2017年3月25日土曜日

「怖い話」が二人を繋ぐボーイミーツガール『おそれミミズク あるいは彼岸の渡し綱』



今晩は。ミニキャッパー周平です。第3回ジャンプホラー小説大賞、絶賛募集中です‼ 第2回受賞作の2冊も現在絶賛校正中ですのでぜひお楽しみに‼

さて本日は、前回の『裏世界ピクニック』に引き続き、「怪談」をテーマにした作品をご紹介致します。お題はオキシタケヒコ『おそれミミズク あるいは彼岸の渡し綱』。




田舎町に越してきた12歳の男子小学生・逸見瑞樹(へんみみずき)は、自転車で探索中、古い屋敷にたどり着き、その土蔵で座敷牢に閉じ込められた少女に出会う。外の世界を見ることのできない彼女は「怖い話」を聞くことを何よりの楽しみとしていた。瑞樹は、怪談を集めて週に一度彼女のもとへ赴き、語り聞かせることになる。

瑞樹は余りに多くの怪談を読み漁ったため、日常の些細なことにも怪異の影を見て怯えるほど臆病になってしまうが、それでもなお、怪談雑誌を買い込んでネタを仕入れ、毎週、少女のところへ通い続けた。だが、二人の出会いから十年が経った頃、町に「失せ物探し」を請け負う正体不明の男が訪れたことをきっかけに、秘密の関係は終焉に向かう。

まず、「怖い話が苦手な主人公が、怖い話好きの少女を喜ばせるため怪談を語り聞かせる」というシチュエーションがリリカルで美しく、怪談という素材はこういう形で調理することもできるのか、と新鮮な驚きがあります。そして、瑞樹の仕入れてくる実話怪談がいかにも本物らしく、背筋をぞわりとさせる不気味なリアリティに満ちています。瑞樹と少女の座敷牢でのやりとりのシーンは、静謐な闇の質感、冷たさが、ページ越しにひしひしと伝わってきます。

とはいえ、作者が読者を怖がらせようとしているのは物語の前半までで、後半では、少女や少女を閉じ込めている者たちの素顔、瑞樹が感じている恐怖の源泉、作中で語られた怪談の真実、死後の世界の正体、などの大小さまざまな謎について、怒濤のように「謎解き」が行われ、物語を覆っていた闇が晴れていくことになります。時に伝奇的であり、時にミステリ的であり、時にSF的である、そんな真実が次々開示され、読者は驚愕せざるを得ないでしょう。そんな、様々なジャンルに跨るようなこの作品を貫いているのは、ボーイミーツガールとしての温かさ。爽やかな読後感を求める方に推したい一冊です。

毎週一度、ブログでホラー作品を紹介するというミッションを数か月繰り返すだけで、ネタ切れに苦しんでいる私としては、怪談集め&怪談語りを十年に渡って続けた主人公に対して頭の下がる思いですが、「怪談を読みすぎて夢見が悪くなる」「怖い話に触れすぎて普通の生活でもビビりになる」という状態には、深く共感する次第です。

というわけで、怖い話を「語る」ホラーでしたが、来週は、怖い話を「書く」物語です。

2017年3月18日土曜日

怪異を見抜き、撃ち倒せ! ガールズインターネット怪談探索記『裏世界ピクニック』



今晩は。お久しぶりのミニキャッパー周平です。

改めてご挨拶させて頂きますと、このブログは「ジャンプホラー小説大賞」の募集に合わせ、賞の宣伝隊長である私ことミニキャッパー周平が、趣味と深夜テンションの赴くままに、気になるホラー小説を紹介していく、アバウトな宣伝企画となっています。

ジャンプホラー小説大賞も第三回募集中、このブログもサードシーズンです。今期もホラー作品を(たぶん)毎週金曜26(土曜丑三つ時)に闇雲に紹介していきますのでどうぞ宜しくお願い致します。

また現在、公式HPではJブックス編集部員たちがお薦めのホラー作品を紹介しておりますのでこちらもご覧下さい。ちなみに編集部員のうち何人かは、賞への応募作として「キャラクター性のあるホラー」を読みたいとコメントしていますが、キャラクターのあるホラー作品ってどういうものなの?  と疑問の方もいらっしゃるでしょう。

そこで、サードシーズン第一回目のテーマは、キャラの魅力が光るホラー『裏世界ピクニック』(作・宮澤伊織)です。


女子大学生・紙越空魚は、趣味の心霊スポット巡り中に、異世界へと繋がる扉を発見した。<裏側>と名付けたその異世界を散策していた空魚だったが、「見た者の精神を破壊する」とインターネット怪談で語られた怪異「くねくね」に遭遇してしまう。あわや溺死の危機に陥ったところを、同じく異世界を探索中だった少女・仁科鳥子に助けられ、「くねくね」を倒すことに成功する。


鳥子は、かつて失踪した友人を探し出すべく異世界探検を繰り返していた。空魚は、鳥子を手助けするために彼女に同行することになるが、それは、実話怪談で囁かれる怪異に次々遭遇し何度も死にかける、恐怖体験の始まりでもあった……

異世界で二人が出会うのは、あり得ない背丈の女性「八尺様」や神隠しされた人が辿り着く駅「きさらぎ駅」など、ある時代のインターネット怪談に親しんでいた読者にとってはお馴染みのものでしょう。そんな怪異の住処に、たとえば米軍の部隊が駐屯していて、ゾンビ映画さながらの必死の戦いを続けている、といったような意外なアレンジ、素材の調理の仕方は見どころです。

そしてもちろんキャラクターの良さ。一見ツッコミ役の常識人に見えて実はままならない内面を抱えている主人公・空魚が怪異の実態を見抜き、破天荒なキャラに見えて実は繊細な部分のある鳥子が怪異を銃で撃ち抜いていく。そんなコンビネーションが絶妙で、彼女たちの活躍だけでなく、ストーリーが進むに連れて、二人の関係性がどのように変化していくのか、も見逃せない要素となっています。

二人のテンポのよい掛け合いとスピーディーな展開で、あっという間に読んでしまえる一冊です。この本は四話収録ですが、続編も構想されているとのことで、残された謎に早くも続巻が待ち遠しいところです。
さて、次回も「怪談」と関連の強いホラー作品をご紹介致します。今期も「ジャンプホラー小説大賞」と「ミニキャッパー周平の百物語」をどうぞ御贔屓に。