2017年8月5日土曜日

化物屋敷で砂まみれの家族の団欒を――澤村伊智『ししりばの家』

今晩は、ミニキャッパー周平です。校正のために、生活が完全に昼夜逆転しました。このブログも朝4時に執筆しています。もし文章に変な部分があっても深夜テンションなのでご寛恕下さい。皆さんはぜひ、ホラー小説を読む際は、精神をもっていかれないよう健全な生活を心がけてください。

さて、前回から「絶対に住みたくない物件」探訪として、幽霊屋敷ものを取り上げておりますが、今回ご紹介するお住まいは、外からは一見したところ普通の住宅にしか見えません。けれど、中に住む者たちの実態はといえば……?
というわけで本日のお題は、澤村伊智『ししりばの家』。


『ぼぎわんが、来る』『ずうのめ人形』に続く、霊媒師「比嘉真琴」が登場するシリーズの3冊目ですが、ここからでも問題なく読むことができます。

小学生の頃、無人の幽霊屋敷に探検に訪れた五十嵐哲也は、その場で得体の知れない化物に遭遇した。友人たちは心を壊されたうえで命を落とし、哲也自身も、「頭の中で砂の音が鳴る」呪いらしき症状に四六時中苦しめられることになり、社会から脱落した。しかし、彼の人生を狂わせた幽霊屋敷には、新たな居住者が現れ、外からは平穏な暮らしがなされているように見えた……。

一方、夫とのすれ違いにわだかまりを抱える主婦・笹倉果歩は、幼馴染・平岩敏明と偶然再会し、妻と母との三人で暮らしているという敏明の家に招かれる。しかし、平岩家を訪れた果歩を待ち構えていたのは、家のあちらこちらにうっすらと砂が積もり、すすり泣きが聞こえる異常な空間で暮らしている家族の姿だった。敏明の妻・梓は、果歩に打ち明け話を始めるが……。

二つの視点から語られていくのは、一軒の家に長年巣食い続けてきた謎の存在「ししりば」の恐怖です。室内にあるはずがない「砂」を(床の上どころか、布団の中や、食卓にまで)呼び込み、中にいる住人たちにその異常さを気づかせない、という精神的な支配にぞっとします。家の住人たちが明るく談笑しながら食事していて、客人も恐る恐る料理に箸をつけると、口の中で「ガリっ」と……そういう「イヤ」さがぎしぎしに詰まっています。精神攻撃だけでなく物理攻撃も侮れません。ししりばが「砂」を用いて更なる暴威を振るい、二階建ての平凡な住宅を脱出不可能の異界に変える、映像的な表現は圧巻で、ぜひ最新のCGを用いてハリウッドで映画化してほしいほど。

恐怖を軸に先を読み進めたくなるホラーでありながら、読者の予想を裏切るどんでん返しを重ねつつ怪異の正体が明かされていく、ミステリ性をも備えている。そんな作者の手腕は今作でも健在です。意味不明な行動原理に従っているかに見えた「ししりば」が一体、この家で「何をしているのか」が明かされたとき、家庭という共同体に潜む狂気が抉り出される。読み終わった後、良質のホラーを読み終わった充足感とともに、「家族」を大切にしなきゃ、と思わざるを得ない、そんな一冊です。

そんなわけで、住む人はある意味で「幸せ」になれるかもしれない、しかし個人的には居住を全力で拒否したい物件『ししりばの家』でした。来週も、絶対に住みたくない家が登場します!

最後にCMを。第4回ジャンプホラー小説大賞絶原稿募集中。ミステリマガジンの書評欄でも取り上げられた白骨美少女ホラーミステリ『たとえあなたが骨になっても』、異世界転生極限恋愛ホラー『舌の上の君』もよろしくお願いします。