こんばんは、ミニキャッパー周平です。夜食を買いに会社の外へ出たら、危うく引き返しそうになるくらいの強烈な寒さでした。ついこの間まで夏だったはずなのに、秋はどこへ行ってしまったのでしょうか、完全に冬です。
冬だからこそ、温かくなるような本を読みたいものですが、今回取り上げます本は、少々熱量の度が過ぎているようで――というわけで、本日のテーマはステファン・グラビンスキ『火の書』。
ポーランドの怪奇幻想作家が1922年に刊行した作品集を元に一編をさしかえ、インタビューなども収録した本なのですが……炎をイメージした真っ赤な表紙に、焦げ跡のような黒ずんだ手形がついているという、造本からして燃え盛る火属性のオーラを纏った一冊となっています。帯には『炎躍る、血が沸き立つ。』と大きく書かれており、書店で見かけるとビビるほどの存在感です。そして収録されている短編9編は、いずれも火や煙に関する恐怖、狂気、強迫観念を題材にしているという超コンセプチュアルな本なのです。
たとえば、冒頭の短編「赤いマグダ」は、消防士が主人公なのですが、彼の娘は「勤める場所すべてで原因不明の火災が起きてしまう」というジンクスを負っており、主人公は、火から人々を守るべき消防士としての立場と、娘を想う父親としての立場の板挟みになります。
同じく消防士ものである「四大精霊の復讐」の主人公は、火事を研究し続けた結果、火に対する魔法じみた耐性をもつに至った消防本部長。荒れ狂う火災現場でも火傷を負わず生還し続けるヒーローとして活躍していたものの、やがて炎そのものからの復讐に遭い……。
この二編に限らず、火という得体の知れない存在が、人間のまっとうな営みを飲み込み、食い散らしていく様が描かれます。「火事場」は、誰が家を建てても火災で燃え落ちてしまうといういわくつきの丘に新居を建てた家族の末路。「炎の結婚式」は、火災現場でしか性的興奮を満たせない男の悲劇。「ゲブルたち」は、精神病院内で誕生した、火を崇拝する宗教団体が行った、狂騒的な儀式の顛末。「煉獄の魂の博物館」は、霊が出現したとされる場所に残された焦げ跡を収集する、風変わりな司祭の数奇な運命。……多くの作品が、致命的な結末に至るであろう予兆をはじめからみなぎらせていて、やがて業火に焼かれるか、炎のごとく暴力的な破壊に襲われて劇的に幕を閉じる。その中で繰り返し登場する火や火災や煙は、獰猛かつ神秘的に描かれており、人間を惑わして狂気へ導く生命、人類を陥れる悪魔そのもののように見えます。火に酔う、あるいは火に憑かれる登場人物たちに引きずられるように、一気に読むと熱病にかかったかのごとく、くらくらしてしまいそうです。
煙突掃除人が恐怖体験を語る「白いメガネザル」、かまどの火が燃える傍での悪夢の一夜を描く「有毒ガス」など、火の暴力性が直接描写される訳ではない短編でも、火炎の周辺に潜むまがまがしい何者かの存在を感じさせられます。唯一、火のもつ幻想性を、暴力以上に美しさに振り向けた「花火師」はメルヘンチックな作品で、達人と呼ぶべき技術をもつ花火職人の情熱的な一生を描いており、これはロマンスのアンソロジーに入れてもよい一編です。
火への恐怖と畏怖と陶酔をふんだんに詰め込み、人間の根源的な感覚に訴える、まさしく『火の書』という題名にふさわしい、荒々しくも誌的な一冊です。冬の寒さも忘れるような本ですが、火事の多い季節ですので、皆様どうぞ火の用心をなさってください。
(CM)私が担当した作品2冊、白骨死体となった美少女探偵が謎を解く『たとえあなたが骨になっても』、自殺志願者をあの世へ送るデートクラブを描く『この世で最後のデートをきみと』をどうぞよろしくお願いします。そして第4回ジャンプホラー小説大賞へのご応募もお待ちしております。
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