2017年9月16日土曜日

死者の魂を導く輪廻の案内人――小杉英了『先導者』

昨日、会社のエレベーターに乗ってたら、ギギギギ、という異音が響きました。瞬間的に死を覚悟しましたが、幸いなことにエレベーターはぶじ目的階に到着、ことなきを得ました。そして今日もエレベーターは異音を発しながら動いています。早く修理してください。

というわけで私たちは日常、思いがけない死と隣り合わせで生きているのですが、突然死んでしまった場合何の準備もできていないわけで、誰かに案内してもらわないと困ってしまうかもしれません。そこで本日ご紹介しますのは、小杉英了『先導者』です。



主人公の「わたし」(女性)は幼いころから十年にわたって研修で教育や訓練を受け、「先導者」となるために育てられた。落伍者も少なくないその教育を乗り越え、十五歳になってようやく「先導者」となった「わたし」の初めての任務は、川で水死した十歳の少女の魂を導くことだった――

先導者って何? という疑問がまず浮かぶと思いますが、ざっくり説明しますと、契約者の死に際してその魂を導き、次の転生において有利になるような場所へ連れていく、という職掌です。

当然、生きたままでは死者の魂を案内することはできませんから、先導者は幽体離脱のような形で自身の魂を体から人工的に抜け出させることになります。主人公の「わたし」は、窒息し心肺停止状態になりながら激痛に耐えて意識を保ち続ける、という拷問みたいに痛々しい方法で幽体離脱するのですが、先導者となる訓練を重ねた主人公は、心を乱すことなくそれを受け入れ、魂となって任務に赴きます。それでも先導者の身体にかかる負担は甚大で、そのまま死亡してしまう場合もあり、そうでなくてもこの世とあの世の往還は生命力を削ってしまうため、先導者の寿命はとても短いのです。

自身の命や身体を削りながら死者を導く存在、という先導者の設定のみならず、死者の水晶体の中に残る紋様、死者の血でできた輝く網、先導者の背中に生える光の翅、などといった繊細で美しい要素が、物語に神秘的な色彩を与えています。感情を露わにすることなく、自身の使命を受け入れて淡々とそれをこなしていく主人公の姿もあって、中盤までは、架空の宗教体系における死生観の解説書、といった感触もあります。

しかし後半では、先導者システムの実態が明らかになり、ガラス細工のような世界が音を立てて崩れ始め、冷静で中性的・ニュートラルな記述者であった「わたし」も動揺し、また異性に心を揺さぶられるという事態にもなります。あたかも氷点下で進んでいた物語が徐々に赤熱し、発火するような変転です。死という安寧の場所から生という荒野に魂を引きずり出された時、主人公は「先導者」であることと「十代の少女」であることのどちらを選ぶのか……死と生の対照を、抑制のきいた文体で鮮やかに描き出す作品です。

(CM)第2回ジャンプホラー小説大賞から刊行された2冊、白骨死体となった美少女探偵が謎を解く『たとえあなたが骨になっても』、食材として育てられた少女との恋を描く『舌の上の君』をどうぞよろしくお願いします。そして第4回ジャンプホラー小説大賞へのご応募もお待ちしております。