2018年6月30日土曜日

謎が解かれ、更なる戦慄が牙を剥く――芦沢央『火のないところに煙は』

今晩は、ミニキャッパー周平です。いよいよ、第4回ジャンプホラー小説大賞応募締め切り(6/30)目前。応募者の方は悔いのないようラストパートをかけて下さい!
さて、ホラー棚ばかり見ているので見過ごしていましたが、社内のミステリファンの人から、ホラーとしても面白いミステリが出たと教えてもらい、早速手にしました。

という訳で本日の一冊は、芦沢央『火のないところに煙は』です。



「小説新潮」から「神楽坂を舞台にした怪談ものを」という依頼を受けた小説家の「私」は、かつて自身が見聞した怪異が神楽坂に纏わるものであったことを思い出し、不思議な偶然に背筋を寒くする。それは八年前、編集者であった頃の「私」が、大学時代の友人から紹介された女性、広告代理店勤務の角田尚子に関するものだった。
尚子とその彼氏は、占い師に相性を診断してもらいに行った折に「不幸になるから結婚しない方がいい」と告げられた。それ以来、彼は豹変し、尚子に強烈な疑いの目を向け、生活を脅かすようになる。その後、彼は交通事故により亡くなったが、時を同じくして、尚子の取り扱う広告に血しぶきのような赤い染みが付くという怪現象が起こるようになった。彼の呪いを恐れた尚子は、除霊ができる人間を探していた。「私」は知人のオカルト専門家・榊桔平に尚子の件を相談するが、榊が導き出したのは、「染み」についての全く異なる真相だった――

本書は全6話で構成されており、いずれも、ホラーとミステリの歯車が見事に噛み合った作品になっています。上述したのが第1話「染み」の内容ですが、死者の力を前提としたオカルト的な内容でありながら、ミステリ的な構図の逆転をもち、しかし真実が暴露されたとき一層の恐怖が姿を現すという、技巧の冴えわたる短編となっているのです。

そして「染み」の執筆以降、「私」の周りには様々な怪異譚が集まっていくことになります。
狛犬に呪われたと称して常軌を逸した訴えをしてくる女の物語「お祓いを頼む女」、親切な隣人が急に根も葉もない醜聞を告げ口するようになる「妄言」、夢の中で迫ってくる恐怖から逃れようとした夫婦の悲劇「助けてって言ったのに」、アパート内での霊現象に対して盛り塩や御札で対抗しようとして起きた予想外の事態「誰かの怪異」。
いずれも、超常的な力の実在を前提に、榊が謎解きをすることによって、怪異の背後に隠されていた意外な事情が明らかになり、(多くの場合、後味の悪い)ホラーとしての異様な戦慄が残されるという形式になっています。それらのエピソードで積み重ねられた伏線が、最終話「禁忌」に至って一つの大きな恐怖へと鮮やかに収束する様は、手品のような驚きに満ちていて、読者を打ちのめします。

ところで、この本の裏表紙には、第一話「染み」の内容通り、血しぶきを模した赤い模様があしらわれているのですが、「染み」を読み終わったあと改めてその模様を見た人は、きっと10人中9人は鳥肌が立つのを抑えられないでしょう。

さて、第四回ジャンプホラー小説大賞までのブログ更新はここまで。第五回の募集ページが立ち上がるまで、しばらくは月1とか月2とか、思いついた時に(土曜深夜2時に)更新致します。


2018年6月23日土曜日

古い家屋に棲むモノが、人間の生活を侵す時――小野不由美『営繕 かるかや怪異譚』

今晩は、ミニキャッパー周平です。第4回ジャンプホラー小説大賞〆切は間もなく(30日)。ギリギリまで書いていて応募に失敗しないよう、応募方法を予め確認しておいて下さいね。
さて私は、春ごろ引っ越しをしたのですが、まだ細かい家具の配置(特に本棚)をあちらへ動かしこちらへ動かして理想の部屋づくりを模索しているところです。寝起きする環境はやはり快適で心安らぐものであって欲しいので……。

