2018年4月7日土曜日

水族館の地下から呼ぶ、異界の声――稲生平太郎『アクアリウムの夜』


今晩は、ミニキャッパー周平です。百物語を標榜している当ブログですが、気づけば今回の更新で93回目となりました。記念すべき100回目まで着々と更新していきたいですが、私一人のリサーチ力では限界に近付きつつあるので、最近では人から勧められた本を読む毎日です。

という訳で、本日の一冊は集英社内の某氏から勧められた、稲生平太郎『アクアリウムの夜』。



高校2年生の春、公園の野外劇場に現れた見世物「カメラ・オブスキュラ」を見た時から、広田義夫と友人の高橋は、惨劇へ至る道に踏み入ってしまった。カメラ・オブスキュラの映像に現れたのは、義夫がよく行く水族館だったが、そこには存在しないはずの「地下への階段」が写されていた。階段の正体が気になる二人は、義夫の幼馴染である大鳥良子の思い付きで、水族館の地下に何があるかをこっくりさんに尋ねようとする。しかし、こっくりさんはそれに答えず、「誰か一人が死ぬ」という不気味な予言を残した。やがて、高橋はラジオのホワイトノイズの中に金星からのメッセージを聞き取ってしまうなど、挙動が不審になり……

著者・稲生平太郎は、英文学者・横山茂雄の別名義。ゴシック小説を専門としつつ、民俗学やオカルティズムの研究も行っているという人で、小説の著作は本書と幻想ミステリ『アムネジア』のみ。著者の、研究者としての知識は本書にいかんなく発揮されており、現代(といってももともとは90年刊行の本ですが)の高校生を主人公としているものの、彼らが迷い込んでいった先にあるのは、明治から昭和初期に存在した謎の新興宗教であるとか、チベットの地下世界に存在する迷宮であるとか、ディープでオカルティックな世界なわけです。

そういった異常な世界の浸食、異物の混入によって、バンドを組んでいる義夫と高橋の青春の日々や、義夫と良子の恋愛未満の関係性などが、破壊され取り戻せなくなっていく。義夫は、自分の手に残ったものを守るため、そして、日常を取り戻すために、夜の水族館に侵入しますが、そこで対峙するのは圧倒的な「異形」の姿……普通のホラー小説であれば、終盤で事件の背後にいた黒幕やその動機が明らかになるわけですが、真相のほのめかしこそあるものの、疑わしい登場人物は疑わしいまま素顔を暴くことはできず、理屈に合わない部分も数多く、掴みかけた真実は手をすりぬけていきます。最後に残されるのは、手痛い喪失感と、また何かが失われそうな不吉な予兆ばかり。壊れてしまった人間の描写、予言の成就した瞬間の光景なども含め、「青春ホラー」という言葉の枠には収まらない、深海魚めいた底知れぬ暗さのある作品です。

最後にCMを。第3回ジャンプホラー小説大賞銀賞受賞の『自殺幇女』『散りゆく花の名を呼んで、』それぞれの作者へのインタビューが『ダ・ヴィンチ』5月号に掲載されております。ぜひご一読ください。第4回ジャンプホラー小説大賞も原稿募集中です!