今晩は、ミニキャッパー周平です。いよいよ更新99回目を迎えたこのブログ。100回目にふさわしい作品が何なのかまだ決まっていませんが、99回目に合う作品を探すのにもかなり苦労していました。そこで最終的に、99年に発表されて大きなブームを読んだホラー作品をご紹介することに決めました。
という訳で、本日の一冊は、高見広春『バトル・ロワイアル』。
パラレルワールドの日本(国名は「大東亜共和国」)。準鎖国状態で、総統と呼ばれる指導者の独裁体制下にあるこの国では、法律によって毎年ランダムに選ばれた中学生のクラスが、特別な「プログラム」を受けることになっていた。それは、クラスメート全員を閉鎖環境下におき、最後の一人になるまで殺し合わせるというものだった。
ロック好きの少年・七原秋也の所属する黒岩中学校3年B組は、修学旅行に向かうバスから拉致され、瀬戸内海の孤島に運ばれ、「プログラム」に選ばれたことを告げられる。クラスメート四十二人が最後の一人になるまで殺し合わされる極限状況で、秋也は親友を真っ先に殺されながら、怪我を負った少女・典子を守ろうとする……彼は生き残ることができるのか?
同じ年に刊行された貴志祐介『クリムゾンの迷宮』とともに、後年の「デスゲーム」ジャンルの興隆を決定づけた作品。何しろ19年も前の作品なので、デスゲーム作品好きでも、本書を実際に読んだことのない若い人も結構いるのではないでしょうか。そういう方はぜひ手に取ってみてください。文庫版では500ページ×上下巻という大ボリュームですが、ノンストップで読むことができる驚異の作品ですし、後年の「デスゲームもの」に登場する様々な衝撃が、この時点で既にあらかた備わっていることが分かります。
裏切り、不審、色仕掛け、性的欲求、詐術、脱出作戦、恋心、不慮の死、ヒステリー、とにかく「中学生」が「殺し合う」というシチュエーションに置かれたとき発生し得るであろうすべての要素が盛り込まれています。生徒たちは、命の駆け引きの合間に、時には日常のささやかな恋を思い出したり、時には子供の頃のトラウマを反芻したりしつつも、感傷は死によって踏みつぶされ、物語はフルスロットルで進みます。積み上げた思いが一瞬報われたかと思いきや、あっけなく失われていく場面の切なさ・苦しさに読者は翻弄されます。殺戮に次ぐ殺戮で徐々に読者の感覚も麻痺してきた辺りに叩き込まれる、精神的にキツい死の連鎖も非常にエグく痛ましい。私の中では残り生存者数が二ケタから一ケタになるところが本書でもっとも強烈な印象を残した「死の風景」でした。
一切の感情無くクラスメートを虐殺していく殺人マシーン的な男子生徒とか、美貌と演技力を駆使して騙し殺していく女子生徒とか、脅威となる生徒たちのキャラクターも立っています。また、生徒達はランダムでそれぞれの武器を与えられているのですが(その中には、ナイフや銃器の他、意外な品物もあります)、武器のうち強力なものが、ゲームが進むにつれどんどんヤバい人間の手に渡っていくのもハラハラさせられます。
疑心暗鬼や欺きを数多描きつつも、最終的には「信じる」/「信じない」というテーマにのっとったドラマに帰着することも胸に刺さり、この作品が大量のフォロワーを生んだことも頷ける読後感となっています。
本書は、日本ホラー小説大賞の最終候補に残りながら受賞ならず、太田出版から刊行されたもの。一度はリジェクトされた作品が別の出版社から世に出され、ホラージャンルの、さらには小説の歴史を変えたという点、作家志望者には励まされる部分もあるのではないでしょうか。第4回ジャンプホラー小説大賞も絶賛募集中です。
さて、次回はいよいよ更新一〇〇回目です! 何を紹介すればいいのか誰か教えてください!