という訳で本日の一冊は、小野不由美『営繕 かるかや怪異譚』。



叔母の死により、城下町の古い家を受け継いだ祥子。その家には、箪笥で入口をふさがれた座敷、「開かずの間」があるのだが、その上の方の襖が何度閉めても気づけば開いている。それを不気味に感じていた祥子は、箪笥をどかして「開かずの間」を開け放ったのだが、その結果、カリカリという物音や人影の出現など、さらなる怪異に出くわすことになる。祥子は、叔母が懇意にしていた工務店の男・隈田から、かつてその家で起きた悲劇と、叔母がその「障り」を座敷に閉じ込めようとして失敗し、やがて病に倒れたという経緯を知らされる。窮地に陥った祥子に隈田が紹介したのは、「営繕 かるかや」の尾端という男だった。

「営繕」とは建築物の新築、増築、修繕及び模様替えのこと。これを生業とする男・尾端が、歴史ある城下町の家々に起こる怪奇現象を、「営繕」によって解決していくという連作です。
こう書くとゴーストバスターお仕事ものに聞こえそうですが、尾端は派手な祓魔や成仏を行う訳ではなく、霊や障りを、模様替えや修築によって「対処する」のみ。ちょっと風水に考え方が似ているかもしれません。霊を滅することができなくても、霊との共存の仕方を提供することはできる、或いは家主に害が及ばないようにすることはできる、といった、怪異への絶妙な距離感、敬意めいたものが、尾端というキャラの魅力ともなっています。

本書に収録されている6編は、それぞれ、屋根裏を動き回る何者かの足音、袋小路を近づいてくる喪服の女、家の中のあり得ない場所に出没する老人、井戸から家に近寄ってくるもの、ガレージに現れる子供の霊、などなど、決して派手ではないものの、日常と命を脅かし、読者をじわじわと怖がらせるものばかり。家に住む人の心が追い詰められ、最後の最後、あわやという場面で尾端が登場し、対症療法を施す。あとには人智を超えた存在への戦慄と感動が混ざった余韻が残る。「キャラクターもの」でありながら静謐な「怪談」であるという両面で楽しめる作品なのです。

ちなみに6編の中には、「これこれこういう事件が過去にあってその祟りだろう」という因果が明かされる短編もある一方で、「怪異の法則こそ判明するものの、いったいそれが何者だったのか最後まで全く分からない」といういかにも怪談然としたわだかまりを残す短編もあり(ネタバレになるからどれかは言いません)、私はその一作が特にお気に入りです。

2018年6月16日土曜日

「狼狩り」と「裏切者探し」のホラー×サスペンス×ミステリ。氷桃甘雪『六人の赤ずきんは今夜食べられる』



今晩は、ミニキャッパー周平です。第4回ジャンプホラー小説大賞募集〆切(6/30)まであと僅か。応募者の方はぜひラストスパートを頑張って下さい! 
さて、これまでこのレビュー欄では(「ホラー」と銘打つ本の絶対数が少ないので)ライトノベルレーベルの本はあまりご紹介できなかったのですが、新刊棚の帯に「パニックホラー×ナゾトキ」の文字が躍っている本があったので、これ幸いとレビューしてみます。

という訳で、本日の一冊は、氷桃甘雪『六人の赤ずきんは今夜食べられる』。



かつて騎兵であったころ、功を焦ったために無辜の人々の殺戮に加担してしまった男は、その罪を悔いながら、猟師として生きている。彼はとある鄙びた村で、村人から恐ろしい話を聞かされる。
今日は一年に一度、満月が赤く染まる日であり、「ジェヴォーダンの獣」と呼ばれる狼が現れて村に住む「赤ずきん」の少女たちを襲って殺す日だ。その狼は、牛よりも大きく、熊よりも凶暴で、人間よりも賢い。村の人々が束になって狩り立てても殺すことができないし、少女たちが逃げ出しても執念深く追って殺す。抗う術はない――その話を聞いた猟師は、村に住む六人の赤ずきんを守り、ジェヴォーダンの獣を狩るため、村の外れにある塔に籠城しようとする。だが、狼の知恵は彼の予測を遥かに上回り、犠牲者が出始める。そして赤ずきんたちの中に「裏切者」の存在さえ見え隠れして……。

