2019年7月6日土曜日

悪魔的料理人の提供する、未知の料理体験とは……? 木犀あこ『美食亭グストーの特別料理』


こんばんは、ミニキャッパー周平です。第5回ジャンプホラー小説大賞は6月末に締め切りました。今回も数多くの原稿をお寄せいただきありがとうございます。審査を始めておりますので、10月下旬の発表を楽しみにお待ちください。ホラー賞募集期間中以外は、「ミニキャッパー周平の百物語」は週一ではなく思いついた時に更新します。読者の方も思いついた時に覗いて頂ければ幸いです。

さて、本日の一冊は、木犀あこ『美食亭グストーの特別料理』。



テーブル上に美味しそうな料理が並んだ表紙で、帯には『悪魔的料理人とあらゆる食を愛する大学生による究極の飯テロ小説! あなたの空腹(よくぼう)満たします。』と書かれており、一見したところグルメ小説にしか見えないのですが、この本、ホラーレーベルである角川ホラー文庫から出ています。その中身とは……?

歌舞伎町の某所に存在し、店の扉のプレートには、《満ち足りた方はご遠慮ください。飢えている方は、ご遠慮なく》との謎めいた文言が掲げられている料理店、美食亭グストー。グルメブログを運営する大学生・一条刀馬はそこに入店し、偶然からその地下階に存在する怪食亭グストーに辿り着く。

珍しい食べものと未知の陶酔を提供するというその店で、刀馬は、“絶望のパスタ”と名付けられたとある恐るべき料理を食べさせられ、大量の借金を背負わされたあげくそこで働く羽目になった。グストーの店長兼料理長である荒神羊一は、客の望みを聞き、希望通りの食卓を用意するのがポリシーだが、幸せな食卓というものを信じないと嘯く。

実際、グストーに訪れる客たちも、料理を提供されたときには、自らの抱える過去や秘密が暴露され、(色々な意味で)一生忘れられない体験をさせられることになる。娘と妻に復讐の“サプライズ”パーティーを仕掛けられた男。歴史の影に消えた“天牛の腐肉”と呼ばれる謎の肉に救いを求める美食家。究極のまずいものを探そうとするサークル『水曜まずいもの倶楽部』の主宰者。幼いころ食べた、何を餌に育ったか分からないすっぽんの味に取りつかれた女性。最後のすっぽんの話は、イメージ元となったと思しき “あの”ウミガメのスープ問題をしょっぱなから掲示しており、それゆえにこそ緊張感がありつつ意外な展開が待ち構えています。やがて、客の話ばかりでなく、この異常極まる店の主である羊一の過去も明かされていき……。という訳で、角川ホラー文庫からの刊行にも納得の異色グルメ小説です。

さて、作者の木犀あこさんは、Jブックスからも、昨年Huluで配信された人気ドラマ『ミス・シャーロック』のノベライズを刊行しています。電子書籍版もありますので、こちらも宜しければご一読ください。