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2018年6月16日土曜日

「狼狩り」と「裏切者探し」のホラー×サスペンス×ミステリ。氷桃甘雪『六人の赤ずきんは今夜食べられる』



今晩は、ミニキャッパー周平です。第4回ジャンプホラー小説大賞募集〆切(6/30)まであと僅か。応募者の方はぜひラストスパートを頑張って下さい! 
さて、これまでこのレビュー欄では(「ホラー」と銘打つ本の絶対数が少ないので)ライトノベルレーベルの本はあまりご紹介できなかったのですが、新刊棚の帯に「パニックホラー×ナゾトキ」の文字が躍っている本があったので、これ幸いとレビューしてみます。

という訳で、本日の一冊は、氷桃甘雪『六人の赤ずきんは今夜食べられる』。



かつて騎兵であったころ、功を焦ったために無辜の人々の殺戮に加担してしまった男は、その罪を悔いながら、猟師として生きている。彼はとある鄙びた村で、村人から恐ろしい話を聞かされる。
今日は一年に一度、満月が赤く染まる日であり、「ジェヴォーダンの獣」と呼ばれる狼が現れて村に住む「赤ずきん」の少女たちを襲って殺す日だ。その狼は、牛よりも大きく、熊よりも凶暴で、人間よりも賢い。村の人々が束になって狩り立てても殺すことができないし、少女たちが逃げ出しても執念深く追って殺す。抗う術はない――その話を聞いた猟師は、村に住む六人の赤ずきんを守り、ジェヴォーダンの獣を狩るため、村の外れにある塔に籠城しようとする。だが、狼の知恵は彼の予測を遥かに上回り、犠牲者が出始める。そして赤ずきんたちの中に「裏切者」の存在さえ見え隠れして……。

という訳で本書は、狼の襲撃から生き延びるホラーサスペンスであると同時に、赤ずきんの中に紛れ込んだ「犯人」を突き止めるミステリ性のある作品でもあります。

VS猟師といえば真っ先に思い浮かぶのは銃での戦いですが、何しろこの狼は銃ごときで撃ち殺されるようなヤワな相手ではなく、猟師は知恵によって狼と戦うことになります。とはいえ狼の方も、獲物が地下に逃げ込めば水を流し込む、獲物に忍び寄るために足音を消すなど、獣とは思えない悪辣さであり、単純な罠などたやすく看破されてしまいます。猟師は、6人の赤ずきんがそれぞれ所有する、「硬化」「発火」「透明化」などの特殊な効果をもつ秘薬を用いた策略で、必死の防衛戦を繰り広げます。つまり、ファンタジーの手法で描かれたモンスターパニックホラーなのです。

そして猟師は、迫り来る狼と戦いながら、一見したところか弱い少女にしか見えない赤ずきんたちに紛れ込んでいる「敵」を見つけ出す、という難事にも挑まなければなりません。彼らの籠城した塔は、かつて魔女が暮らしていて、凄惨な拷問が行われていたという超いわくつきの場所ですが、そこに隠されていた手がかりと、狼の挙動から推理することで、真実に辿り着こうとします。夢中で一気読みした私は真相の予想に失敗しましたが、伏線も丁寧に張られていますから、注意深く読めば第3章が終わるまでに「裏切者」の正体を見抜けるはず。ぜひ犯人当てに挑んでみて下さい。

2018年6月9日土曜日

宇宙や異次元から来訪する、まだ見ぬ恐怖――ディック・クーンツ他、中村融編『ホラーSF傑作選 影が行く』

今晩は、ミニキャッパー周平です。第4回ジャンプホラー小説大賞は応募締切間近。6/30当日消印有効です。お忘れなく!

