2015年12月12日土曜日

毒のある少女の、二つの物語

 お久しぶりです。ミニキャッパー周平です。
 12月4日(金)をもって、無事に第1回ジャンプホラー小説大賞《銀賞》受賞作、『少女断罪』が発売になりました。
 とある「罪」を抱えた小学校教師の前に現れた、正体不明の転校生の少女・白石美星がもたらす災厄とは……多くの応募作の中から選ばれたこの作品、ぜひご一読下さい!!(Amazonへのリンク

 


 そして、第2回ジャンプホラー小説大賞の募集も開始されています。 

 WEBからでも応募できますのでふるってご応募ください。
 第1回に応募された作品には、ごく一般的な学校を舞台に、人間関係のトラブルから生まれる悲劇や危機、をメインとして扱ったものが多かったです。第2回は、学校以外を舞台にした作品や、常識はずれなアイデアが飛び出す作品も、たくさん読んでみたいですね。ホラー賞HP内には、ホラー作家の先生方のインタビューへのリンクもありますので、是非チェックしてみてください!!


 さて、『少女断罪』は危険な少女の物語なのですが、今回は、古典ホラーからも危険な女性をご紹介しましょう。かなり昔の作品なので、結構ネタバレしてしまいます。

 漫画やラノベなどで、「毒使い」のキャラクター、体の中に毒素を持ち、それを武器に戦う登場人物、というのを見ることがあります。 

 実は、体内に蓄積した毒を暗殺に使う人間、というものは、既に紀元前のインドやギリシャには伝承として存在していたようです。
 それをはじめて小説として描いたのは、恐らく、1844年に発表されたナサニエル・ホーソーン「ラパチーニの娘」(創元推理文庫『怪奇小説傑作集3』などに収録)。


 


 医学生の青年ジョバンニは、とある庭園に訪れる少女に恋をした。

 ベアトリーチェという名の少女は、高名なラパチーニ博士の娘だった。ベアトリーチェに恋焦がれるジョバンニだったが、彼はベアトリーチェの不思議な体質を目撃する。彼女が手に持った花は萎れ、彼女に近づいた虫は死ぬ――
 実は、ラパチーニ博士の実験台として、毒を与え続けて育てられたベアトリーチェは、その身に毒を宿しており、触れるもの近づくものを毒に侵してしまう、恐るべき存在になってしまったのだ。
 妖しく、美しく、そして哀しい宿命を描ききった、古典怪談のアンソロジーには高確率で収録される名作です。

 ……と、ここで紹介を終えてもいいのですが。
 ロシアの作家フョードル・ソログープに「毒の園」(1908年発表)という作品があります(岩波文庫『かくれんぼ・毒の園』収録)。実はこちらも、「若者が庭園に現れる美女に一目ぼれ、しかしその美女は植物学者の父親によって毒で育てられていた……」という、途中まで「ラパチーニの娘」とまるっきり同じプロットなのです。




 ソログープは、他にもホーソーンの短編を下敷きにした作品を書いたものの、盗作と評判を立てられた、という経緯があり、「毒の園」も「ラパチーニの娘」にインスパイアを受けた小説という扱いで、あまりメジャーな作品ではありません。

 しかし、私が敢えてソログープをここで紹介したいのは、「毒の園」の場合は、「キスをすると相手が死ぬ」という、非常に絵になる属性がヒロインに加えられているからです。

 そして、「ラパチーニの娘」と「毒の園」では、結末と、ヒロインの造形が違う。
 ものすごーく端的に申し上げますと、「ラパチーニの娘」は悲劇のヒロイン、「毒の園」はクーデレ、いえ、ヤンデレです。そのいい感じにタガが外れた、毒を持つ美女のキャラクターを是非、堪能してください。


 次回は、小説版『終わりのセラフ 吸血鬼ミカエラの物語』1(絶賛発売中です!→Amazonへのリンク)の担当者として、またも吸血鬼ネタをお送りします。



※『怪奇小説傑作集3』『かくれんぼ・毒の園』 の書影はAmazonより引用しました。