2017年5月13日土曜日

窓の向こうは見知らぬ土地、私を崇める人たち……深い夜の幻想譚『やみ窓』

今晩は、ミニキャッパー周平です。GW中はひたすら書店を巡ってホラーを漁りましたので、しばらくはこのブログも安泰です。おかげでまた夢見が悪くなりましたが、早起きできて結果オーライです。ほんまかいな。

第2回ジャンプホラー小説大賞受賞作の2冊『たとえあなたが骨になっても』『舌の上の君』(ともに6/19発売予定)ですが、書影の公開やその他の素敵なニュースも近日中に。第3回ジャンプホラー小説大賞の〆切まではあと一か月半。今からでも遅くはないので、皆さまぜひ渾身のホラーをご執筆&ご応募ください。

さて、「窓の向こう」「扉の向こう」が「ここではないどこか」に繋がっている、という秘密めいた怪奇はホラーや幻想小説の花形ですが(H.G.ウェルズ「塀についた扉」は、幻想短編のマイベスト。超お勧め)、今宵ご紹介するのもそんな一冊。篠たまき『やみ窓』です。



夫を不慮の事故で喪い、一人暮らしをしていたフリーター・黒崎柚子は、自身の住むアパートの窓が、夜、いずことも知れぬ時代・土地の村と繋がることを知る。やがて柚子は窓の向こうに訪れる村人たちと「取引」を始めた。村人たちから地産の品を受け取る代わりに、柚子は、村人たちが貴重な壺と見なすもの(正体はただのペットボトル)を与える。村人たちから捧げられた、熊の肝や黒い米、精巧な織物などの珍しい品々は、インターネットで高く売れるのだ。柚子は、昼には派遣仕事に通う一方で、夜は一晩中、窓の前で訪問者を待ち続けて生計を立てることになった。しかし、窓に訪れるのは、必ずしも安全な取引相手ばかりでなく、柚子は時に命の危機にさえ晒される……。

この物語の面白さは、何の能力も持たない普通の人間であるはずの主人公が、窓の向こう側の村人にとって常識を超えた「怪異」になってしまう、という点です。小金を稼ぐために取引をしていただけだったはずの柚子は、いつの間にか村人たちから信仰の対象とされ、豊作や病気の治癒など叶えられる筈もない「神頼み」をされたり、供物を捧げられたり、望まぬうちに村人たちの人生を翻弄してしまったり、と「恐るべき神」そのものになってしまうのです。

窓のこちら側では、自身の薄暗い過去に追われる、傷ついた一人の人間。窓の向こう側から見れば、時に恵みを、時に災厄をもたらす、人智を超えた獰猛な神。そんな騙し絵染みた構図が鮮やかですし、どんなに窓越しのやりとりを繰り返しても、窓の向こう側で起きた出来事には関われず、その行く末は想像することしかできない、という状況が、深い余韻を残すラストに結びついています。

夜、一人きりで部屋の中にいると、ふと窓の向こうが異界に繋がっていないか、カーテンを開いて確かめてみたくなる――そんな、「あちら」と「こちら」の距離を縮める一冊です。