2016年1月16日土曜日

デスゲーム小説の最高峰――『クリムゾンの迷宮』



今晩は。金曜深夜2時の男こと、ミニキャッパー周平です。
第2回ジャンプホラー小説大賞、絶賛募集中です。WEB応募も可能なので、ふるってご応募ください!

今夜のテーマは、ホラーの中でも一ジャンルを築いている「デスゲームもの」。
脱出不可能な場所に数人~数十人が閉じ込められて、理不尽なルールのもと、生き残りをかけて争う――という作品です。発表数が多いため、どれを紹介しようかと迷っていましたが、本日は、ホラー界の名匠による傑作を選んでみました。

今回ご紹介するのは、貴志祐介『クリムゾンの迷宮』。


失業中の男が記憶を失って目覚めた場所は、火星を思わせる巨大で異様な峡谷の底。身の回りにあったのは、わずかな食料と水、そして、何者かからの指令が示されるゲーム機のみ。ゲーム機の指示に従って峡谷を歩く男は、やがて、自分と同じ状況下にある八人の男女と、生き残りをかけたゲームに参加させられていることを知る――

この作品が、いわゆる「デスゲームもの」の中でも異彩を放っているのは、圧倒的なリアリティと描写力です。
物語の舞台は架空の場所ではなく、地球上のとある地点。作中では、緯度と経度まで詳細に示されます。そこに生息する猛獣や、毒を持つ生物から身を守り、狩猟や採集で飢えをしのぐ、という極限状況下でのサバイバル。作者が徹底的に「取材」を重ねているのでしょう、匂いや湿度さえ伝わってきそうな、臨場感溢れる描写となっています。

そして当然ながら、様々な『悪意』や『暴力』を描いてきた作者の手腕は、デスゲームのエグさにも最大限に発揮されます。

ゲーム主催者側が用意した罠、ゲーム進行にともなって参加者の中に生じる不和など、序盤で「嫌な予感」や「違和感」を与えたものが、ページが進むにつれてその正体を現し、最悪の形で主人公に襲い掛かります。そして吹き荒れる殺戮の嵐。残虐さや恐怖のあまり、恐る恐るページをめくる箇所もありましたし、姿を見せない異形の「怪物」の声が、主人公たちに少しずつ少しずつ近づいてくるシーンでは、読みながら自分の心拍数が上がるのを感じました。

異常な環境でありながら、決して荒唐無稽にならず、迫真性を失わないストーリーテリングの力。徐々に恐怖を高めていく、語りの魅力。何気ない描写に隠された伏線を拾っての、ミステリ的などんでん返し。どれもが一級品と言えます。

これからサバイバルサスペンスやデスゲームを書こうとしているホラー作家志望の人にはぜひ一度読んでもらいたい、プロフェッショナルな一冊です。

(※『クリムゾンの迷宮』の書影は、Amazonより引用しました。)