今晩は、ミニキャッパー周平です。絶賛予約受付中、3/19発売の第3回ジャンプホラー小説大賞の2作品に、欅坂46の石森虹花さんからのコメントが届きましたのでぜひご覧ください。→(『自殺幇女』『散りゆく花の名を呼んで、』)
さて、3月といえば引っ越しシーズン、『住んではいけない物件』系ホラーにはぴったりの季節です。と言うわけで本日の一冊は、S・L・グレイ作、奥村章子訳『その部屋に、いる』。
南アフリカ・ケープタウンに住むマークとステファニーの夫婦は、家に強盗に押し入られたことがトラウマとなり、防犯装置を家に張り巡らせても安眠できない、ノイローゼ気味の生活を送っていた。そんなおり、他人と短期間だけ家を交換して生活する『ハウススワップ』のサービスを知り、気分転換も兼ねてパリの家に一週間滞在することになる。
だが、彼らがたどり着いたパリのアパルトメントは何十年も前に時が止まったように荒れ果てており、血痕や怪しい日記など、かつて何かの事件が起こったような痕跡が残されていた。さらに、上階に住む老女は「ここにいてはいけない」と言葉少なに警告する。こうして、帰りの飛行機がくる一週間後まで、夫妻は不審な部屋に怯えながら暮らすことになる。更に、マークはとある少女の幻影にも悩まされ始める。それは、マークと前妻の間に生まれたものの、不慮の事故で亡くなった娘の姿をしていた……
だが、彼らがたどり着いたパリのアパルトメントは何十年も前に時が止まったように荒れ果てており、血痕や怪しい日記など、かつて何かの事件が起こったような痕跡が残されていた。さらに、上階に住む老女は「ここにいてはいけない」と言葉少なに警告する。こうして、帰りの飛行機がくる一週間後まで、夫妻は不審な部屋に怯えながら暮らすことになる。更に、マークはとある少女の幻影にも悩まされ始める。それは、マークと前妻の間に生まれたものの、不慮の事故で亡くなった娘の姿をしていた……
作者名はS・L・グレイとなっていますが、実はサラ・ロッツとルイス・グリーンバーグという二人の作家による共同ペンネーム。本書は妻・ステファニー視点の章と夫・マーク視点の章が交互に書かれる形式をとっており、これは著者二人がそれぞれの語りを担当したということなのでしょう。夫サイドが現在進行形での語りなのに、妻サイドは未来視点から過去を悔やみつつ回想している語りになっている、ということに、不吉さと、悲劇の到来を、予感させられながら読むことになります。
アパルトメント内で、何かの目的のために集められたらしい大量の髪の毛が見つかったりするなど不気味な事態が進行していくのと同時に、夫と妻がどちらも隠し事をしているため、徐々に相手への猜疑心を募らせていくプロットも見事です。「霊や化物的な存在を目撃してしまったが、そのことを伝えたら正気を疑われてしまう、だからこのことは伏せておこう」そんな判断で挙動不審になり、結果、疑心暗鬼によって二人の間に嫌なわだかまりが積もっていく。それが夫婦を断絶と決定的な破局へ導いていくのです。亡くなった前妻との子・ゾーイへの未練と、現在の妻ステファニーとの子・ヘイデンへの愛情、その板挟みになるマークの苦しみは痛切であり、「死者」に抗えず選択を誤ってしまう場面には、恐れや嫌悪感とともに、共感も抱いてしまいます。
ところで世の読者には、幽霊屋敷ホラーに対して「引っ越して逃げればいいのでは?」という突っ込みを入れる人もいるかと思いますが、それに対して本書はまず「異国でお金がなく他のところに泊まることもできない」という状況設定で答えます。そしてパリのアパルトマンからケープタウンの我が家に逃げ戻ったところで、既に夫婦を取り巻いていた怪異が消え去ることはなく……幽霊屋敷に憑かれた人間は、存在そのものが幽霊屋敷を感染させる媒体になってしまっているのかも知れない。そんな発想の日本ホラーも連想させる一冊でした。
(CM)第4回ジャンプホラー小説大賞絶賛原稿募集中。応募締め切りは6月末です。