という訳で本書は、狼の襲撃から生き延びるホラーサスペンスであると同時に、赤ずきんの中に紛れ込んだ「犯人」を突き止めるミステリ性のある作品でもあります。

VS猟師といえば真っ先に思い浮かぶのは銃での戦いですが、何しろこの狼は銃ごときで撃ち殺されるようなヤワな相手ではなく、猟師は知恵によって狼と戦うことになります。とはいえ狼の方も、獲物が地下に逃げ込めば水を流し込む、獲物に忍び寄るために足音を消すなど、獣とは思えない悪辣さであり、単純な罠などたやすく看破されてしまいます。猟師は、6人の赤ずきんがそれぞれ所有する、「硬化」「発火」「透明化」などの特殊な効果をもつ秘薬を用いた策略で、必死の防衛戦を繰り広げます。つまり、ファンタジーの手法で描かれたモンスターパニックホラーなのです。

そして猟師は、迫り来る狼と戦いながら、一見したところか弱い少女にしか見えない赤ずきんたちに紛れ込んでいる「敵」を見つけ出す、という難事にも挑まなければなりません。彼らの籠城した塔は、かつて魔女が暮らしていて、凄惨な拷問が行われていたという超いわくつきの場所ですが、そこに隠されていた手がかりと、狼の挙動から推理することで、真実に辿り着こうとします。夢中で一気読みした私は真相の予想に失敗しましたが、伏線も丁寧に張られていますから、注意深く読めば第3章が終わるまでに「裏切者」の正体を見抜けるはず。ぜひ犯人当てに挑んでみて下さい。

2018年6月9日土曜日

宇宙や異次元から来訪する、まだ見ぬ恐怖――ディック・クーンツ他、中村融編『ホラーSF傑作選 影が行く』

今晩は、ミニキャッパー周平です。第4回ジャンプホラー小説大賞は応募締切間近。6/30当日消印有効です。お忘れなく!

さて、本日の一冊は、ディック・クーンツ他、中村融編『ホラーSF傑作選 影が行く』。


現代SFの起源と呼ばれることもある『フランケンシュタイン あるいは現代のプロメテウス』がホラー史においても金字塔であることからも分かるように、「未知」の対象に科学的なアプローチで迫ろうとするSFは、時にすぐれたホラー作品も生み出してきました。本書は、そういった米英の短編群を日本で独自に集めたアンソロジーです。一番古いものは一九三二年発表、新しいものでも一九七〇年発表という、既にクラシックの風格漂うラインナップとなっています。

まず、こういったジャンルで思い浮かぶのは「宇宙の恐怖」でしょう。
一番古いクラーク・アシュトン・スミス「ヨー・ヴォビムスの地下墓地」は、火星の遺跡で調査隊のメンバーが遭遇する、(恐らくは)古代人を滅ぼした恐怖の存在を描きます。狂気に誘う怪物の禍々しさ、いかめしい文体と、昏く湿度のあるムードはクトゥルー神話を髣髴とさせます。
ジョン・W・キャンベル・ジュニア「影が行く」は、『遊星よりの物体X』『遊星からの物体X』と2度にわたって映画化された作品。南極基地で氷の底から発見された、憎々しげな表情を浮かべた異星生物の氷結死体。基地にいる科学者たちは、よせばいいのにそれを解凍し目覚めさせてしまいます。異星生物は、生き物を殺しては殺した相手そっくりになり代わり思考までコピーする、という凶悪な能力を備えており、疑心暗鬼に陥る基地隊員の心理描写が巧みである一方、「人間」と「偽物」を区別するための科学的な手法の探求にも、うならされます。
ブライアン・W・オールディス「唾の樹」では、異星から飛来した生物が農場で引き起こす騒動が描かれます。動物が多産となり植物が豊作となる一方で発生する、グロテスクな死。「宇宙戦争」の作者であるウェルズもかかわってきて、「宇宙戦争」の誕生秘話とも呼べる作品になっています。
フィリップ・K・ディック「探検隊帰る」は、それらの作品とはやや焦点を変えた変わり種。火星探検から奇跡の生還を果たした宇宙飛行士たちの視点で描かれますが、命からがら帰り着いた地球では、出会う人出会う人が彼らを見るなり逃げ出すという理解不能な事態に出くわすという展開。ディックお得意の現実溶解感が楽しめます。
ジャック・ヴァンス「五つの月が昇る時」は、衛星が五つある惑星の、灯台守を主人公にした作品。同僚が、「五つの月が昇る時は何も信用してはいけない」という言葉を残して失踪。たった一人残された主人公のもとに次々訪れる、「信用のおけない」相手たち。ちょっと本邦の雪女譚などを連想させるファンタジックな怖さのある作品です。

