2017年7月29日土曜日

幽霊屋敷どうしを繋いでできた、究極の幽霊屋敷――三津田信三『わざと忌み家を建てて棲む』

今晩は、ミニキャッパー周平です。夏はホラー。白骨死体となった美少女探偵が謎を解く『たとえあなたが骨になっても』、食材として育てられた少女との恋を描く『舌の上の君』をどうぞよろしくお願いします。そして第4回ジャンプホラー小説大賞へのご応募もお待ちしております。

さて、私事ですが、引っ越しを考えております。ホラー小説の中でヤバい物件を数々見てきましたので、いわくつき物件を引き当てないよう祈りながら新居を探す毎日です。
という訳で、今回からはしばらく、「絶対に住みたくない物件」シリーズとして、ホラーの王道、幽霊屋敷ものを連続でご紹介します。

本日ご案内致しますのは、三津田信三『わざと忌み屋を建てて棲む』。同じく幽霊屋敷物の『どこの家にも怖いものはいる』の続編で、先週発売されたばかりの一冊です。



物件は、昭和後半に存在したらしき「烏合亭」。この建物を、世に数ある幽霊屋敷の中でも特異な存在たらしめているのはその設計思想。

謎の資産家・八真嶺(やまみね)が大金をはたいて造り上げた烏合亭は、さまざまな場所にあった「いわくつきの建物」を一ヶ所に移築し、繋ぎ合わせてしまった建物。つまり、一軒でも因縁があり人間に害なす存在である幽霊屋敷を、複数合体させてしまったわけで、八真嶺の意図は、「そこで何が起こるか実験する」というマッドサイエンティスト的なものだったのです! 

当然、烏合亭に近寄る人間が無事で済む訳はありません。八真嶺の支払う高額の報酬を求めて暮らし始めた者や、心霊現象の調査のため訪れた者に、烏合亭は怪物的としか言いようのない猛威を奮います。その記録は、日記やテープレコーダーなど全四本に残されており、それぞれ、烏合亭内の建造物、「黒い部屋」「白い屋敷」「赤い医院」「青い邸宅」について語られています。

幼い息子とともに「黒い部屋」に住み始めた母親は、髪の毛を引っ張る何者か、夢の中の正体不明の娘、匂い、物音、足跡、汚れ、などなどひっきりなしの膨大な怪奇現象に精神を蝕まれていき、原稿を執筆するべく「白い屋敷」で過ごす作家志望者は、自身の過去を抉るような人形の出現という怪異に見舞われ、探索のため「赤い医院」に踏み込んだ女子大生は、何者かの気配に追われて屋内を必死に逃げ回り、「青い邸宅」に調査へ訪れた心理学者は、撮影機材が捉えた不可解な足跡の謎に翻弄されます。

作家・三津田信三と編集者・三間坂秋蔵は、上記4つの体験者の記録をもとに、元の建物にあったらしいそれぞれの霊障、怪異現象について考察し推理するのですが、あくまでこれはミステリではありませんし、真実をしっかり掴み切ることもできず、二人にもやがて恐怖体験が降りかかることになります。そして、バラバラの短編のようだった四つの記録をまとめた時、浮かび上がる違和感から、「烏合亭」そのものの怪異がゆらりと立ち現れる――世界に幽霊屋敷ホラーは数あれど、これほどの怪異濃度を誇る幽霊屋敷もあまりないでしょう。
博学な作者による、大量のホラー作品への言及も見どころのひとつで、紹介されているホラーについ手を伸ばしたくなる一冊でもあります。


という訳で、早くも「絶対に住みたくない物件」として圧倒的な家が出てきましたが、次週も邪悪な住まい情報、もとい幽霊屋敷ホラーをお届けします!