こんばんは、ミニキャッパー周平です。もうすぐ一つ校了の峠を越えて、ちゃんと睡眠がとれるようになるはずです。寝不足でホラーを読んで夢の中まで侵蝕されたり、朦朧とした意識で「この本、もう買ったんだっけ、まだ買ってなかったんだっけ」と悩まされたりする日々にも、これでおさらばできると思います。
作家である「私」は小さな丘の上の家に住んでいる。家を建てた叔母は失踪し、家は持ち主を転々としたのちに、「私」の手に渡った。平穏に暮らしていた「私」だが、一つ悩みがある。この家が「幽霊屋敷」であるとの噂が立ち、それを信じる人々が訪れるのだ。今日も一人の男が家を訪問し、ここであったという惨劇について語り聞かせようとする。
いわく、台所で殺し合った姉妹がいた。ジャガイモの皮むきの最中に、何が原因かは分からないものの互いに包丁を向けあったらしく、二人の死体が発見された時、台所は血の海だったという。
いわく、近所から子供を攫ってきて、主人に食べさせていた女がいた。床下の収納庫には、ジャムやピクルスの瓶に混じって、子供たちの身体の一部がマリネとして保管されていたという。
そんなおどろおどろしい話を聞かされても、「私」にとってこの家は、ただの住みやすく居心地のいい住居でしかないのだが――
というのが、全10編を収録した本書の、第1編目の導入。ここまでで既に本書のタイトルが偽りあり、私の家ではヤバいことが起こりまくりだというのがお判りでしょう。しかし、これはまだ序の口で、この家の中は、「殺し合った姉妹」や「人攫い」のエピソード以外にも、女の影が映る二階の窓、少年の死んだ床下、木での首つりが起きた庭、幽霊屋敷探検に訪れた者たちが残した奇妙な痕跡、などなど、「いわく」の無い場所を探す方が難しいようなありさま。
明確な原因があるわけではないのですが(家の建っている丘は先史時代からあるものらしいですが、詳細は不明)、とにかくこの家の中ではひたすら猟奇的な事件、事故が起こり続けます。短編一編ごとに、様々な時代に起きたそれらの惨劇が、当事者の視線から静かに語られ、その積み重ねと絡み合いによって恐怖の年代記が積み上げられていく――というのが本書の趣向なのです。
独白や語り掛けなど、話し言葉を駆使した文体も恐怖の源泉のひとつで、
≪泣いてばかりいたから、肉がちょっとパサついているけれど、柔らかく煮えたわ。≫
などの一文の、さりげなくおぞましい言葉にぞっとさせられます。
本の後半になると、読者が見せられてきた無数の惨劇のこだまが家に降り積もり、「今」家に住む者、家にやってくる者に絶大な影響を及ぼすことになり、集大成といった趣があります。
というわけで、3回に渡った幽霊屋敷もの紹介、「絶対に住みたくない物件」シリーズはここまで。私の新居探しはまだ続いていますが、皆様も、お引越しの際は十分気を付けてくださいね。