こんばんは、ミニキャッパー周平です。JブックスのHPでお伝えした通り、第4回ジャンプホラー小説大賞は初の金賞受賞が出ました! 現在書籍化へ向け準備中です。そして第5回ジャンプホラー小説大賞も募集開始となっています。デビューを目指すみなさん、2019年6月末の〆切を目指して頑張ってください!
さて、本日ご紹介する一冊は、真っ赤な表紙が書店で目に入った、篠たまき『人喰観音』。
(恐らくは)明治ごろ。薬種問屋の長男として生まれながら、病弱なため若くして家の離れに住まい、隠居同然の生活をしていた蒼一郎。川原に打ち上げられた女・スイを家へ招いたことが彼の運命を変えてしまう。商人から聞いた話によれば、スイはもともと川上の村に住んでおり、災厄を言い当て、病気や怪我を予言し、託宣を行うという「生き神様」として崇められていたが、ゆえあって人柱として川に流されたのだという。蒼一郎は、スイの託宣の力に頼って実家を盛り立て、スイと使用人・律との三人で、平穏に暮らしていた。しかし蒼一郎が年を重ね老いても、スイは昔のままの姿で年を取る気配もない。その差に蒼一郎が苦しみを覚え始めたころ、彼らを取り巻く怨憎が狂気を呼び寄せる――と、ここまでが一章「隠居屋敷」。
二章「飴色聖母」では、蒼一郎の死後、スイが泰輔という男とともに屋敷で暮らす生活が、奉公人である奈江の視点から語られますが、そのころには村の人々から「スイが人の肝を喰っている」と陰で噂されるようになっています。三章「白濁病棟」では、幼い日に暴行を受けたことで心を壊し、座敷牢に閉じ込められた女・凛子が、座敷牢で出会ったスイの力を借りて復讐を遂げようとします。そして四章「藍色御殿」では凛子の妹・琴乃が、姉が変貌した原因を追ううちに、スイと姉によるおぞましい所業を知ります。
本書の最大の見どころは、一編ごとに徐々に時代が下り、現代に近付いていくにつれてスイの存在が、「生き神様」から禍々しいものに変化していくという点です。「年を取らない」「予言や託宣を行い的中させる」などの超常的な力を持ちながらも、あくまで純粋無垢な存在であり、観音様などと呼ばれていた彼女が、周囲にいた人間の嫉妬や羨望という業を背負っていったせいでどんどん物の怪になり果て、死と不幸とメリーバッドエンドをばらまく存在になってしまう。どこか舌ったらずの口調の彼女の喋りは、物語の序盤ではただの子どもっぽさに聞こえますが、終盤ではひどく不気味なものに響きます。作品タイトルで何が起きるのかは薄々みなさんお気づきかもしれませんが、「その」描写のおぞましい美しさや、「それ」を効率的に成し遂げる手段の心理的なエグさなどなど、様々、読者の想像を上回るでしょう。
中盤以降では村の美しい自然が描写されるたびにその背後に積み重なった死が連想され、坂口安吾の「桜の森の満開の下」の強化バージョンともいえる凄絶さを感じませます。あたかもボーイミーツガールのように始まりながら、暗い情念によって紡がれていくおぞましく美しい年代記。読み終えた方はきっと、真っ赤な表紙をつい見返してしまうことでしょう。