さて、本日の一冊は、ディック・クーンツ他、中村融編『ホラーSF傑作選 影が行く』。


現代SFの起源と呼ばれることもある『フランケンシュタイン あるいは現代のプロメテウス』がホラー史においても金字塔であることからも分かるように、「未知」の対象に科学的なアプローチで迫ろうとするSFは、時にすぐれたホラー作品も生み出してきました。本書は、そういった米英の短編群を日本で独自に集めたアンソロジーです。一番古いものは一九三二年発表、新しいものでも一九七〇年発表という、既にクラシックの風格漂うラインナップとなっています。

まず、こういったジャンルで思い浮かぶのは「宇宙の恐怖」でしょう。
一番古いクラーク・アシュトン・スミス「ヨー・ヴォビムスの地下墓地」は、火星の遺跡で調査隊のメンバーが遭遇する、(恐らくは)古代人を滅ぼした恐怖の存在を描きます。狂気に誘う怪物の禍々しさ、いかめしい文体と、昏く湿度のあるムードはクトゥルー神話を髣髴とさせます。
ジョン・W・キャンベル・ジュニア「影が行く」は、『遊星よりの物体X』『遊星からの物体X』と2度にわたって映画化された作品。南極基地で氷の底から発見された、憎々しげな表情を浮かべた異星生物の氷結死体。基地にいる科学者たちは、よせばいいのにそれを解凍し目覚めさせてしまいます。異星生物は、生き物を殺しては殺した相手そっくりになり代わり思考までコピーする、という凶悪な能力を備えており、疑心暗鬼に陥る基地隊員の心理描写が巧みである一方、「人間」と「偽物」を区別するための科学的な手法の探求にも、うならされます。
ブライアン・W・オールディス「唾の樹」では、異星から飛来した生物が農場で引き起こす騒動が描かれます。動物が多産となり植物が豊作となる一方で発生する、グロテスクな死。「宇宙戦争」の作者であるウェルズもかかわってきて、「宇宙戦争」の誕生秘話とも呼べる作品になっています。
フィリップ・K・ディック「探検隊帰る」は、それらの作品とはやや焦点を変えた変わり種。火星探検から奇跡の生還を果たした宇宙飛行士たちの視点で描かれますが、命からがら帰り着いた地球では、出会う人出会う人が彼らを見るなり逃げ出すという理解不能な事態に出くわすという展開。ディックお得意の現実溶解感が楽しめます。
ジャック・ヴァンス「五つの月が昇る時」は、衛星が五つある惑星の、灯台守を主人公にした作品。同僚が、「五つの月が昇る時は何も信用してはいけない」という言葉を残して失踪。たった一人残された主人公のもとに次々訪れる、「信用のおけない」相手たち。ちょっと本邦の雪女譚などを連想させるファンタジックな怖さのある作品です。

テクノロジーの発達によって生まれたものが、人間に危害を及ぼしたり、人間と相いれない存在として立ち上がってくる、というのもこのジャンルの醍醐味のひとつ。
アルフレッド・ベスタ―「ごきげん目盛り」は、富豪の男が、なぜかお供のアンドロイドが人を殺しまくるので逃亡を余儀なくされる、というストーリーで、残虐なのに軽快でコミカル、読んでいくうちに何か楽しくなってしまう作品。
デーモン・ナイト「仮面(マスク)」は、事故により肉体を失い、体のすべてを技術で代替した男の心に巣喰い始めた異質な思考をリアルに描きます。
シオドア・L・トーマス「群体」はパニックSF。下水管の中で、廃棄物などから発生した不定形生物が、下水道を遡って家庭のキッチンなどから侵入。克明に描かれる、怪物が人間を消化吸収していく場面は、今でも通用する映像的凄味、ハリウッドのCGで見てみたいおぞましさがあります。
私の一押しでもある、ロジャー・ゼラズニイ「吸血鬼伝説」は、人類が絶滅し、地球最後の吸血鬼もいなくなったあと、機械が徘徊する世界が舞台。「他の機械の電力を奪って充電する」ことで機械たちから恐れられる一体の吸血鬼機械を描きます。吸血鬼機械は、最後の吸血鬼の弟子的な存在だったのです。ユーモア小説にしかならなさそうなのに謎のカッコよさがあるという異色作です。

