら、心の隙をついて出現するしげとらの恐怖と、十年後の対峙の際に訪れるミステリ的な伏線回収の妙技に、喝采を叫びたくなる内容です。

ラストの4話目も、狡猾な怪異によって徐々に逃げ道を塞がれていく一方で、小夜の願いの真実が驚きとともに明らかになるホラー&ミステリな一話。生真面目でドジっ子な小夜のキャラクターも広く読者に受けそうなので、将来的にアニメ化される可能性を今から予言しておきます。

2018年11月3日土曜日

無垢の「生き神様」が物の怪に堕ちる、情念の年代記――篠たまき『人喰観音』


こんばんは、ミニキャッパー周平です。JブックスのHPでお伝えした通り、第4回ジャンプホラー小説大賞は初の金賞受賞が出ました! 現在書籍化へ向け準備中です。そして第5回ジャンプホラー小説大賞も募集開始となっています。デビューを目指すみなさん、20196月末の〆切を目指して頑張ってください!

さて、本日ご紹介する一冊は、真っ赤な表紙が書店で目に入った、篠たまき『人喰観音』。



(恐らくは)明治ごろ。薬種問屋の長男として生まれながら、病弱なため若くして家の離れに住まい、隠居同然の生活をしていた蒼一郎。川原に打ち上げられた女・スイを家へ招いたことが彼の運命を変えてしまう。商人から聞いた話によれば、スイはもともと川上の村に住んでおり、災厄を言い当て、病気や怪我を予言し、託宣を行うという「生き神様」として崇められていたが、ゆえあって人柱として川に流されたのだという。蒼一郎は、スイの託宣の力に頼って実家を盛り立て、スイと使用人・律との三人で、平穏に暮らしていた。しかし蒼一郎が年を重ね老いても、スイは昔のままの姿で年を取る気配もない。その差に蒼一郎が苦しみを覚え始めたころ、彼らを取り巻く怨憎が狂気を呼び寄せる――と、ここまでが一章「隠居屋敷」。
二章「飴色聖母」では、蒼一郎の死後、スイが泰輔という男とともに屋敷で暮らす生活が、奉公人である奈江の視点から語られますが、そのころには村の人々から「スイが人の肝を喰っている」と陰で噂されるようになっています。三章「白濁病棟」では、幼い日に暴行を受けたことで心を壊し、座敷牢に閉じ込められた女・凛子が、座敷牢で出会ったスイの力を借りて復讐を遂げようとします。そして四章「藍色御殿」では凛子の妹・琴乃が、姉が変貌した原因を追ううちに、スイと姉によるおぞましい所業を知ります。

本書の最大の見どころは、一編ごとに徐々に時代が下り、現代に近付いていくにつれてスイの存在が、「生き神様」から禍々しいものに変化していくという点です。「年を取らない」「予言や託宣を行い的中させる」などの超常的な力を持ちながらも、あくまで純粋無垢な存在であり、観音様などと呼ばれていた彼女が、周囲にいた人間の嫉妬や羨望という業を背負っていったせいでどんどん物の怪になり果て、死と不幸とメリーバッドエンドをばらまく存在になってしまう。どこか舌ったらずの口調の彼女の喋りは、物語の序盤ではただの子どもっぽさに聞こえますが、終盤ではひどく不気味なものに響きます。作品タイトルで何が起きるのかは薄々みなさんお気づきかもしれませんが、「その」描写のおぞましい美しさや、「それ」を効率的に成し遂げる手段の心理的なエグさなどなど、様々、読者の想像を上回るでしょう。
中盤以降では村の美しい自然が描写されるたびにその背後に積み重なった死が連想され、坂口安吾の「桜の森の満開の下」の強化バージョンともいえる凄絶さを感じませます。あたかもボーイミーツガールのように始まりながら、暗い情念によって紡がれていくおぞましく美しい年代記。読み終えた方はきっと、真っ赤な表紙をつい見返してしまうことでしょう。

2018年10月27日土曜日

幽霊の死体、幽霊誘拐……奇妙な事件に挑む「呪われた心霊科医」。岩城裕明『呪いに首はありますか』


お久しぶりです、ミニキャッパー周平です。第4回ジャンプホラー小説大賞の結果が10月29日付の週刊少年ジャンプ48号で発表となります。そして第5回の募集開始も間もなく。という訳で、土曜深夜2時のホラー小説紹介ブログ「ミニキャッパー周平の物語」再開です! 最終更新の6月以来、現在まで様々な注目のホラーが登場していますので、ガンガンご紹介してブランクを埋めていきたいと思います。

