今晩は、ミニキャッパー周平です。いよいよ今年も残すところ1週間ほど。冬休みも近づいてきた頃合いです。そこで今回は、(最近、コンパクトな本をしばらくご紹介してきたこともあるので)ハードカバーで厚めのホラー本をご紹介したいと思います。
本日の一冊は、マイクル・ビショップ作/小野田和子訳『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』です。
夫に先立たれ、子供二人を女手一つで育てている女性、スティーヴィ・クライの職業はライター。いずれは自分の書いた記事をまとめて一冊の本にし、ベストセラーにすることを目標にしつつ、執筆に励んでいる。しかしある日、生前の夫からプレゼントされたタイプライターが故障してしまう。修理人に直してもらったものの、それ以来、タイプライターが自らの意思を持ったかのように、勝手に文章を打ち始めるようになった。ひとりでに打ち出される内容は、スティーヴィの見た悪夢の中身や、家族に纏わる不吉な予言など、心をかき乱すものばかり。タイプライターに起きた異変の原因を修理人のせいだと考えたスティーヴィだったが、事態の解決を図る中でも、徐々に日常は侵食されていく……。
本書はホラー的な見せ場を含みつつ、小説内小説が物語の根幹にかかわっているメタ・ホラーでもあります。細かく章を区切られた物語の中に、「タイプライターが書いた、スティーヴィを主人公にした物語」の章が紛れ込んでいて、作中の「現実」と「虚構」の見分けが徐々につきにくくなっていく、という仕掛けなのです。どういうことかと言うと……とある章で、スティーヴィの娘が寝室で苦しみ始めてうわ言を口にし、彼女の毛布の下には恐ろしい光景が――みたいな場面が書かれるのですが、次の章で、前の章が丸々「タイプライターの書いた原稿」であり実際には起きなかったことだと判明する、といった具合。ストーリーの後半では、「この先の章」の内容が書かれた文章を登場人物たちが手に入れ、「先の展開を知りつつ」行動する、などという更にトリッキーな箇所もあります。
そんな複雑怪奇な物語構造になっている上に、主人公であるスティーヴィ自身、実際に起きたこととそうでないことの区別ができなくなり、家族や友人から不審な目で見られ始め、心理サスペンスの様相を呈してきます。スティーヴィの日常にぬるりと入り込んで来る修理人の薄気味悪さや、修理人が飼っている猿の忌まわしさなども、彼女を神経質にさせ、恐怖させるに十分ですが、やはり一番恐ろしいのは、作中で一番キャラが立っているとさえ言える、自ら文章を紡ぐようになったタイプライターの存在でしょう。スティーヴィの夫の死の真相を仄めかしては話題を逸らしたり、「あなたは誰?」と尋ねられたら「わたしはあなたの想像の産物だ」と混ぜっ返したりと、こちらをあざ笑い、狂気に誘おうとする態度からなかなかの底意地の悪さが伝わってきます。もし自分が文書編集に使っているPCが勝手に物語を紡ぎ始めたら、スティーヴィのような窮地に陥る前に、早めに叩き壊そうと思います。
(CM)第2回ジャンプホラー小説大賞から刊行された2冊、白骨死体となった美少女探偵が謎を解く『たとえあなたが骨になっても』、食材として育てられた少女との恋を描く『舌の上の君』をどうぞよろしくお願いします。そして第4回ジャンプホラー小説大賞へのご応募もお待ちしております。
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