2019年4月6日土曜日

「橋」はこの世とあの世を繋ぐ……中野京子『怖い橋の物語』


今晩は、ミニキャッパー周平です。平成最後の一カ月をみなさんいかがお過ごしでしょうか。思えば“平成”の時代は、『学校の怪談』ブームや『リング』のヒットに代表されるJホラーの潮流など、日本のホラーが盛り上がった年月でした。“令和”の時代にもたくさんのホラーを送り出していけるよう、努力したいものです。さて、今回ご紹介するのはホラー“小説”ではありません。

本日の一冊は、中野京子『怖い橋の物語』。



著者は、名画を恐怖の視点から解説・鑑賞する『怖い絵』シリーズで知られる人。本書は同シリーズのテーマを絵画から“橋”に変えたような一冊で、古今東西の史実・伝承・フィクションの“橋”にまつわるエピソード、全55話を紹介していく異色の本です。奇・驚・史・情の4章に分かれており、ホラー寄りのエピソードはほぼ“奇”の章に集中しています。

“悪魔が造り、その代価に魂を要求した”という伝承の残るスイスの橋。
スコットランドに実在する、なぜか犬が次々に水面に飛び込んで死ぬ橋。
三島由紀夫の短編に描かれた、女性たちが願いを叶えるためのまじないを行った橋。
『今昔物語』で語られた、武士が肝試しをした、鬼の住まう橋。
このように、橋という存在の魔術的な意味を感じざるを得ない話が次々に繰り出されます。
圧巻は「死者専用の橋」の項で、死者があの世へ渡るための橋について多数紹介されています。長くなりますが引用してみます。

ゾロアスター教におけるチンバッド橋(審判者の橋)は、罪の大小によって幅が広くなったり狭くなったりと伸縮自在。マホメット教におけるアル・シラト橋(細長い橋)は剣のごとく尖り、両側は茨の棘で覆われている。ユダヤ教の場合、罪深い偶像崇拝者は糸より細い橋を渡らねばならない。これらはどれも、落ちた先には極熱地獄が待っている。
ネイティヴ・アメリカンのヒューロン族は、死の川に架かる丸太橋について語り伝える。そこには番犬がいて飛びかかってくるので、死者の多くは橋からころげ落ちてしまう。マレーシアには巨大な鉄釜に架かる橋、ニューギニアには蛇でできた橋と、人間の想像力は逞しい。(p58)

世界中に、橋で死後の世界に渡るイメージが分布していることにも、そのバリエーションがこれだけ豊富なことにも驚きですし、著者の博識にも驚かされます。
この「死者専用の橋」の項には、三途の川についての解説もあります。現代の日本では三途の川を船で渡る伝承がよく知られていますが、実はそれは平安末期に形成された考えらしく、それ以前には三途の川に橋が架かっているイメージだったそうです。それは“三途”の語源に関わっていて……なんていう話も初めて知りました。
“奇”以外の章に紹介されているエピソードでも、ゴールデン・ゲート・ブリッジの飛び降り自殺をテーマにした映画、さらし首の骨が150年も残っていた橋、生きた人間用ではなく鎮魂のために作られた橋、橋と結婚した女などなど、興味をそそられる話が満載。

本書を読み終わった後は、“橋”が日常と異界を繋ぐ場所だというイメージが刷り込まれ、通勤通学などで普段渡っている“橋”にも不思議な感慨を覚えること必至でしょう。