本日ご紹介する一冊は、岩城裕明『呪いに首はありますか』。見た瞬間にぎょっとさせられる(目が六つある異形の顔がどアップ)表紙ですが、中身はそれとは裏腹に、しっとりしたムードの作品になっています。





事故物件である病院の建物を借りて、「心霊科医」として霊現象関連のトラブルを解決する男、久那納恵介(くななん・けいすけ)。彼がその仕事を選んだのには、のっぴきならない理由があった。
恵介の家系には、いつからか、「長子は三〇歳の誕生日を迎える前に必ず死ぬ」という正体不明の呪いがかけられていた。彼の先代もその先代も、呪いによって死んだ。現在二八歳である恵介は、このままいけば二年以内に死を迎えることになる。それを回避する唯一の方法が、霊にまつわる事件を解決し、その霊の思念を彼に憑りついた呪いである「墓麿(はかまろ)」に与え続けて、呪いを解くというものだったのだ。しかし、霊現象に挑むとはいえ、恵介自身は霊能力はもっていないので、霊を見ることのできる者、つまり呪いである墓麿の力を借りていくことになる……。

心霊探偵ものとはいえかなりの変わり種で、たとえば第一話「どうして幽霊は服を着ているのですか?」で取り上げられる事件は、「家の中に『幽霊の死体』がある」という奇妙なものですし、第2話「身代金の相場を教えてください」で持ち込まれる相談は、「死んだ娘の幽霊と一緒に暮らしていたが、その幽霊が『誘拐』されたので探して欲しい」という、更に奇想天外なものです。そういった、単なる霊現象や祟り以上に異様な事態を探っていくうち、霊の「生態」とも呼ぶべきものが明らかになっていき、ストンと腑に落ちる解決が訪れる。
第2話のように切ない余韻をもたらすものもあれば、夫婦関係に霊が割り込んでくる第3話「結婚してから彼が変わったように思います」のように不気味な後味を残すものもありますが、「物凄く変わった外面から、非常に明瞭な内幕が提示される」ことの意外性に快感を覚えます。

第4話「犬も幽霊になるのでしょうか?」では、散歩中に飼い主ともども死んでしまった「犬」の霊の奇天烈な外見(血が出てるとか内臓がはみ出ているとかそういう次元の話ではない)にのけぞってしまいますが、その心残りと成仏のさせ方には健気で泣かせるものがあります。
そして「三〇歳までに死んでしまう呪いを解くために事件を解決していく」のに「呪いである墓麿をパートナーとして仕事している」というねじれが、クライマックスの第5話にて重大な意味をもってきます。静かで淡々としているのに感情を掻き立てる感動的な終盤が待っています。外側からは絶対に想像できない中身の物語、表紙で怖気づいてしまった人も改めて手に取ってみてはいかがでしょうか。





2018年6月30日土曜日

謎が解かれ、更なる戦慄が牙を剥く――芦沢央『火のないところに煙は』

今晩は、ミニキャッパー周平です。いよいよ、第4回ジャンプホラー小説大賞応募締め切り(6/30)目前。応募者の方は悔いのないようラストパートをかけて下さい!
さて、ホラー棚ばかり見ているので見過ごしていましたが、社内のミステリファンの人から、ホラーとしても面白いミステリが出たと教えてもらい、早速手にしました。

という訳で本日の一冊は、芦沢央『火のないところに煙は』です。



「小説新潮」から「神楽坂を舞台にした怪談ものを」という依頼を受けた小説家の「私」は、かつて自身が見聞した怪異が神楽坂に纏わるものであったことを思い出し、不思議な偶然に背筋を寒くする。それは八年前、編集者であった頃の「私」が、大学時代の友人から紹介された女性、広告代理店勤務の角田尚子に関するものだった。
尚子とその彼氏は、占い師に相性を診断してもらいに行った折に「不幸になるから結婚しない方がいい」と告げられた。それ以来、彼は豹変し、尚子に強烈な疑いの目を向け、生活を脅かすようになる。その後、彼は交通事故により亡くなったが、時を同じくして、尚子の取り扱う広告に血しぶきのような赤い染みが付くという怪現象が起こるようになった。彼の呪いを恐れた尚子は、除霊ができる人間を探していた。「私」は知人のオカルト専門家・榊桔平に尚子の件を相談するが、榊が導き出したのは、「染み」についての全く異なる真相だった――

本書は全6話で構成されており、いずれも、ホラーとミステリの歯車が見事に噛み合った作品になっています。上述したのが第1話「染み」の内容ですが、死者の力を前提としたオカルト的な内容でありながら、ミステリ的な構図の逆転をもち、しかし真実が暴露されたとき一層の恐怖が姿を現すという、技巧の冴えわたる短編となっているのです。

