こんばんは、ミニキャッパー周平です。ようやく体調不良から生還しました。改めて、第4回ジャンプホラー小説大賞募集開始&「ミニキャッパー周平の百物語」第4シーズンを開始します! 絶賛発売中の『たとえあなたが骨になっても』『舌の上の君』ともども宜しくお願いします!
さて、『舌の上の君』は、食材として育てられた少女を食べることがテーマの話でしたが、今回ご紹介するのも、身の毛もよだつような「肉」を食べるお話なのです。
今週のお題は、小林泰三『わざわざゾンビを殺す人間なんていない。』
死者がゾンビ化するウイルスが蔓延し、人間を含む全ての哺乳類が「死ねばゾンビになる」可能性を持つようになった時代。死者の速やかな処理によって、人類はなんとか「ゾンビは出現するが社会は崩壊していない」世界を維持している。
そんな状況の中、密室に閉じ籠ったはずの研究者が、ゾンビになって発見される事件が発生した。生きていた人間が密室で殺されたのだから、つまりは密室殺人である。現場に乗り込んだ探偵・八つ頭瑠璃は、強引に事件捜査を請け負って犯人探しを開始する。瑠璃は密室殺人の謎を解くことができるのか、それとも、犯人の送り込んだゾンビたちの襲撃で命を落としてしまうのか。
密室殺人に加えて、読者の前に横たわるもうひとつの謎が、主人公たる探偵・瑠璃が「何者なのか」という問題。彼女はゾンビ関連技術に対して異様な執着を見せ、協力者からも疑念の目を向けられます。捜査パートの合間に挟まれる、瑠璃の子ども時代のエピソードでは、瑠璃の姉である沙羅が、瑠璃の存在をクラスメートたちにひた隠しにしたり、替え玉受験を瑠璃に強要したり……悲劇的な結末しか待っていなさそうな姉妹の愛憎劇からも目が離せません。
「事件の真相」と「探偵の秘密」という二つの謎で読者を翻弄し、やがて「ゾンビが普通に存在する世界だからこそ成立する密室トリック」が姿を現す、特殊環境ミステリとして極上の作品です。
さて、皆さんお待ちかね(?)何の「肉」を食べるか、という話ですが、ゾンビが当たり前に発生する世界で、倫理観の変化と食糧不足によってもたらされる結論は一つしかありませんね。そう、ゾンビの肉を食べるのです。ゾンビウイルスにより熟成されていて普通の肉より美味なのだという話で、この作品で一番ぎょえええっと叫びたくなる部分は、ゾンビを「踊り食い」する人たちの存在です。
こちらめがけて襲い掛かってくるゾンビを、鷲掴みにし、引きちぎり、肉をむさぼり食う。こちらにかじりつこうとするゾンビにかじりつき、食らう。ゾンビを「素手で倒しながら食べる」という想像を絶するスタイリッシュグロテスクアクションは、ゾンビ小説史に残る衝撃シーンとして必見です。
著者の小林泰三先生には、以前に「ホラー作家になるためのQ&A」企画でインタビューを行いましたので、ぜひこちらもご覧ください。
またゾンビといえば、Jブックスからはほのぼのゾンビスローライフ小説『たがやす ゾンビさま』も刊行されておりますのでこちらも宜しくお願いいたします。