2017年4月1日土曜日

レビューを書くのさえ怖くなる、ホラー作家の内幕小説『恐怖小説キリカ』

今晩は。ミニキャッパー周平です。絶賛募集中の第3回ジャンプホラー小説大賞の〆切まであと3ヵ月となりました。規定のページ数は上限118枚(40字×32行)という分量であり、今からでも遅くはない(はず)ですので、ぜひぜひ、作品をご執筆・ご投稿下さい。第1回受賞者(『少女断罪』『この世で最後のデートをきみと』)、第2回受賞者(『先輩が骨になった』『舌の上の君』)に続き、次にデビューするのは貴方かも知れません。

という訳で、今回は、とあるホラー作家のデビューを描きつつ、読者にとびきりの恐怖をぶつけてくるアクロバティックなホラー、澤村伊智『恐怖小説キリカ』をご紹介します。




香川隼樹は、自身の書き上げたホラー長編『ぼぎわん』でホラー小説賞を受賞。「澤村伊智」のペンネームで晴れてデビューする運びとなり、受賞作の刊行に向けて編集者と打ち合わせを始める。だが順風満帆に見えた彼の生活は、「人間として真っ当な生活を送っている者は作家になれない」という妄執を抱える、小説サークルの仲間によって壊されていく。その魔手は愛する妻・霧香にまで迫り、香川は必死の抵抗をするが……。

……というあらすじで説明できるのは前半まで。ここまででも、歪んだ創作論を振りかざして主人公を追い込んでいくストーカーの恐怖は十分におぞましいですが、中盤で物語はがらりと様相を変えます。読者が感じていた名状しがたい違和感の正体が暴かれ、そこから、ある種のモンスターが暴虐の限りを尽くすジェットコースター的展開が待っているのです。そこで発露される暴力の数々は理不尽で残酷なものなのですが、しかし読み手によっては、無上の爽快感さえ覚えてしまうという、アンヴィバレントな体験をすることになるでしょう。

フィクションとノンフィクションの境界を曖昧にする、疑似ドキュメンタリー形式も特筆すべき点です。物語のメインキャラクターは作者・澤村伊智自身、作中で出版される作品群もそのキャリアをなぞり、登場する出版社も実名、編集者との改稿打ち合わせも具体的に描かれ、ホラー賞審査員の作家らも実名で登場――といった具合。

それにより、どこまでが実際にあったこと・実在の人物で、どこからが作りごとなのか、まるで精巧な騙し絵のように区別がつかなくなり、読者はやがて、現実と虚構の壁を食い破る魔物に怯えることになるでしょう。最後の最後まで作者の企みが貫かれており、私は「最後の一文」を読んだとき、「一見したところ普通だが、この物語のラストに置かれたときとても禍々しいものになる」そんな文章に、思わず声を上げてしまいました。

私は未だに、こうして『恐怖小説キリカ』の感想を書くのには少々恐怖を感じており、もしこのブログの更新が今回で止まったら、この本が原因だと思います。何とか無事に来週を迎えたいものです。



(CM) 第2回受賞作の二本、『たとえあなたが骨になっても』(『先輩が骨になった』改題)、『舌の上の君』は、出版へ向けて現在絶賛校正作業中。発売日が決まったら告知致します!)