その他にも、SFらしい発想と怪異・恐怖を様々な手法でミックスした作品が並んでいます。
リチャード・マシスン「消えた少女」は、とある夫婦の娘が「室内にいて、泣き声も聞こえるのにどこにも見当たらなくなってしまう」という不気味な現象を描きます。
フリッツ・ライバー「歴戦の勇士」は、酒場で知り合った男の家について行ったら、時空を懸けた壮大な戦争に巻き込まれ、恐怖の一夜を過ごす、というもの。部屋に閉じこもっているだけなのにすさまじい緊張感が高まっていくサスペンスフルな描写が見事です。
キース・ロバーツ「ポールターのカナリア」は、ポルターガイスト風の心霊現象を起こす存在に対して、録音・録画で分析してみたり、敢えて信号を送りコミュニケーションを取ってみたりという部分がSF的。
ディーン・R・クーンツ「悪夢団(ナイトメア・ギャング)」は、暴虐無比の限りを尽くすギャング団、そのメンバーの一人がボスの秘密に迫ろうとする物語。売れっ子ホラー作家・クーンツの意外な初期作品です。

SFとホラーの両方を摂取し続けている私としては、このアンソロジーの続編や現代版も出て欲しいと願っています。

2018年5月12日土曜日

超人気ホラー作家入門編――スティーヴン・キング『ミスト 短編傑作選』

今晩は、ミニキャッパー周平です。記念すべき第100回に向けて邁進し続けるこのブログですが、第98回目の今回まで、とある超大物ホラー作家の本を取り上げていなかったことが判明しました。果たしてどの著作を紹介すべきか……と悩んでいたところ、折よく短編集が刊行されたのでご紹介します。

という訳で本日の一冊は、スティーヴン・キング『ミスト 短編傑作選』。長編作家のイメージが強いキングですが、この一冊はコンパクトで入門としてもお手軽です。



冒頭を飾るショートショート「ほら、虎がいる」は、授業中、男子生徒がトイレに向かうとそこには人喰い虎がいた――という、子供の白昼夢めいたシチュエーションが、直接的な描写を抑えつつ鮮やかに描かれる幻想恐怖小説。

「ジョウント」はキングの作品に垣間見えるSFテイストが前面に出た短編。古典『虎よ、虎よ!』に登場するテレポート技術「ジョウント効果」を題材に、物質転送技術に潜む陥穽を、火星へ旅立つ家族の一コマを通じて語ります。(クトゥルー作品等とは別の意味で)宇宙的な恐怖を感じさせる一本。

「ノーナ」は、服役中の青年の語りから始まるファムファタルもの。大学を辞め放浪していた青年が、食堂で出会った謎めいた女に一目ぼれしてしまったことをきっかけに、猟奇的な殺人に手を染めていく……青年の怒りと殺人欲求を増幅させる、謎の女の正体とは? ティーンエイジャーの鬱屈と破壊衝動が浮き彫りにします。

「カインの末裔」は、少年が犯罪計画を実行するまでを描いた掌編。何気ない寮生活のワンシーンから、隠していた銃を取り出し決行に至るまでの流れがシームレスに描かれる中で、「何が彼をそうさせたか」は、不気味な謎として残されます。

巻末におかれ、本書の半分強を占めるのが、映画・ドラマ『ミスト』の原作にもなった代表作の一つ「霧」。湖畔の家に住むデヴィッドは、大きな嵐が去った翌日、濃い霧が立ち込める中で、息子のビリー、隣人のノートンとともに買い出しに出かける。だが、スーパーマーケットでレジの行列を待っている間に、男が「霧の中に何かがいる」と叫び店内に駆け込んできたことで、店内にパニックが起こる。霧の中には、この世のものではない複数の怪物たちが潜んでおり、人間の命を狙っていたのだ。スーパーマーケット内の人々は、立て籠もって生き残りを模索するが、怪物の存在を信じず外へ出ていこうとする者、怪しげな終末論を説く扇動者などの存在で、人々の精神は限界に近付いていく……

特に印象的な場面は、「外へ出て救援を呼びにいく」と主張する集団の一人に長い綱を持たせて、「どこまで行くことができるか」=「どのくらいの距離まで死なずに進めたか」を確かめようとする箇所。綱のこちら側に伝わってくる振動の描写だけで、彼らが怪物に襲われ、捕食されたらしいことが伝わってくるという展開で、怪物の姿を直接描いていないのに、恐ろしさを存分に引き出しています。こういった視覚的な刺激のあるアクション・殺戮シーンが多数含まれ、複数回映像化されるのも納得の内容となっています。

