2016年1月23日土曜日

ホラーなのに、面白おかしく

今晩は。ホラーにとりつかれた男こと、ミニキャッパー周平です。
第1回ジャンプホラー小説大賞<銅賞>受賞作「ピュグマリオンは種を蒔く」のWEB公開、おそらく来週になると思います。選考会紛糾の超問題作に、乞うご期待!

第2回ジャンプホラー小説大賞も、絶賛募集中です。WEB応募も可能なので、ぜひご応募ください。
さて、私事ですが、最近、ホラー小説の読みすぎで、ときどき悪夢を見るようになりました。このままでは私自身がホラー体験をしてしまう日も間近です。これはいけない。
という訳で、本日はホラー作品の中でも、「怖さ」が主眼に置かれていない、コミカルなものをご紹介します。

まずは伝説的な怪奇小説作家・式貴士の短編から、「血の海」(『カンタン刑―式貴士怪奇小説コレクション』収録)。




病に侵されて常に貧血気味の妻のため、「血がたくさん欲しい」という祈りを捧げた男。翌朝、洗面所の蛇口をひねると、流れ出したのは水ではなく、新鮮な血液。
それどころか、水槽の水や河川、海の水にいたるまで――
世界中の水という水が突然、人間の血液に変貌してしまっていた。
水は全く存在せず、空からは文字通り血の雨が降るようになってしまった世界で、人類はいかにして生きていくのか? 深刻なサバイバルではなく、激変した環境をあっけらかんと受け入れ、それに適応していく主人公たち家族や、人類の姿がユーモラスです。ある意味、究極の吸血鬼小説とも言えるかもしれません。


続いては、『学校の怪談』ノベライズなどもつとめたファンタジー/ホラー作家・岡崎弘明の「帰省ラッシュ」(『奇妙劇場 ロング・バケーション』『たんぽぽ旦那』収録)。



夏休み、帰省先の鹿児島から東京の自宅へ帰る途中、Uターンラッシュに巻き込まれた家族。空いている電車をなんとか探して乗りこんだものの、その車両はJR霊界の寝台特急、黄泉八二号。本来は死者が利用する路線なのだが、赤字のため生者の客も乗せることになったのだとか。
かくして、死者ばかりの電車に乗ってしまった一家ですが、駅で「冥土の土産」を押し売りしてくる奴はいるわ、乗り換えに失敗して地獄に辿りつきそうになるわ、JR東霊界とJR西霊界の対立に巻き込まれてトラブるわ、ホラーでありながらスラップスティックなドタバタ喜劇が繰り広げられます。


とどめは幻想ホラー作家・遠藤徹の短編「カデンツァ」(『壊れた少女を拾ったので』収録)。



倦怠期の夫婦。妻の妊娠が発覚したものの、夫には身に覚えがない。そう、妻は不倫相手の子を身ごもったのだ。
妻の不倫相手とは――炊飯器。正確には、十合炊きのIH炊飯ジャー「炊きだし」。
そう、妻は夜な夜な炊飯ジャーと語り合い、キスをし、逢瀬を重ねていたのです。あまりの事態に戸惑いと怒りを隠せない夫ですが、しかし夫は夫で、ホットプレート「アンナ」にご執心。夫の方もやがてアンナ(ホットプレート)と肉体関係を結びます。
こうして語られるのは夫婦を中心とした、人間と家電製品の爛れた性愛模様。プロット自体は普通なのに、人間が家電と睦み合う異様な世界なので、この世のものとは思えない爆笑の光景が展開されます。

というわけで、コミカルホラー特集でしたが、今日は怖いというより、いわくいいがたい奇天烈な夢を見そうな予感がします。

(※『カンタン刑』 『壊れた少女を拾ったので』の書影はAmazonより引用しました。)