2016年5月7日土曜日

黒い恋人たち

 今晩は、第2回ジャンプホラー小説大賞宣伝隊長のミニキャッパー周平です。ゴールデンウィークでは羽を伸ばせましたか?
 さて、Jブックスの人気ホラーと言えば、ラブ&ホラーの『怪談彼女』シリーズ(①~④巻絶賛発売中!!)ですが、今回はそれにあやかって、恋愛を扱ったホラー作品をご紹介。
 
 まずは人間×人外のホラーから。瀬川ことび「十二月のゾンビ」(『お葬式』収録)のお相手はゾンビです。一人暮らしの主人公のアパートに、夜、前触れもなく訪れたのは、バイト先の同僚の女の子。「交通事故に遭って、死んでしまった」という彼女は、眼球が目から零れたゾンビ状態となっていた・・・・・・。恋するゾンビと過ごす一夜が、とぼけたタッチで描かれるユーモラスかつ叙情的な短編。


 同じく押し掛けヒロインものの作品で、オクタビオ・パス「波と暮らして」(『ラテンアメリカ怪談集』収録)。海辺でひとすじの波に一目惚れされた男。波と一緒に甘い生活を始めたが、歳月が経つにつれ、波と男の間に倦怠期が訪れる・・・・・。人間と波のラブストーリーというとんでもない奇想と、その摩訶不思議なディテールが楽しめる一篇。

 深堀骨「愛の陥穽」(『アマチャ・ズルチャ 柴刈天神前風土記』収録)の恋人もすごい。主婦を誘惑し、転落させていく者の正体は、自我をもった「マンホールの蓋」である「うすいさん」。落語と現代文学をミックスしたような奇天烈な文章で、それ以上に奇天烈なストーリーが語られるインパクト抜群の作品。


 ここからは、人間×人間の恋愛を描いたホラー作品を。ただし、普通の恋愛にはもちろんなりません。式貴士「われても末に」(『窓鴉』収録)は子ども時代の恋をテーマにした一本。少年は、自宅の広い庭にぽつんと残された、古い門の正体を知らなかった。閉ざされていたその門がある日開き、少年は、門の向こうに存在する異世界で、美しい少女に出会い、恋に落ちるが……。幼い日の記憶に焼きつく「門の向こうの世界」と少女の姿が、幻想的かつビビッド。終盤で明かされる、門と少女の正体も含め、驚きに満ちた短編です。


 続いて、小林恭二「終末」(『邪悪なる小説集』収録)。高校生の幸夫は、容姿に優れ性格も温厚な、人気者の少年だった。ところが、彼が初めて交際した少女が、謎の自殺を遂げる。そして、彼の二番目の恋人も、三番目の恋人も、自殺を図った。周囲は彼の得体の知れない性質を恐れるようになっていくが、幸夫と交際しようとする少女は後を絶たず……。呪いや霊のような分かりやすいオカルトではなく、不条理で、得体の知れない少年の宿命が、深い余韻を残す物語。


 最後に、「異形コレクション」シリーズの一冊、『ラヴ・フリーク』にも触れましょう。「異形コレクション」は1998年から2011年までに合計50冊が刊行された伝説のホラー・アンソロジーシリーズなのですが、『ラヴ・フリーク』はその記念すべき第1巻にして、「異形の恋」をテーマとしたホラー19編をおさめた、今回の記事にうってつけの一冊。読心能力をもったエレベーターガールに惚れてしまった男の末路がじわりと怖い、中井紀夫「テレパス」、グラスの中に住む女との逢瀬が色鮮やかな結末へと繋がる、早見裕司「逃げ水姫」、嗜虐の限りをつくすサンタクロースに囚われた女の半生が妖しくおぞましい、井上雅彦「赤とグリーンの夜」など良作ぞろい。

 その収録作中でも私がもっとも偏愛するのは、津原泰水「約束」。
 まったくの偶然により出会い、観覧車が一周する時間だけしか時間をともにしなかった男女が、引き裂かれた後にどれだけ長い間、互いを愛しあったかについての物語。「美しい話だ。」という強烈な一文から始まり、くるくると転調する物語に翻弄され、宣言どおりの美しい恋に心をぐいっと掴まれ、最後の一行で、空中に放り出されるような眩惑感が味わえます。

 ジャンプホラー小説大賞宣伝隊長のミニキャッパー周平は、ホラー小説はもちろん大好きですが、恋愛ものも好きです。両者のハイブリッド作品もぜひご応募お待ちしてます。

(※書影はAmazonより流用しました。『ラヴ・フリーク』の書影のみ、渡辺の蔵書スキャンデータです)