そして「染み」の執筆以降、「私」の周りには様々な怪異譚が集まっていくことになります。
狛犬に呪われたと称して常軌を逸した訴えをしてくる女の物語「お祓いを頼む女」、親切な隣人が急に根も葉もない醜聞を告げ口するようになる「妄言」、夢の中で迫ってくる恐怖から逃れようとした夫婦の悲劇「助けてって言ったのに」、アパート内での霊現象に対して盛り塩や御札で対抗しようとして起きた予想外の事態「誰かの怪異」。
いずれも、超常的な力の実在を前提に、榊が謎解きをすることによって、怪異の背後に隠されていた意外な事情が明らかになり、(多くの場合、後味の悪い)ホラーとしての異様な戦慄が残されるという形式になっています。それらのエピソードで積み重ねられた伏線が、最終話「禁忌」に至って一つの大きな恐怖へと鮮やかに収束する様は、手品のような驚きに満ちていて、読者を打ちのめします。

ところで、この本の裏表紙には、第一話「染み」の内容通り、血しぶきを模した赤い模様があしらわれているのですが、「染み」を読み終わったあと改めてその模様を見た人は、きっと10人中9人は鳥肌が立つのを抑えられないでしょう。

さて、第四回ジャンプホラー小説大賞までのブログ更新はここまで。第五回の募集ページが立ち上がるまで、しばらくは月1とか月2とか、思いついた時に(土曜深夜2時に)更新致します。


2018年6月23日土曜日

古い家屋に棲むモノが、人間の生活を侵す時――小野不由美『営繕 かるかや怪異譚』

今晩は、ミニキャッパー周平です。第4回ジャンプホラー小説大賞〆切は間もなく(30日)。ギリギリまで書いていて応募に失敗しないよう、応募方法を予め確認しておいて下さいね。
さて私は、春ごろ引っ越しをしたのですが、まだ細かい家具の配置(特に本棚)をあちらへ動かしこちらへ動かして理想の部屋づくりを模索しているところです。寝起きする環境はやはり快適で心安らぐものであって欲しいので……。

という訳で本日の一冊は、小野不由美『営繕 かるかや怪異譚』。



叔母の死により、城下町の古い家を受け継いだ祥子。その家には、箪笥で入口をふさがれた座敷、「開かずの間」があるのだが、その上の方の襖が何度閉めても気づけば開いている。それを不気味に感じていた祥子は、箪笥をどかして「開かずの間」を開け放ったのだが、その結果、カリカリという物音や人影の出現など、さらなる怪異に出くわすことになる。祥子は、叔母が懇意にしていた工務店の男・隈田から、かつてその家で起きた悲劇と、叔母がその「障り」を座敷に閉じ込めようとして失敗し、やがて病に倒れたという経緯を知らされる。窮地に陥った祥子に隈田が紹介したのは、「営繕 かるかや」の尾端という男だった。

「営繕」とは建築物の新築、増築、修繕及び模様替えのこと。これを生業とする男・尾端が、歴史ある城下町の家々に起こる怪奇現象を、「営繕」によって解決していくという連作です。
こう書くとゴーストバスターお仕事ものに聞こえそうですが、尾端は派手な祓魔や成仏を行う訳ではなく、霊や障りを、模様替えや修築によって「対処する」のみ。ちょっと風水に考え方が似ているかもしれません。霊を滅することができなくても、霊との共存の仕方を提供することはできる、或いは家主に害が及ばないようにすることはできる、といった、怪異への絶妙な距離感、敬意めいたものが、尾端というキャラの魅力ともなっています。

本書に収録されている6編は、それぞれ、屋根裏を動き回る何者かの足音、袋小路を近づいてくる喪服の女、家の中のあり得ない場所に出没する老人、井戸から家に近寄ってくるもの、ガレージに現れる子供の霊、などなど、決して派手ではないものの、日常と命を脅かし、読者をじわじわと怖がらせるものばかり。家に住む人の心が追い詰められ、最後の最後、あわやという場面で尾端が登場し、対症療法を施す。あとには人智を超えた存在への戦慄と感動が混ざった余韻が残る。「キャラクターもの」でありながら静謐な「怪談」であるという両面で楽しめる作品なのです。

ちなみに6編の中には、「これこれこういう事件が過去にあってその祟りだろう」という因果が明かされる短編もある一方で、「怪異の法則こそ判明するものの、いったいそれが何者だったのか最後まで全く分からない」といういかにも怪談然としたわだかまりを残す短編もあり(ネタバレになるからどれかは言いません)、私はその一作が特にお気に入りです。