テクノロジーの発達によって生まれたものが、人間に危害を及ぼしたり、人間と相いれない存在として立ち上がってくる、というのもこのジャンルの醍醐味のひとつ。
アルフレッド・ベスタ―「ごきげん目盛り」は、富豪の男が、なぜかお供のアンドロイドが人を殺しまくるので逃亡を余儀なくされる、というストーリーで、残虐なのに軽快でコミカル、読んでいくうちに何か楽しくなってしまう作品。
デーモン・ナイト「仮面(マスク)」は、事故により肉体を失い、体のすべてを技術で代替した男の心に巣喰い始めた異質な思考をリアルに描きます。
シオドア・L・トーマス「群体」はパニックSF。下水管の中で、廃棄物などから発生した不定形生物が、下水道を遡って家庭のキッチンなどから侵入。克明に描かれる、怪物が人間を消化吸収していく場面は、今でも通用する映像的凄味、ハリウッドのCGで見てみたいおぞましさがあります。
私の一押しでもある、ロジャー・ゼラズニイ「吸血鬼伝説」は、人類が絶滅し、地球最後の吸血鬼もいなくなったあと、機械が徘徊する世界が舞台。「他の機械の電力を奪って充電する」ことで機械たちから恐れられる一体の吸血鬼機械を描きます。吸血鬼機械は、最後の吸血鬼の弟子的な存在だったのです。ユーモア小説にしかならなさそうなのに謎のカッコよさがあるという異色作です。

その他にも、SFらしい発想と怪異・恐怖を様々な手法でミックスした作品が並んでいます。
リチャード・マシスン「消えた少女」は、とある夫婦の娘が「室内にいて、泣き声も聞こえるのにどこにも見当たらなくなってしまう」という不気味な現象を描きます。
フリッツ・ライバー「歴戦の勇士」は、酒場で知り合った男の家について行ったら、時空を懸けた壮大な戦争に巻き込まれ、恐怖の一夜を過ごす、というもの。部屋に閉じこもっているだけなのにすさまじい緊張感が高まっていくサスペンスフルな描写が見事です。
キース・ロバーツ「ポールターのカナリア」は、ポルターガイスト風の心霊現象を起こす存在に対して、録音・録画で分析してみたり、敢えて信号を送りコミュニケーションを取ってみたりという部分がSF的。
ディーン・R・クーンツ「悪夢団(ナイトメア・ギャング)」は、暴虐無比の限りを尽くすギャング団、そのメンバーの一人がボスの秘密に迫ろうとする物語。売れっ子ホラー作家・クーンツの意外な初期作品です。

SFとホラーの両方を摂取し続けている私としては、このアンソロジーの続編や現代版も出て欲しいと願っています。

2018年6月2日土曜日

グロテスクな「戦時下」の女給失踪事件。待ち受ける悪夢の真相――飴村行『粘膜探偵』


今晩は、ミニキャッパー周平です。前回、記念すべき第100回を迎え一区切りがつきましたが、第4回ジャンプホラー小説大賞(6/30〆切)もまだまだ募集中ですし、更新もこれまで通り続きます。

という訳で、今回ご紹介するのは、飴村行『粘膜探偵』。


デビュー長編『粘膜人間』から始まり、長編『粘膜蜥蜴』『粘膜兄弟』『粘膜戦士』、短編集『粘膜戦士』と続いてきたこのシリーズ。その6年ぶりの最新刊です。シリーズものですが、本書は他の本を未読でも問題なく楽しめます。

