2015年1月16日金曜日

過去を奪われる話

本を読んでいる途中で、実は以前読んだものだったことに気づいたり、間違えて同じ本を二冊買ってしまったことに後から気づいたり、というのを何度かやらかした今日このごろ。過去の記憶というのはあやふやで、信頼が置けないものです(年をとって、物覚えが悪くなったせいだとは思いたくありません)。

いう訳で、今宵のテーマは、「過去を奪われる」という、ホラーの中でもかなり精神的にエグい物語。いつもと趣向を変えて短編の三本立て、「おもひで女」「時空争奪」「闇が落ちる前に、もう一度」をご紹介します。


一編目は牧野修「おもひで女」(『忌まわしい匣』収録)平凡な会社員である主人公は、ある日突然、生まれて間もない頃の恐怖体験を「思い出す」。思い返すほどに背筋が寒くなるその出来事を、なぜ今の今まで忘れていたのか? しかもその数日後、四・五歳の頃のおぞましい記憶を新たに「思い出し」てしまう。つづいて、小学生の頃の悪夢を。平穏だったはずの過去、その「思い出」を恐怖に染めながら、徐々に「何か」が主人公の現在へと近づいてくる……。
間を超えて、「記憶を辿って」追いかけてくるという、とんでもない怪異を生み出した傑作。



思い出」や「過去」の侵食が、全世界規模で起きてしまうのが、小林泰三のホラー短編「時空争奪」(『天体の回転について』収録)。
蛙や兎を描いていたはずの「鳥獣戯画」が、世界中の誰もが気づかぬうちに、グロテスクな怪物たちを描いた地獄絵に変わってしまった。続いて「源氏物語絵巻」にも異変が。平安時代の文化財に生じた変化を発端に、人類の歴史が、異形の跋扈するドス黒いものにすり変わり、それが刻一刻と「現代」へと迫っていく。
実を変貌させる怒涛のロジックと、狂気に侵されていく世界の描写が見所の逸品です。



して、過去を収奪される物語として、ある意味、究極とも呼べる作品が、山本弘の奇想SFホラー「闇が落ちる前に、もう一度」(同題短編集収録)。
研究者である主人公が、恋人に向けて送ったメール。そこには、切羽詰った文面で、「世界の真実」が記されていた。哲学上のとある命題を検証する実験によって、明らかになったその事実は、主人公の理性を根本から揺さぶるもので……人公の絶叫ともいえる、あまりにも悲痛なラスト一行が、読者の心に反響し続けることでしょう。

時間ホラーシリーズは次回に続きます。今度は「時間に閉じ込められる話」。


「おもひで女」「時空争奪」「闇が落ちる前に、もう一度」の書影はAmazonより引用しました。


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