今晩は、ミニキャッパー周平です。ずっと「私が衝撃を受けたホラー」として紹介したい漫画があって、けれどもホラー「小説」紹介ブログとしてのルールを遵守するために叶わなかったものがありました。この度その漫画が実写映画化されることになり、それに合わせてノベライズも刊行されました。
そう、「小説」になった今こそ大手を振って皆様にご紹介できるわけです。
と言うわけで、本日の一冊は、原作:押切蓮介、小説:黒史郎『小説 ミスミソウ』。
東京から過疎地の大津馬町に、家族とともに引っ越してきた中学生の少女・野咲春花。両親や妹と仲良く平穏に暮らしていたが、転入先の大津馬中学校では、よそ者を拒むクラスメイトたちから苛烈な虐めを受けていた。カラスの死骸を机に入れられる、私物を泥の中に捨てられる、などの陰湿な嫌がらせはエスカレートしていき、遂に春花の家への放火にまで及ぶ。その結果、両親は焼死し、妹は危篤状態に。ショックによって喋ることさえできなくなりながら、春花はクラスメイトへの復讐を決意し、凶器を手に、一人また一人と手にかけていく。
「いじめ」に対する「復讐」。ホラーサスペンスとしてはオーソドックスな題材ですが、そこに描かれる情念の濃さが比類ないものです。「もうすぐ廃校になる中学校」という、センチメンタルな青春小説さえ始まりそうな舞台は、しかし、田舎に暮らす少年少女たちの「どこへも行くことができない」思春期の鬱屈と閉塞感が濃縮された場所でもあり、悲しみの連鎖がそこに住む子供たちの心を歪ませ、エゴがぶつかり合い暴力が吹き荒れる地獄へと変わる。人が人を殺すとき、人体を破壊する感触が手に伝わってくるような生々しく臨場感のある描写も凄味があります。
春花の「復讐劇」も一直線に進んでいくことはできず、手痛い反撃を受けて身も心もボロボロになってしまいますし、表面上の人間関係からは想像がつかなかった、登場人物のドロドロした「奥底の感情」が暴かれる時、春花は衝撃とともに一層の苦しみを味わわされます。美しい情景が描かれる場面や、誰かと心が通じ合えたように見える場面など、希望の光めいたものが僅かに差し込んだかと思いきや、それは更なる暗黒と苦しみの前振りだった、という鬼のような構成も相まって、読者はガンガン心を削られていくでしょう。読みながら、「切なさ」などという生易しい言葉では説明できない、痛ましさと虚無感の嵐に目が潤んで来る一冊です。
小説版ももちろんのこと、登場人物が豹変した瞬間や、圧倒的な喪失感に襲われるラストシーンなどで「絵」の力をこれでもかと見せつけてくる、傑作漫画である原作版も必読です(9年前にはじめて読んだ時、読後ごっそり生気を持っていかれたことを今もはっきり覚えています)