2016年5月28日土曜日

聖職者の殺戮劇――『悪の教典』


 今晩は。ミニキャッパー周平です。
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 さて、前回は短めの作品だったので、今回は特大ボリュームの作品をご紹介。映像化もされたサイコホラーの傑作、貴志祐介『悪の教典』です。






 高校の英語教師・蓮実聖司は、分かりやすい授業と高い問題解決能力によって、多くの生徒の心を掴んでいる、学校の人気者だった。しかし彼は、人身掌握術を用いて他人をコントロールし、対立する教師や問題児を、罠と陰謀で排除するという、危険な素顔をもっていた。その正体に気付き始めた生徒たちを、蓮実の魔手が襲う。

 本作品でもっとも読者を引き付けるのは、邪悪にしてエキセントリックな、蓮実のキャラクター性でしょう。物語の序盤では、生徒の抱えるトラブルを敏感に察知し、それをチート的な速度で解決していく、という、教師の理想形のような有能な人物として描かれ、最初はまるで熱血教師ドラマを読んでいるような錯覚を覚えます。しかし、「邪魔な相手を学校から消すためには、ゆすりなどの犯罪行為や、殺人さえ厭わない」という、彼のスタンスが読者に示されると、物語は一転、不穏なムードに包まれるのです。

 そして明かされていく蓮実の遍歴。他人への共感能力を全く持っておらず、幼少の頃より膨大な数の殺人を犯しながら、自殺や事故に見せかけたり他人に罪をなすりつけたりして、完全に逃げおおせてきた。そんな戦慄すべき過去に、「これから学校内で蓮実が起こすこと」のおぞましさに読者は薄々感づきつつも、先を読まずにはいられないでしょう。

 蓮実の手によって、学校周辺で「悲劇」が起こり、その真実に気づいた者が次の「悲劇」の犠牲者になる、という連鎖反応によって、転がり始めた雪玉のように犠牲者の数は膨らみ続けます。そして物語の後半で蓮実はとうとう、自身の担当するクラスの生徒を「皆殺し」にするという、常軌を逸した決断を下します。

 そこからの展開はもはやジェットコースター的な勢いです。決して豹変したりはせず、授業中とまったく同じように、明るいテンションで英語を交えて語りかけながら、殺戮を繰り広げていくその姿は、まさにモンスター。死体の山が築かれる中、蓮実が悪魔的な知能によって張り巡らせた罠・トリックをかいくぐって、生徒たちは生還することができるのか……。続けざまに襲い来る恐怖に震えながらも、ページを繰る手が止まりません。

 (文庫版で)上下巻900ページ越えという大作ですが、いったん読み始めたら、寝食を惜しんで没頭してしまうような小説なので、ぜひ、お休みの日に手に取ることをお勧めします。



(※書影はAmazonより引用しました。)