今晩は、ミニキャッパー周平です。GWが終わりましたが、ジャンプホラー小説大賞応募者の皆さんは原稿が進みましたでしょうか。さて、以前から予告していたショートショートホラー集がGW中にようやく本棚から見つかりましたのでご紹介を。
本日の一冊は、井上雅彦編『異形コレクション ひとにぎりの異形』。
このブログでも何度か言及してきた伝説的アンソロジー『異形コレクション』の1冊ですが、本書の特徴は、<四百字詰原稿用紙10枚以内>のショートショートの書下ろし作品81編、という超巨大ショートショートアンソロジーとなっていることです。『異形コレクション』の創刊10周年、星新一没後10周年、星新一デビュー50周年と様々な意味を持つ2007年に刊行されたアニバーサリーな一冊です。収録作家は星新一ショートショートコンテスト出身者を中心に、ホラーやSFや幻想小説の書き手など多岐にわたっています。
収録作は全7章にカテゴリ分けされていますが、章題も「デラックスな発明」「謎とひみつと犯罪」「闇の種族あれこれ」「未来からのノック」「つねならぬ日常」「妖夢のような」「ひとにぎりの人生」と、すべて星新一の作品タイトルを連想させるものになっています。
流石に81作品すべてをご紹介するわけにはいかないので、ストーリーを紹介しやすくオチを割らずに済むものを10編ほど、挙げてみます。
①
田中啓文「あるいはマンボウでいっぱいの海」。卵のほとんどが他の魚に食べられてしまうため、3億個の卵を産むというマンボウ。その卵を食べられないように育てれば、マンボウの大量養殖ができる、と考えた男の浅慮により、海は大量発生したマンボウに覆われ……。
②
太田忠司「ATM」。ATMを操作していると突然画面上で謎のアンケートが出題され、さらには金銭状態や交際相手など、男の個人情報を握っている旨のメッセージが流される。恐るべきATMの目的は?
③
渡辺浩弐「これは小説ではない」。かつて小説家になる夢をもちながら挫折した男は、エンジニアとなり人工知能に小説を書かせようとする。彼は人工知能に、1000本以上の作品を残したとある作家の文章データを流し込むが……。
④
北原尚彦「ワトスン博士の内幕」。シャーロック・ホームズが解決したと《事件簿》に記されているにもかかわらず、ホームズ自身は知らず、ワトスン博士のみが知っている事件の正体とは?
⑤
岡崎弘明「怪人 影法師」。影を消すことで影の持ち主の存在さえ消し去ってしまう謎の怪人・影法師。連続人間消失事件を起こした影法師の次なる目的は、帝都にそびえる新帝都タワーを消すことだった。
⑥
齋藤肇「誰そ」。嵐の孤島に閉じ込められた十二人。殺人事件が起きるには絶好のシチュエーションだが、孤島に集まっている者たちの正体は、妄想に囚われた者や、獣人、ロボット、果ては宇宙人を体内に住まわせている者などもおり……。
⑦
草上仁「どこかの――」。悪魔らしき存在から、そこに記した願いが実現するという紙を手に入れた男。ただし紙に書けるのは2文字だけ。男が願うのは「不死」か「財産」か、それとも……?
⑧
新井素子「ノックの音が」。様々な感染症が蔓延するようになった未来。致死率77パーセントのウイルスに侵されて隔離施設で暮らす女性は、来るはずのないノックの音を聞く。
⑨
岬兄悟「誘蛾灯なおれ」。なぜか地縛霊を寄せ付ける体質になってしまった男の周りに、あたかも誘蛾灯に集まる虫のように、大量の霊が集まってくる。特に悪さをすることもないが恨めしげに男を見つめる霊たちに、男は業を煮やして……。
⑩
藤井青銅「美しき夢の家族」。某テーマパークで着ぐるみに入る仕事をしていた男は、死ぬまでそのことを秘密にする契約を結んでいたが、死の間際にそれを家族に明かしてしまい……。
本が出版されてから既に12年も経っていますが、現在はショートショートや短い作品が多く読まれる、いわば夏の時代。超ボリュームかつバラエティも段違いのこの一冊も、改めて注目されることでしょう。