今晩は。毎度おなじみジャンプホラー小説大賞宣伝部長ミニキャッパー周平です。
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今回はそんな六つ子の人気にあやかって、「兄弟もの」のホラー作品を選んでみました。
お題は、真藤順丈『庵堂三兄弟の聖職』。
職人気質で人間嫌いだが、弟思いの長男・正太郎、一般的な会社員生活に馴染めない次男・久就(ひさのり)、暴言と暴力の発作を抱える三男・毅巳(たけみ)。彼ら兄弟の育った庵堂家は、社会の暗部でとある家業を営んでいた……。
最近では、何らかの珍しい職業に就いている登場人物を扱った小説――「お仕事もの」と呼ばれるジャンルが花盛りですが、彼ら庵堂家の請け負っている仕事は、中でもぎょっとするような内容です。
遺体加工。遺族からの注文を受け、死者の骨・皮などを素材に、形見となる様々な生活用品を作り上げる、というものです。依頼がくれば、遺体を工房に運び込んで、解体を開始する。作中で、人骨や人皮や人間の脂肪で作り上げられるのは、櫛、石鹸、箸、かばん、ペーパーナイフ、風鈴、etc,etc…。「お仕事中」の描写は、人間をばらばらにして加工する訳ですから、形だけ見れば猟奇殺人現場みたいなものなので、えげつないことは間違いありません。しかし本作は、決して一部スプラッターファンのみに向けた作品ではないのです。
本編で焦点になるのは、一癖も二癖もある庵堂三兄弟、彼らの絆です。
亡き父親から家業を引き継いだ長男・正太郎と、かなり屈折しているものの、正太郎の職人魂、想いを信じて疑わない久就と毅巳の関係性は、その辺のホームドラマよりもずっと血の通ったものに見えます。
庵堂家に突如舞い込んだ、これまでにない難度の「大仕事」を軸にしつつ、末弟である毅巳の恋と懊悩に兄ふたりが振り回され、父の真実や兄弟の出生の秘密も明かされる。そう、これは残虐ホラーではなく、堂々たる家族小説なのです。
この世に残された遺族のため、死者の「声」を聞こう、此岸に留めようとしながら、人体加工作業に挑む正太郎の姿と、それを支える兄弟たちの姿は、絵面こそエグいものの、プロジェクトX的な凄味と鎮魂の切なさの入り混じった、経験したことのない感動を与えてくれます。
決して日向の世界に出てくることはできないが、死者と残された者の橋渡しをするという、ある意味では神聖ですらあるかも知れない仕事。それによって分かちがたく結ばれた兄弟たちの姿を、エネルギッシュに、パンクに描いたグロテスク&ハートフル小説。兄弟ものが好きだという方、(グロ描写がOKなら)お勧めの一冊ですよ。
(※書影はKADOKAWAのHPより引用しました。)