太平洋戦争下の日本。十四歳の少年・須永鉄児は、特別少年警邏隊(トッケー隊)イ號区二班に所属し、禁制品所持の不良分子を摘発する日々を送っていた。鉄児が任務に力を入れ、トッケー隊で身を立てようとする理由は、軍国少年としての思いの他に、父親との確執があった。大学を追放された研究者である父親は、己の名誉回復のために鉄児を南方戦線へ連れて行こうとしていた。そんな折、鉄児は町で起きた女給の自殺事件に陰謀の匂いを嗅ぎつけ、捜査に乗り出すが…

と書くと、何やら昭和探偵小説めいて見えますが、(シリーズファンはご存じの通り)この日本は爬虫人の存在する平行世界。戦時国家らしい暴力と、現実にはあり得ない生物の生むスプラッターがブレンドされた、破格の怪奇幻想が展開します。キャラも一筋縄ではいかず、
無私の軍国少年かと思いきや、残虐で身勝手な素顔を隠し持ったトッケー隊員の久世。
鉄児の父に取り入って、須永邸で南方生物を用いた謎の研究を続けている軍人・武智大佐。
寝たきりであるはずが、夢遊病的に行動しては謎めいた言葉を呟く、鉄児の祖母・菊乃。
などなど、明らかに裏のあるヤバい人ばかり。そんな中にあって、グロテスクな爬虫人であり、須永家の使用人である影子(トカゲの「カゲ」から名づけられました)は、本心を偽ることができないという属性があり、それゆえに、「一族郎党引っ立てて片っ端から頭蓋骨を叩き割ってやりたいです」という発言とか、内に秘めた凶暴性がちょくちょく漏れ出てくるのですが、裏表のなさゆえに謎の愛嬌があります。

ミステリ的な伏線回収やどんでん返しもこのシリーズの見どころですが、女給の自殺事件の真相に鉄児が迫ってからのすさまじい勢いの伏線回収はやはり驚きに満ちており、そして名探偵ならざる鉄児は、真相が開示されるほどに窮地に追い詰められ、陰謀や殺戮に巻き込まれていくことになります。

『粘膜』シリーズでは、個人的に一番のお気に入りである『粘膜蜥蜴』(グロテスクの中に泣ける部分もあり)も、ほぼ同じ時代を舞台にしており、こちらも単体で読めますのでお勧めしておきます。

最後にCMを。ホラーとは全く関係ありませんが、編集を担当したライトノベル、魔物少女たちに人間の青年が「教師」として向かい合う学園ドラマ、『「まもの」の君に僕は「せんせい」と呼ばれたい』好評発売中です。

2018年5月26日土曜日

「貞子」を降臨させた伝説のシリーズ……鈴木光司『リング』『らせん』『ループ』


今晩は、ミニキャッパー周平です。二〇一五年から続いてきたこのホラー小説ブログ、遂にタイトルの「百物語」通りの、第百回目を迎えました。今回のテーマは、記念すべき回にふさわしく、九〇年代日本に爆発的なホラーブームをもたらした作品であり、日本のホラーアイコンとも呼ぶべき「貞子」を生み出したシリーズ、『リング』三部作をご紹介します!


小説に触れていない方は、「えーっと、アレでしょ、『リング』って呪いのビデオテープの話で、貞子がテレビ画面から出てくるやつ」という感じのイメージをお持ちかと思いますが、その理解は半分くらいしか合っていませんし(まず貞子はテレビ画面からは出てきません)、三部作全部読めば二十パーセントくらいしか合っていません。今回は『リング』『らせん』『ループ』の三冊を、それぞれ、後半のネタバレを伏せつつご紹介していきます。

