こんばんは。この間、全身をスズメバチに刺される夢を見てしまったミニキャッパー周平です。嘘ではありません。針が異様に長かったです。
まずはCMから。第1回ジャンプホラー小説大賞<銅賞>受賞作『ピュグマリオンは種を蒔く』のWEB公開がはじまりました。選考会激震の猟奇純愛ホラー、ぜひご一読を。
さて、いつもは「自由気ままに闇雲に」をモットーにホラー作品をレビューしていますが、今回はタイムリーなものを取り上げてみます。ずばり、小野不由美『残穢』。
本日、つまり1月30日(土)より実写映画が全国公開されるこの小説を、勝手に便乗してご紹介致します。映画版を観に行かれるご予定の方は、ネタバレにご注意ください。
そのあらすじは――という風にいつもなら紹介をはじめるのですが、まず一言。
怖いです。めっちゃくちゃ怖いです。
深夜のファミレスでこの本を読んでいたんですが、近くの客が椅子から立ち上がる時の些細な物音だけで、もう全身がビクッと硬直してしまいましたし、「ひとけの無い夜道を歩くのが怖くて仕方ない」という、小学生の頃の感覚を取り戻し、足早に帰宅しました。そのくらい恐ろしい小説です。
小説家の「私」は、読者・久保さんからの手紙――部屋の中で畳を擦るような物音を聞いたという体験談――をきっかけに、久保さんの住む「岡谷マンション」に出現する怪異の原因について調べ始めることになる。しかし調査すればするほど謎は膨らみ、その地に潜む闇が根深いことが示されていく……。
と、あらすじを示しただけでは、この作品の凄さは伝わりません。
『残穢』でまず徹底されているのは、「フィクションらしさ」を可能な限り排除するという点。
語り手の「私」は、明らかに作者・小野不由美であり、さらに平山夢明や福澤徹三といったホラー作家も実名で登場。「私」やその知人たちが怪異について聞き取りや資料探しを進めていくという形式で、淡々と、ドキュメンタリーのような文体で物語が綴られていきます。それらの道具立てのせいで、読んでいるうちに何度も、『小説』ではなく『実際にあった話』を読んでいるのだと錯覚してしまいます。
そして、明らかになる怪異のひとつひとつは、決して荒唐無稽なものではなく、怪しい物音とか虫の知らせとか家族の不幸とか、「自分に起こるかもしれない」身近さの、じわりと怖い実話怪談的エピソード。それぞれは小さく不可解な怪談でも、手繰り寄せるうちに、背後に横たわる巨大な「怪異」の息づかいのようなものが徐々に感じられてくる。時代を遡るにつれ、少しづつ手がかりが減っていくものの、歴史の壁の向こうに、僅かにその正体がほの見える……まるで神話を読んでいるような畏怖と、底知れない恐怖があります。
紛れも無い傑作ホラーですが、読了後、私生活に実害が出るレベルで恐怖が残り続けるので、ぜひお気をつけてお読みください。
※『残穢』の書影はAmazonより転載しました。