2016年3月19日土曜日

戦慄に到る病――牧野修『奇病探偵』

今晩は。第2回ジャンプホラー小説大賞宣伝隊長、ミニキャッパー周平です。
4月4日(月)に担当書籍二冊(『罪人教室』『殺たん 解いて身につく! 文法の時間』)が発売されます。ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします。

私は二冊分の校了が重なってここ1ヶ月ほど体調がガッタガタな訳ですが、今回はそれにちなんだ本を――

とその前に。皆さんはバッケスホーフ脳炎という病気を知っていますか?
「非寛容の病」とも呼ばれる疾病で、1996年にアムステルダムで発見されました。当時、アムステルダム新市街では、奇妙な事態が起きていました。もともと大人しい性格だった人たちが、ある時期を境に人格が変わったように粗暴になり、暴力事件を起こして逮捕される。そんなケースが多発していたのです。

逮捕者たちの身体検査を行った結果、彼らは脳の視床下部に特殊な炎症を負っていることがわかりました。その炎症がホルモン分泌に影響を与え、長期的に強いストレスをもたらし、結果、彼らは暴力事件を引き起こしたのです。

罹患者の名前をとってバッケスホーフ脳炎と名づけられたその病気は、寄生性線虫の感染によって引き起こされるもので、タンザニアのチンパンジーに固有の病でしたが、ペットとして輸入されたチンパンジーを感染源として、都市にも広がったのでした。

暴力が感染する、とは恐ろしいですね。あなたはこの病気をご存知でしたか?

ご存知ではないと思います。
実在しない病気なので。
という訳で改めて、今回のテーマは牧野修『奇病探偵』です。


就職活動に失敗し続けた青年・森田彼岸は、経歴を偽って「日本疾病管理予防研究所」の求人に応募する。そこは「奇病」と呼ばれるような希少な病気を研究する日本で唯一の施設だった。事務として採用されることになった彼岸は、所属している研究者たちに振り回されながら、さまざまな「奇病」の症例と遭遇していく――と言えば、昨今のキャラクターお仕事ものの一種に見えますが、「バイオニックサスペンスホラー」と銘打たれた本作品はもっと闇寄りになっています。

主人公の同僚となる研究者はほとんどが女性ですが、危険人物ばかりで、新薬の治験と称していきなり首筋に注射してくる者がいるし、目的のために病原菌を持ち出して他人に感染させようとする者がいるし、グロテスクな病気の画像データを集めて持ち歩いている者がいる。さらに、研究所から菌が漏れて病気が広まったという過去の事件や、前任者の離職にまつわる謎などもあって、不穏な空気が流れています。

そして一番の見所は、奇想天外な症状をもたらす病。脳浮膿性突発感情障害、真実の口(ボッカ・デラ・ベリタ)病、ウェンディゴ憑依症など、作者の創造した病気は、もっともらしいメカニズムで説得力をもちながら、現実にはありえない異様な光景を見せてくれます。先に述べたバッケスホーフ脳炎の設定も、すべて作者のでっちあげ。

特に秀逸なのは「蒐集吸虫」感染の症例で、この虫に寄生されると、清潔さを保つ本能が抑制されてしまいます。結果として、感染者はゴミがまったく捨てられなくなり、それが行き着く先は――色々やばい病気が登場する小説ですが、これには一番罹りたくないものですね。

先にも述べた通り、現在の私の体調はガッタガタなのですが、病気にはならぬよう体を休めて、来週末には万全の状態でブログを書きたいものです。皆様、よい週末を。

(※書影はAmazonより引用しました)