今晩は、ミニキャッパー周平です。第5回ジャンプホラー小説大賞〆切は6月末。応募者の皆さんは最後の追い込み頑張ってください。第4回の金賞受賞作『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ』は6月19日発売。同時発売の東山彰良先生の『DEVIL‘S DOOR』とともにぜひよろしくお願いいたします!
さて本日の一冊は、ジョン・メトカーフ『死者の饗宴』。
こちらは、以前ご紹介したマイクル・ビショップ『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』と同じく、知られざる傑作や埋もれた異色作を再発掘するという全10巻のシリーズ『ドーキー・アーカイヴ』のうち一冊。メトカーフは1891年イギリス生まれ、第一次世界大戦に従軍し、終戦後から小説を書き始め1965年に亡くなったものの、怪奇小説集が初めて纏められたのは1998年カナダで(それも少部数出版)という、英米でも半ば忘れられた作家とのこと。この辺、ほぼ巻末解説の受け売りです。
そのメトカーフの中短編から全8編を選んで日本で独自にまとめたのがこの一冊です。
「悪夢のジャック」はビルマ(現ミャンマー)の奥地から宝石を盗み出した男たちに降りかかる奇妙な“呪い”について、「ふたりの提督」は、存在しないはずの島を目指した航海について描いています。どちらも予想外の捻くれた結末が待ち構えています。
「悪い土地」は、療養に訪れた土地で、散歩へ出かけた折に忌まわしい場所を見つける……という内容、「ブレナーの息子」は、かつての上官の子供が突然家に押しかけてきたが、とんだ悪ガキである上に挙動不審で……という内容。いずれも起きている現象の原因が外部にあるのか、語り手の狂気の中にあるか明言されず、読者を翻弄します。
「永代保有」「死者の饗宴」は長めの作品。「永代保有」はハネムーンの川下りの最中に出現した死者の舟、「死者の饗宴」はフランスの古い館に滞在していた少年にとりついた古き存在、が悪夢を引き起こします。予めほのめかされた悲劇的な展開――登場人物のうちの一人がこの世ならぬものに引きずられていってしまう――へ向けてじわじわと外堀を埋めていく手法に、語り手の無力感と焦燥は読者にも強く伝わってきます。
私が好きな作品のひとつ「時限信管」は、交霊会を扱っています。下宿を経営する女性は、交霊会に参加してからというもの、超常現象の存在をすっかり信じ込んでしまっていて、自分にも超常の力が手に入ることを願っています。一方で下宿人たちは交霊会で起きた怪奇現象についてペテンではないかという疑いの目を向けています。そのすれ違いが交霊会で決定的な事件を生み出してしまい……見事な構成に唸らされます。
最も推したい作品は「煙をあげる脚」。マッドサイエンティストならぬマッドドクターの気まぐれによって、足を改造手術されてしまった船員の災難を描いています。どういう風に改造されてしまったのかはタイトルからお察しという感じですが、そういう船員が果敢に船に乗り込んでは次々悲劇を起こしていく、その恐るべき過程がいっそ滑稽で笑えます。
「煙をあげる脚」は若島正編のアンソロジー『棄ててきた女』にも収録された一編ですが、『棄ててきた女』も(ホラー限定ではないですが)ヘンテコな発想の作品に満ちた名アンソロジーなのでおススメです。