2016年5月21日土曜日

ゴミ溜めからの切なる叫び――『D-ブリッジ・テープ』

 今晩は。毎週金曜26時ブログ更新中、金曜日はだいたい睡眠不足の、ミニキャッパー周平です。第2回ジャンプホラー小説大賞応募締切まであと1ヶ月弱! Jブックスでは、満場一致で賞を与えられるような完成度の高い応募作を求めている一方で、審査会を紛糾させるような、破天荒で個性的な応募作も望んでいます。

 というわけで、今回レビューしたいのは、とっても型破りなホラー作品、『D-ブリッジ・テープ』。


 まずこの本を開いてみて驚くのは、「改行」の頻度です。
 全ページ、どの文も、一行以内におさまる短さであるうえに、一文ごとに必ず改行されています。なので、二行以上にまたがる文が全く存在せず、短い文で次々改行していく、見るからに異様なページづくりになっています。普通の小説ならページ稼ぎかと思われるところですが、ストーリーを追っていくうちに、読者は、この改行手法が本作品にふさわしい「ある演出効果」を狙ったものだ、と知ることになるのです。

 では、ストーリーの紹介に入りましょう。
 会議室に集められた人々の前に提示されたのは、一本のカセットテープ。傷と汚れにまみれたそのテープは、相次ぐ不法投棄によって一面がゴミの世界と化した巨大な橋、「D-ブリッジ」で発見されたものだった。やがてテープがレコーダーにかけられ、そこに記録されていた約50分の音声が、会議室に流れはじめた。
 テープに録音されていたのは、弱々しい声の、少年の独白だった。少年はまだ幼児であったころ、親によってゴミとともにD-ブリッジに捨てられたのだという。彼は、ゴミ溜めの橋から脱出することを断念し、廃車を寝床に決め、廃棄物に群がるカラスや虫を食糧にして、不衛生な環境でズタズタに傷つきながら必死で生きていこうとした。
 しかし、少年の生活が何とか安定し始めた頃、Dーブリッジに、今度は女の子が置き去りにされた。少年より更に幼いその女の子は、とある障碍をその身に抱えており……。

 見渡す限り不法投棄のゴミばかり、という舞台なので、行間から腐臭が漂ってきそうなくらい描写は強烈で、生理的嫌悪を呼び覚ましますが、その極限状況下で、泥水をすすってサバイバルを繰り広げる少年のタフネスに胸を動かされます。そして、ボーイミーツガールへと変貌する中盤からは、ゴミ地獄の中で生きようとする二人、遠くへ逃げることも大人に頼ることもできないほど幼い彼らの、無力さと絶望感が読者の心を軋ませます。

 クライマックスに近づくにつれ、読者は、特異な改行の手法が、少年の痛ましい叫びをより鮮やかに表現するためのものだったと気づくでしょう。時に切々と、時に涙交じりで、時に咆哮するように、悲痛な運命を語っていく少年の「肉声」が、いつしか読者の頭の中に響き始める。自分もテープレコーダーに耳を傾けているような、それどころか、目の前にいる少年の叫びを聞いているような錯覚さえ与える、そんなパワーをもった作品なのです。文庫版で170ページ足らずのコンパクトな一冊ですので、さくっと読めるホラーをお求めの方もぜひ。



(※書影はAmazonより流用しました。)