2018年3月3日土曜日

殺人鬼テーマのお化け屋敷、その呪いが降りかかる先は……『レスト・イン・ピース 6番目の殺人鬼』


今晩は、ミニキャッパー周平です。SFショートショート集、古橋秀之・矢吹健太朗『百万光年のちょっと先』重版かかりました! 皆様のご声援のお陰です。このタイミングでSF感想ブログも初めてはどうか、と人から言われましたが週に二本ブログ記事を書くのは死にそうなので辞退します。

さて、今回ご紹介します一冊は、雪富千晶紀『レスト・イン・ピース 6番目の殺人鬼』



大学生の越智友哉のもとに、中学校のクラス会の招待状が届く。クラス会に向かった友哉を出迎えたのは、なぜか沈鬱な面持ちの同窓生たちだった。不穏な空気が漂う中、メンバーの一人が倒れ、救急車で搬送されたが死亡を宣告される。困惑する友哉に、元彼女であったリカが告げたのは恐るべき内容だった。実は、彼らのクラスメートがここ数か月の間に、原因不明の呼吸困難によって六人も亡くなっており、クラス会はその対策を練るための会議だったというのだ。
連続死の原因について議論がなされるうちに浮上した仮説は、彼らが中学時代に探検した建物「殺人館」の呪いではないか、というものだった。「殺人館」は、アメリカの資産家によって、殺人鬼をモチーフにしたお化け屋敷に仕立てられた建物を、日本のテーマパーク内に移築したものであった。次々に同窓生の訃報が届くなか友哉たちは、生き残るため「殺人館」に仕掛けられた呪いの真実を知るべくアメリカに渡るが……?

帯にばばーんと「最凶のどんでん返し!」という文言が書かれている通り、本書はある瞬間に読者を驚愕させるために大小様々な伏線をこれでもかと張りまくり、大仕掛けを炸裂させることを追求した作品となっています。温かい人間関係が構築されていたはずの中学のクラスで起こっていた不審な事件、殺人鬼の研究者を訪ねて向かったアメリカで出くわす複数の不審な影、その間に日本で起こっていた惨劇の数々など、様々な局面に、「少しひっかかる部分」がちらつき、読んでいる最中には、「とてもこれは『呪い』だけでは説明がつかないのでは?」と思わされます。その不安が募り切った終盤に、一気にひっくり返され、「少し引っかかる部分」の全てが「メイントリック」に奉仕していたのだと気づかされると、名作ミステリを読み終えた時の衝撃に似た愉悦を感じさせられました。「日本」と「アメリカ」二か所を舞台にしていたのも、国を跨いだスケール感の演出のみならず、この企みのためだったのだと分かり唸らされます。真相を知った後から序盤・中盤を読み返すと、初読時とはまったく別の光景が見え、異なる感覚を味わわされること間違いありません。

ストーリーのカギとなる「殺人館」は、近代の殺人鬼五人――ジョン・ヘイ、ジョン・ゲイシー、エド・ゲイン、アイアン・ヒル、ヨーゼフ・メンゲレ(うち四人は実在の殺人鬼です)をモチーフにし、それぞれの犯行に纏わる展示をしているというおどろおどろしく悪趣味なものです。日本では不謹慎で絶対に開業できなさそうですが、作中の展示描写はいかにもこんなアトラクションがありそうだと思わされてしまう内容。しかし、この「殺人館」に実は「六人目」の殺人鬼の秘密も隠されており、六人目が何者なのか? という謎とその真相も、物語に驚きを生む要素の一つとなっています。また、「六人目の殺人鬼」周りのドラマは陰惨でありながら悲劇的で、越智たちのクラスで起きた事件以上に、「普通の人間」と「邪悪な存在」の圧倒的な隔たりを思い知らされ、心に棘を残す内容になっています。

メインの大仕掛けと、六人目の殺人鬼の正体。予想して謎解きに挑みながら読むもよし、「呪い」に追われるホラーとして友哉とともに翻弄されながら読むもよし、な一冊です。

最後にCMです。ジャンプホラー小説大賞銀賞受賞作2冊のうち、自分の編集担当本である『自殺幇女』の校了も間近。同じく銀賞の『散りゆく花の名を呼んで、』ともども3/19発売予定ですので、皆様どうぞよろしくお願いいたします!