第一作『リング』。
雑誌記者である浅川は、四人の若者が同日同時刻に心臓麻痺で死亡した、不可解な事件を追ううちに、若者たちが見た一本のビデオテープを手に入れる。浅川がこれを視聴したところ、具体・抽象織り混ぜた不気味な映像のラストに、「この映像を見た者は七日後に死ぬ、死にたくなければ今から言う通りにしろ」という警告文が残されていた。だが肝心の「死から逃れる方法」が残されるべき部分は、別の映像が上書きされて見られなくなっていた。
浅川は、七日間というデッドラインを背負いながら、呪いを解く方法を突き止めるため、友人である大学講師・高山竜司とともに映像の分析を開始する。やがて浮かび上がってきたのが、「山村貞子」という女の存在だった……。

後世にかなり影響を与えているだろうこともあり、「デジタル媒体を用いて忍び寄ってくる死の呪い」自体は現在では見慣れたものになっているものの、情感のある描写力によって、シーンの怖さはまだ失われていません。また、オカルト的な力の存在を前提にしているとはいえ、ビデオの映像の手がかりから「犯人」を炙り出していく過程は推理ものに近い面白さもありますし、超常的な力とある「病気」を絡めた論理のアクロバットには驚かされます。
 
第2作『らせん』。
医師である安藤は、とある人物の変死体の解剖中に、不可解な肉腫を発見する。他の病院でも、ここ数カ月の間に解剖された変死体の中に、同様な肉腫が発見されていることを知った安藤は、それらの不審死に伝染病を疑う。やがて安藤は、感染源を探るうちに『ビデオテープの呪い』に辿り着く。そこで、浅川や高山がいかに「貞子」の正体に辿り着いたか、その結果何が起こったかを知る。だが、安藤の周囲で起こっていた事件は、浅川や高山が発見したはずの「呪いの正体」とは矛盾するものだった。

『らせん』で驚愕させられるのは、まず「ビデオテープをみたら一週間後に死ぬ呪い」というオカルト的な解釈しかできなかったものを、「映像の視聴によって体内に『リングウィルス』が発生する」という設定を付け加えることによって、医学的なアプローチから解明しようとするバイオホラーになっていること。そして前作終盤で明かされたはずの、「ビデオテープの呪い」のシステムが全く別のものに変質しており、呪いへの対処法が役に立たなくなっていること。前作を読んでいる読者にこそ、「何が起きているのか」という謎に翻弄されることになるでしょう。一方で、最も「貞子」というキャラクターが前面に登場し、現実と虚構の壁を食い破って読者を恐怖させるのもこの一冊でしょう。最終的には貞子の存在が人類規模の災厄に繋がるという展開のスケール感にも呆然とさせられます。

さて、『リング』『らせん』は映画化されたので、ここまでの内容はまだご存じの方も多いと思いますが、三部作完結編『ループ』は、唯一映画化されていない一冊。

感染性ヒトガンウィルスによって、癌が流行し、終末的なムードが漂っている世界。医学生である馨は、父親が癌に侵され、想い人の息子も癌に侵されているという状況に、苦悩の日々を送っていた。馨は偶然、感染性ヒトガンウィルスの流行が、かつて父親も関与していた人工生命創造プロジェクト『ループ』と何らかの関わりを持っているらしいことを突き止める。『ループ』の実態を暴き、ヒトガンウィルス根治の手段を探ろうとする馨は、運命的な導きによって、アメリカのロスアラモス近郊へ向かう。

……ビデオテープの呪いは? 貞子は? リングウィルスは? 前作ラストで人類を襲ったはずの災厄の行方は? この物語がどうすれば『リング』『らせん』の続きになるのだろうか、と読者は驚きながら前半を読んでいくでしょう。時には難病小説のようであり、時には冒険小説のようであり、時にはSF小説のようであり、と様々に変化していく物語は、やがて、『リング』『らせん』との接続を明かしつつ、宇宙の構造の話になり、恐怖と絶望に満ちたホラー小説の最終章とは信じられないような、壮大で感動的なクライマックスを迎えます。

という訳で、日本を恐怖のどん底に叩き込んだ『リング』から、想像を絶する完結編『ループ』まで(このほか、短編集も一冊あります)。怖がりたい人は勿論のこと、「驚異」を味わいたい人も必読。第百回にふさわしいシリーズでした。

最後にCMを。時代を変えるようなホラー作品を書きたいという貴方には、絶賛募集中の第4回ジャンプホラー小説大賞をお勧めします!

