こんばんは、ミニキャッパー周平です。昔からアンソロジーに目がなく、ホラーアンソロジーとなれば放っておかない私ですが(一番のお勧めは以前ここでご紹介した『異形の白昼』)、今年出たホラーアンソロジーをまだ取り上げていなかったので年末に駆け込みでご紹介。
という訳で、本日の一冊は『だから見るなといったのに ―9つの奇妙な物語―』。雑誌『小説新潮』に発表された作品を集めたホラー色の強いアンソロジーと
なります。
まず私の一番のお気に入りは、澤村伊智「高速怪談」。関東から関西への帰省のために、6人が乗用車に相乗り。車内での話題は怪談話に寄っていき、それぞれが自らの知る怪異を語るうち、車内にも不穏な空気が流れ始める。百物語のような怪談語りを、高速道路走行中の車内という「危険な密室状況」で行うという設定が巧みですし、短い作品内で手を変え品を変え、何度も驚きや恐怖を与える作者の手腕に脱帽です。
怖さの強い作品で言えばもう一つ、芹沢央「妄言」。若夫婦の近所に住む親切そうなおばさんが、妻に夫の浮気という“根も葉もない”噂を吹き込むようになり……という不気味な展開と鮮やかな結末で、いわくいいがたい恐怖を残す名短編です。これは以前ご紹介した連作短編集『火のない所に煙は』にも収録されています。
幻想色を前面に出した作品では、前川知大「ヤブ蚊と母の血」が出色。母が蒸発し、父と二人暮らしをしている少年が、母の遺した家庭菜園で育てた野菜で、すくすくと成長していく。父からも愛情を受けられなくなった少年の、失った母への憧憬、やるせない思いが静かに描かれ、ラストシーンは残酷なのに美しいです。
葬儀の場で、三十七年に一度だけ行われるという奇祭で起こった惨事の中身が断片的に語られる、恩田陸「あまりりす」。幼少期から人の死に纏わる虫の知らせ・前兆を感じてきたと語る男の信用できない話、海猫沢めろん「破落戸(ごろつき)の話」。置屋の女性に恋をした男が、あの店の女と恋仲になると死ぬ、と警告されるファムファタルもの、織森きょうや「とわの家の女」。新居で見つけた霊らしき存在が自分を名乗り、奇妙な対話が始まる、小林泰三「自分霊」。後ろに何かの気配を感じる不安を結晶化したイラストストーリー、さやか「うしろの、正面」。以上は全て広義のホラー作品。
双子の兄を持つ弟が、戦火の頃に自身の出生の秘密を知る、北村薫「誕生日 アニヴェルセール」のみ広義のミステリとなっています。
一編を除いて現代劇であり、普通の生活をしていた人がふとしたことで日常から外れた恐怖体験をすることになる、という内容のものが多いため、“短時間でさらりと読めて不安になる”物語の詰まった一冊です。通勤通学などの隙間時間にもどうぞ。