今晩は、ミニキャッパー周平です。2017年も残すところわずか、今年最後のブログ更新となります。改めてになりますが、このブログは、面白いホラーを紹介しジャンプホラー小説大賞を宣伝しつつ、新人賞受賞を目指す方へのヒントにもして欲しいという願いのもと、続けています。そこで今回は、ジャンプJブックス編集部ともゆかりの深い、「新人賞受賞作」――第6回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞を受賞作をご紹介したいと思います。
本日のお題は、第6回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞を受賞した、乙一『夏と花火と私の死体』です。
夏休み。小学三年生の五月は、同級生である弥生と、その二歳年上の兄・健と、今日も仲良く遊びまわっていた。しかし、些細なことをきっかけに、五月は弥生の手によって木の枝から突き落とされ、殺害されてしまう。健と弥生は、五月の死体を遺棄して、近辺で起こっている連続誘拐事件犯人の仕業に見せかけるべく奔走するが……
ほのぼのとしたノスタルジックな夏休みの光景、子供たちのほのかな恋愛感情をめぐる微笑ましいやりとりから、一瞬で転調し、「殺人者とその兄が死体を隠す」というサスペンスフルなものに激変するプロット。主人公である五月が、死者となってからも語り手であることをやめず、死体の始末に右往左往する兄妹の姿をつぶさに語っていく、という異様な形式。その二つの衝撃で、序盤から心を鷲掴みにされます。
中盤は、様々なシチュエーションで、死体を隠していることが危うくバレそうになったる「ドキドキさせられる」シーンに溢れています。そこを小学生ふたりに可能な限りの機転で、警官や大人たちを欺いて切り抜けたり、あるいはまったくの偶然や幸運で難を逃れたりと、手に汗握る内容が続きます。私は中でも、「死体を押入れの中に隠した状況で、母親や来客が部屋に来る」というシーン(死体の一部がひょっこりはみ出たりします)の綱渡り的な恐ろしさ、「死体が足元にある状況で五月の母親と話をする」という場面の、理性を失いそうな異常な緊迫感が印象に残っています。
そして「死体を、発見されないような穴に落とす」という最終目標を立てて行動する二人の行く先に待ち構えているのは、巧妙な伏線を生かしたショッキングなラスト。この作品は言わずとしれた名匠・乙一のデビュー作ですが、再読するたびに改めて、弱冠16歳で書いたものであることに驚かされます。
短編「優子」も同時収録。こちらは第二次大戦後すぐ、とある旧家の使用人が、決して部屋から出てこようとしない女性に疑いを抱くことから始まる、どんでん返しの見事な一本です。
ホラーファンの方には当然ながらお勧めですが、小説新人賞の受賞を目指す方は、ぜひ一度本書を読んでいただき、「序盤で心を掴む」「中盤で読者を楽しませる」「ラストで衝撃を与える」技術を堪能し、吸収してください。