2018年11月17日土曜日

砂漠に眠る漆黒の遺跡――福士俊哉『黒いピラミッド』

今晩は、ミニキャッパー周平です。子供のころ特に怖かったオカルトネタで「ツタンカーメンの呪い」がありました。ツタンカーメンの墳墓の発掘に携わった人々が相次いで変死した――という内容ですが、実の所「呪いによる変死」は、当時のメディアによる捏造だったというのが、今では定説となっています。古代のロマンが「恐怖」をも生むというのは昔からのようです。エジプトネタのホラー小説といえば、以前に1903年出版のブラム・ストーカー作『七つ星の宝石』をご紹介したことがありましたが、今回は2018年に出版されたてホヤホヤの作品を。

という訳で、本日の一冊は福士俊哉『黒いピラミッド』。


聖東大学の古代エジプト研究室に所属する講師・二宮智生は、教え子の佐倉麻衣とともにエジプトに滞在していたが、二宮がある遺物を手に入れた直後、麻衣が真っ黒なピラミッドを幻視し、変死を遂げた。日本に戻った二宮は大学から解雇され、自らも奇妙な幻覚に遭遇する。やがて、被り物をしアヌビス神と化した二宮は、研究室を襲撃して教授の高城を殺害。更に飛び降り自殺を遂げた。

研究室関係者が次々と亡くなる惨事に、講師である日下美羽は調査に乗り出し、二宮が遺跡から持ち出した「アンク」と呼ばれる遺物が原因であることを突き止める。アンクに近付いた者は呪いによって、暗黒のピラミッドを目撃し、古代エジプトの神々に操られて死んでいくのだ。アンクをあるべき場所に戻し、呪いの連鎖を終わらせるため美羽はエジプトへ向かう。しかし、アンクは20世紀初頭にエジプトを訪れたイギリス人貿易商・マーロウ卿の発掘によって見つけ出されたものだった。100年も前の知られざる発掘現場を見つけ出すため、美羽は、サッカラ遺跡、エジプト考古学博物館、アレキサンドリア、ファイユームと、エジプトじゅうを駆け巡ることになる――

先週ご紹介した『祭火小夜の後悔』とともに日本ホラー小説大賞の最後の大賞受賞となったこの一冊。あらすじをご覧いただければお分かりかと思いますが、前半は目まぐるしいほどの速度で登場人物が斃れていく日本的な「呪い」系ホラー、後半はアンクのルーツをさぐるエジプト探索ものという、がらりと雰囲気の変わる作品になっています。後半、現地の人々や発掘現場などの、いきいきとした描写のディテールは、読んでいるうちにエジプトに行ってみたくなります。思わず著者略歴を確認したところ、著者は実際にエジプト調査隊に参加したり、エジプト関連のテレビ番組や展覧会などの演出にも携わったことのあるエジプトのプロとのこと。ストーリーの終盤では、アンクや黒いピラミッドのみならず、謎めいた異形の神々の正体にも焦点が当たり、単なる「呪い」にとどまらないスケール感をのぞかせます。古代エジプトのロマンと恐怖に心震わせていた子供の頃の自分に教えてあげたい一冊です。