2018年6月16日土曜日

「狼狩り」と「裏切者探し」のホラー×サスペンス×ミステリ。氷桃甘雪『六人の赤ずきんは今夜食べられる』



今晩は、ミニキャッパー周平です。第4回ジャンプホラー小説大賞募集〆切(6/30)まであと僅か。応募者の方はぜひラストスパートを頑張って下さい! 
さて、これまでこのレビュー欄では(「ホラー」と銘打つ本の絶対数が少ないので)ライトノベルレーベルの本はあまりご紹介できなかったのですが、新刊棚の帯に「パニックホラー×ナゾトキ」の文字が躍っている本があったので、これ幸いとレビューしてみます。

という訳で、本日の一冊は、氷桃甘雪『六人の赤ずきんは今夜食べられる』。



かつて騎兵であったころ、功を焦ったために無辜の人々の殺戮に加担してしまった男は、その罪を悔いながら、猟師として生きている。彼はとある鄙びた村で、村人から恐ろしい話を聞かされる。
今日は一年に一度、満月が赤く染まる日であり、「ジェヴォーダンの獣」と呼ばれる狼が現れて村に住む「赤ずきん」の少女たちを襲って殺す日だ。その狼は、牛よりも大きく、熊よりも凶暴で、人間よりも賢い。村の人々が束になって狩り立てても殺すことができないし、少女たちが逃げ出しても執念深く追って殺す。抗う術はない――その話を聞いた猟師は、村に住む六人の赤ずきんを守り、ジェヴォーダンの獣を狩るため、村の外れにある塔に籠城しようとする。だが、狼の知恵は彼の予測を遥かに上回り、犠牲者が出始める。そして赤ずきんたちの中に「裏切者」の存在さえ見え隠れして……。

という訳で本書は、狼の襲撃から生き延びるホラーサスペンスであると同時に、赤ずきんの中に紛れ込んだ「犯人」を突き止めるミステリ性のある作品でもあります。

VS猟師といえば真っ先に思い浮かぶのは銃での戦いですが、何しろこの狼は銃ごときで撃ち殺されるようなヤワな相手ではなく、猟師は知恵によって狼と戦うことになります。とはいえ狼の方も、獲物が地下に逃げ込めば水を流し込む、獲物に忍び寄るために足音を消すなど、獣とは思えない悪辣さであり、単純な罠などたやすく看破されてしまいます。猟師は、6人の赤ずきんがそれぞれ所有する、「硬化」「発火」「透明化」などの特殊な効果をもつ秘薬を用いた策略で、必死の防衛戦を繰り広げます。つまり、ファンタジーの手法で描かれたモンスターパニックホラーなのです。

そして猟師は、迫り来る狼と戦いながら、一見したところか弱い少女にしか見えない赤ずきんたちに紛れ込んでいる「敵」を見つけ出す、という難事にも挑まなければなりません。彼らの籠城した塔は、かつて魔女が暮らしていて、凄惨な拷問が行われていたという超いわくつきの場所ですが、そこに隠されていた手がかりと、狼の挙動から推理することで、真実に辿り着こうとします。夢中で一気読みした私は真相の予想に失敗しましたが、伏線も丁寧に張られていますから、注意深く読めば第3章が終わるまでに「裏切者」の正体を見抜けるはず。ぜひ犯人当てに挑んでみて下さい。

2018年6月9日土曜日

宇宙や異次元から来訪する、まだ見ぬ恐怖――ディック・クーンツ他、中村融編『ホラーSF傑作選 影が行く』

今晩は、ミニキャッパー周平です。第4回ジャンプホラー小説大賞は応募締切間近。6/30当日消印有効です。お忘れなく!

さて、本日の一冊は、ディック・クーンツ他、中村融編『ホラーSF傑作選 影が行く』。


現代SFの起源と呼ばれることもある『フランケンシュタイン あるいは現代のプロメテウス』がホラー史においても金字塔であることからも分かるように、「未知」の対象に科学的なアプローチで迫ろうとするSFは、時にすぐれたホラー作品も生み出してきました。本書は、そういった米英の短編群を日本で独自に集めたアンソロジーです。一番古いものは一九三二年発表、新しいものでも一九七〇年発表という、既にクラシックの風格漂うラインナップとなっています。

