2017年6月24日土曜日

人間の暗黒面に心奪われる二人は、今日も猟奇犯罪者に遭遇する……乙一『GOTH』

今晩は、ミニキャッパー周平です。第3回ジャンプホラー小説大賞の〆切まであと1週間です。志望者の方はラストスパート頑張ってください! そして第2回ジャンプホラー小説大賞受賞作のたとえあなたが骨になっても』『舌の上の君』、書籍&電子書籍版で大好評発売中ですのでお見逃しなく!

さて、担当編集者として『たとえあなたが骨になっても』のネット上での反響に目を通している私ですが(お褒めの感想を上げて頂いた方、ありがとうございます!)、複数の箇所で「初期の乙一作品のテイストを彷彿とさせる」とのコメントを頂きました。実は私が賞に応募された原稿(その時は『先輩が骨になった』という題名でした)を初めて読んだ時も、それに近い魅力を感じたのです。

――という訳で、本日ご紹介するのは、ホラーテイストを含むミステリであり、サイコサスペンスとしての側面ももつ大ヒット作、乙一『GOTH』です。



高校生の「僕」とクラスメートの少女・森野は、死や殺人といった人間の暗黒面に惹かれる者同士として密かな関係を結んでいる。ある日、森野が喫茶店で拾った手帳は、巷を賑わす猟奇殺人犯が己の凶行を記録したものだった。二人はただ死体を見たいという動機から、手帳に書かれた犯行現場に向かうが、それがきっかけで「僕」は犯人の正体を突き止めねばならなくなる――

と、これが第一話のあらすじで、二話目以降も、主人公の「僕」は正義感やまっとうな倫理観ではなく、状況のために(多くは、殺人や死、人間の暗黒面に出会おうとしたことが原因で)図らずも探偵役を務めて、犯人たちと対決していくことになります。各話に登場する、少女連続殺人鬼、生き埋め犯、手首切断魔など、人の道を踏み外した「犯人」たちのキャラ性、ロジカルであったりフェチ的であったり憑かれたかのようであったり、その怪物的な精神性には肝を冷やしますし、同時につい引き込まれてしまいます。しかしそれ以上に、主人公二人、孤高な森野と、一般人に擬態するように生活している「僕」のダークな関係に、ホラー的な魅力を感じてしまいます。

森野は、単に「猟奇的な出来事に関心を持っている」だけでなく、姉妹の死という過去が心に刺さった棘となっており、猟奇殺人犯に標的にされやすいという特殊体質も備えているため、存在そのものが死に引きずられているような危うさがあります。そして主人公の「僕」は、物語の中で一番の怪物。猟奇殺人犯相手でも物怖じすることなく渡り合い、彼らを警察に通報する訳でも、裁く訳でもなく、自らの「興味」を軸に行動していく。いわば、探偵よりも犯人に近い心性の持ち主なのです。今にも「死」の向こうに消えてしまいそうな森野。

今にも「殺人」の一線を踏み越えそうな「僕」。二人に境界線のこちら側に留まり続けてほしい、いびつな絆が決定的な破局を迎えずに済んで欲しい――そんな願望めいた思いとともに、6編の短編を一晩で読んでしまった十年以上前の記憶が、今回このレビューを書くために再読して、くっきりと甦りました。


キャラクターのことばかり述べてきましたが、ミステリとしてのクオリティも抜群です。各話に一度は読者の予想を裏切るどんでん返しがあり、更に最終話では、これまで周到に準備をした上での鮮やかな逆転が行われ、連作短編のお手本のような手際を見せてくれます。騙される快楽」を味わえる一冊としても、お勧めの作品です。