2018年5月19日土曜日

クラスメート42人の殺し合い。デスゲームブームの発火点――高見広春『バトル・ロワイアル』


今晩は、ミニキャッパー周平です。いよいよ更新99回目を迎えたこのブログ。100回目にふさわしい作品が何なのかまだ決まっていませんが、99回目に合う作品を探すのにもかなり苦労していました。そこで最終的に、99年に発表されて大きなブームを読んだホラー作品をご紹介することに決めました。

という訳で、本日の一冊は、高見広春『バトル・ロワイアル』。



パラレルワールドの日本(国名は「大東亜共和国」)。準鎖国状態で、総統と呼ばれる指導者の独裁体制下にあるこの国では、法律によって毎年ランダムに選ばれた中学生のクラスが、特別な「プログラム」を受けることになっていた。それは、クラスメート全員を閉鎖環境下におき、最後の一人になるまで殺し合わせるというものだった。
ロック好きの少年・七原秋也の所属する黒岩中学校3年B組は、修学旅行に向かうバスから拉致され、瀬戸内海の孤島に運ばれ、「プログラム」に選ばれたことを告げられる。クラスメート四十二人が最後の一人になるまで殺し合わされる極限状況で、秋也は親友を真っ先に殺されながら、怪我を負った少女・典子を守ろうとする……彼は生き残ることができるのか?

同じ年に刊行された貴志祐介『クリムゾンの迷宮』とともに、後年の「デスゲーム」ジャンルの興隆を決定づけた作品。何しろ19年も前の作品なので、デスゲーム作品好きでも、本書を実際に読んだことのない若い人も結構いるのではないでしょうか。そういう方はぜひ手に取ってみてください。文庫版では500ページ×上下巻という大ボリュームですが、ノンストップで読むことができる驚異の作品ですし、後年の「デスゲームもの」に登場する様々な衝撃が、この時点で既にあらかた備わっていることが分かります。

裏切り、不審、色仕掛け、性的欲求、詐術、脱出作戦、恋心、不慮の死、ヒステリー、とにかく「中学生」が「殺し合う」というシチュエーションに置かれたとき発生し得るであろうすべての要素が盛り込まれています。生徒たちは、命の駆け引きの合間に、時には日常のささやかな恋を思い出したり、時には子供の頃のトラウマを反芻したりしつつも、感傷は死によって踏みつぶされ、物語はフルスロットルで進みます。積み上げた思いが一瞬報われたかと思いきや、あっけなく失われていく場面の切なさ・苦しさに読者は翻弄されます。殺戮に次ぐ殺戮で徐々に読者の感覚も麻痺してきた辺りに叩き込まれる、精神的にキツい死の連鎖も非常にエグく痛ましい。私の中では残り生存者数が二ケタから一ケタになるところが本書でもっとも強烈な印象を残した「死の風景」でした。

一切の感情無くクラスメートを虐殺していく殺人マシーン的な男子生徒とか、美貌と演技力を駆使して騙し殺していく女子生徒とか、脅威となる生徒たちのキャラクターも立っています。また、生徒達はランダムでそれぞれの武器を与えられているのですが(その中には、ナイフや銃器の他、意外な品物もあります)、武器のうち強力なものが、ゲームが進むにつれどんどんヤバい人間の手に渡っていくのもハラハラさせられます。

疑心暗鬼や欺きを数多描きつつも、最終的には「信じる」/「信じない」というテーマにのっとったドラマに帰着することも胸に刺さり、この作品が大量のフォロワーを生んだことも頷ける読後感となっています。

本書は、日本ホラー小説大賞の最終候補に残りながら受賞ならず、太田出版から刊行されたもの。一度はリジェクトされた作品が別の出版社から世に出され、ホラージャンルの、さらには小説の歴史を変えたという点、作家志望者には励まされる部分もあるのではないでしょうか。第4回ジャンプホラー小説大賞も絶賛募集中です。

さて、次回はいよいよ更新一〇〇回目です! 何を紹介すればいいのか誰か教えてください!