まず、こういったジャンルで思い浮かぶのは「宇宙の恐怖」でしょう。
一番古いクラーク・アシュトン・スミス「ヨー・ヴォビムスの地下墓地」は、火星の遺跡で調査隊のメンバーが遭遇する、(恐らくは)古代人を滅ぼした恐怖の存在を描きます。狂気に誘う怪物の禍々しさ、いかめしい文体と、昏く湿度のあるムードはクトゥルー神話を髣髴とさせます。
ジョン・W・キャンベル・ジュニア「影が行く」は、『遊星よりの物体X』『遊星からの物体X』と2度にわたって映画化された作品。南極基地で氷の底から発見された、憎々しげな表情を浮かべた異星生物の氷結死体。基地にいる科学者たちは、よせばいいのにそれを解凍し目覚めさせてしまいます。異星生物は、生き物を殺しては殺した相手そっくりになり代わり思考までコピーする、という凶悪な能力を備えており、疑心暗鬼に陥る基地隊員の心理描写が巧みである一方、「人間」と「偽物」を区別するための科学的な手法の探求にも、うならされます。
ブライアン・W・オールディス「唾の樹」では、異星から飛来した生物が農場で引き起こす騒動が描かれます。動物が多産となり植物が豊作となる一方で発生する、グロテスクな死。「宇宙戦争」の作者であるウェルズもかかわってきて、「宇宙戦争」の誕生秘話とも呼べる作品になっています。
フィリップ・K・ディック「探検隊帰る」は、それらの作品とはやや焦点を変えた変わり種。火星探検から奇跡の生還を果たした宇宙飛行士たちの視点で描かれますが、命からがら帰り着いた地球では、出会う人出会う人が彼らを見るなり逃げ出すという理解不能な事態に出くわすという展開。ディックお得意の現実溶解感が楽しめます。
ジャック・ヴァンス「五つの月が昇る時」は、衛星が五つある惑星の、灯台守を主人公にした作品。同僚が、「五つの月が昇る時は何も信用してはいけない」という言葉を残して失踪。たった一人残された主人公のもとに次々訪れる、「信用のおけない」相手たち。ちょっと本邦の雪女譚などを連想させるファンタジックな怖さのある作品です。

テクノロジーの発達によって生まれたものが、人間に危害を及ぼしたり、人間と相いれない存在として立ち上がってくる、というのもこのジャンルの醍醐味のひとつ。
アルフレッド・ベスタ―「ごきげん目盛り」は、富豪の男が、なぜかお供のアンドロイドが人を殺しまくるので逃亡を余儀なくされる、というストーリーで、残虐なのに軽快でコミカル、読んでいくうちに何か楽しくなってしまう作品。
デーモン・ナイト「仮面(マスク)」は、事故により肉体を失い、体のすべてを技術で代替した男の心に巣喰い始めた異質な思考をリアルに描きます。
シオドア・L・トーマス「群体」はパニックSF。下水管の中で、廃棄物などから発生した不定形生物が、下水道を遡って家庭のキッチンなどから侵入。克明に描かれる、怪物が人間を消化吸収していく場面は、今でも通用する映像的凄味、ハリウッドのCGで見てみたいおぞましさがあります。
私の一押しでもある、ロジャー・ゼラズニイ「吸血鬼伝説」は、人類が絶滅し、地球最後の吸血鬼もいなくなったあと、機械が徘徊する世界が舞台。「他の機械の電力を奪って充電する」ことで機械たちから恐れられる一体の吸血鬼機械を描きます。吸血鬼機械は、最後の吸血鬼の弟子的な存在だったのです。ユーモア小説にしかならなさそうなのに謎のカッコよさがあるという異色作です。

その他にも、SFらしい発想と怪異・恐怖を様々な手法でミックスした作品が並んでいます。
リチャード・マシスン「消えた少女」は、とある夫婦の娘が「室内にいて、泣き声も聞こえるのにどこにも見当たらなくなってしまう」という不気味な現象を描きます。
フリッツ・ライバー「歴戦の勇士」は、酒場で知り合った男の家について行ったら、時空を懸けた壮大な戦争に巻き込まれ、恐怖の一夜を過ごす、というもの。部屋に閉じこもっているだけなのにすさまじい緊張感が高まっていくサスペンスフルな描写が見事です。
キース・ロバーツ「ポールターのカナリア」は、ポルターガイスト風の心霊現象を起こす存在に対して、録音・録画で分析してみたり、敢えて信号を送りコミュニケーションを取ってみたりという部分がSF的。
ディーン・R・クーンツ「悪夢団(ナイトメア・ギャング)」は、暴虐無比の限りを尽くすギャング団、そのメンバーの一人がボスの秘密に迫ろうとする物語。売れっ子ホラー作家・クーンツの意外な初期作品です。

SFとホラーの両方を摂取し続けている私としては、このアンソロジーの続編や現代版も出て欲しいと願っています。