2018年10月27日土曜日

幽霊の死体、幽霊誘拐……奇妙な事件に挑む「呪われた心霊科医」。岩城裕明『呪いに首はありますか』


お久しぶりです、ミニキャッパー周平です。第4回ジャンプホラー小説大賞の結果が10月29日付の週刊少年ジャンプ48号で発表となります。そして第5回の募集開始も間もなく。という訳で、土曜深夜2時のホラー小説紹介ブログ「ミニキャッパー周平の物語」再開です! 最終更新の6月以来、現在まで様々な注目のホラーが登場していますので、ガンガンご紹介してブランクを埋めていきたいと思います。

本日ご紹介する一冊は、岩城裕明『呪いに首はありますか』。見た瞬間にぎょっとさせられる(目が六つある異形の顔がどアップ)表紙ですが、中身はそれとは裏腹に、しっとりしたムードの作品になっています。





事故物件である病院の建物を借りて、「心霊科医」として霊現象関連のトラブルを解決する男、久那納恵介(くななん・けいすけ)。彼がその仕事を選んだのには、のっぴきならない理由があった。
恵介の家系には、いつからか、「長子は三〇歳の誕生日を迎える前に必ず死ぬ」という正体不明の呪いがかけられていた。彼の先代もその先代も、呪いによって死んだ。現在二八歳である恵介は、このままいけば二年以内に死を迎えることになる。それを回避する唯一の方法が、霊にまつわる事件を解決し、その霊の思念を彼に憑りついた呪いである「墓麿(はかまろ)」に与え続けて、呪いを解くというものだったのだ。しかし、霊現象に挑むとはいえ、恵介自身は霊能力はもっていないので、霊を見ることのできる者、つまり呪いである墓麿の力を借りていくことになる……。

心霊探偵ものとはいえかなりの変わり種で、たとえば第一話「どうして幽霊は服を着ているのですか?」で取り上げられる事件は、「家の中に『幽霊の死体』がある」という奇妙なものですし、第2話「身代金の相場を教えてください」で持ち込まれる相談は、「死んだ娘の幽霊と一緒に暮らしていたが、その幽霊が『誘拐』されたので探して欲しい」という、更に奇想天外なものです。そういった、単なる霊現象や祟り以上に異様な事態を探っていくうち、霊の「生態」とも呼ぶべきものが明らかになっていき、ストンと腑に落ちる解決が訪れる。
第2話のように切ない余韻をもたらすものもあれば、夫婦関係に霊が割り込んでくる第3話「結婚してから彼が変わったように思います」のように不気味な後味を残すものもありますが、「物凄く変わった外面から、非常に明瞭な内幕が提示される」ことの意外性に快感を覚えます。

第4話「犬も幽霊になるのでしょうか?」では、散歩中に飼い主ともども死んでしまった「犬」の霊の奇天烈な外見(血が出てるとか内臓がはみ出ているとかそういう次元の話ではない)にのけぞってしまいますが、その心残りと成仏のさせ方には健気で泣かせるものがあります。
そして「三〇歳までに死んでしまう呪いを解くために事件を解決していく」のに「呪いである墓麿をパートナーとして仕事している」というねじれが、クライマックスの第5話にて重大な意味をもってきます。静かで淡々としているのに感情を掻き立てる感動的な終盤が待っています。外側からは絶対に想像できない中身の物語、表紙で怖気づいてしまった人も改めて手に取ってみてはいかがでしょうか。