ところで、映画『ミスト』といえば衝撃的な結末で有名ですが、それは監督フランク・ダラボンによって改変されたものであり、原作版の終幕とはほぼ別物。どちらのエンディングが好きか見比べてみてもよいかと思います。

最後に毎度おなじみのCMを。「ジャンプホラー小説大賞」第4回の締切6月末までもうすぐ。ふるってご応募ください。第3回のジャンプホラー小説大賞銀賞受賞作『自殺幇女』『散りゆく花の名を呼んで、』も絶賛発売中です。


2018年4月7日土曜日

水族館の地下から呼ぶ、異界の声――稲生平太郎『アクアリウムの夜』


今晩は、ミニキャッパー周平です。百物語を標榜している当ブログですが、気づけば今回の更新で93回目となりました。記念すべき100回目まで着々と更新していきたいですが、私一人のリサーチ力では限界に近付きつつあるので、最近では人から勧められた本を読む毎日です。

という訳で、本日の一冊は集英社内の某氏から勧められた、稲生平太郎『アクアリウムの夜』。



高校2年生の春、公園の野外劇場に現れた見世物「カメラ・オブスキュラ」を見た時から、広田義夫と友人の高橋は、惨劇へ至る道に踏み入ってしまった。カメラ・オブスキュラの映像に現れたのは、義夫がよく行く水族館だったが、そこには存在しないはずの「地下への階段」が写されていた。階段の正体が気になる二人は、義夫の幼馴染である大鳥良子の思い付きで、水族館の地下に何があるかをこっくりさんに尋ねようとする。しかし、こっくりさんはそれに答えず、「誰か一人が死ぬ」という不気味な予言を残した。やがて、高橋はラジオのホワイトノイズの中に金星からのメッセージを聞き取ってしまうなど、挙動が不審になり……

著者・稲生平太郎は、英文学者・横山茂雄の別名義。ゴシック小説を専門としつつ、民俗学やオカルティズムの研究も行っているという人で、小説の著作は本書と幻想ミステリ『アムネジア』のみ。著者の、研究者としての知識は本書にいかんなく発揮されており、現代(といってももともとは90年刊行の本ですが)の高校生を主人公としているものの、彼らが迷い込んでいった先にあるのは、明治から昭和初期に存在した謎の新興宗教であるとか、チベットの地下世界に存在する迷宮であるとか、ディープでオカルティックな世界なわけです。

そういった異常な世界の浸食、異物の混入によって、バンドを組んでいる義夫と高橋の青春の日々や、義夫と良子の恋愛未満の関係性などが、破壊され取り戻せなくなっていく。義夫は、自分の手に残ったものを守るため、そして、日常を取り戻すために、夜の水族館に侵入しますが、そこで対峙するのは圧倒的な「異形」の姿……普通のホラー小説であれば、終盤で事件の背後にいた黒幕やその動機が明らかになるわけですが、真相のほのめかしこそあるものの、疑わしい登場人物は疑わしいまま素顔を暴くことはできず、理屈に合わない部分も数多く、掴みかけた真実は手をすりぬけていきます。最後に残されるのは、手痛い喪失感と、また何かが失われそうな不吉な予兆ばかり。壊れてしまった人間の描写、予言の成就した瞬間の光景なども含め、「青春ホラー」という言葉の枠には収まらない、深海魚めいた底知れぬ暗さのある作品です。

最後にCMを。第3回ジャンプホラー小説大賞銀賞受賞の『自殺幇女』『散りゆく花の名を呼んで、』それぞれの作者へのインタビューが『ダ・ヴィンチ』5月号に掲載されております。ぜひご一読ください。第4回ジャンプホラー小説大賞も原稿募集中です!

2017年11月25日土曜日

バースデーケーキは人肉で……マット・ショー/マイケル・ブレイ作、関麻衣子訳『ネクロフィリアの食卓』

今晩は、ミニキャッパー周平です。書店で気になった本はとりあえず冒頭を立ち読みしてみる派です。今回ご紹介する本は、開くといきなり、「WARNING 本書は成人の読者を想定して書かれた、過激なホラー小説です。(略)過激な表現を好まない方や、ショックを受けたり気分を害しやすい方は、ご注意ください」との、「警告文」が掲載されています。次のページをめくると、「幅広いホラーファンに届く作品を書くつもりだったが、書いているうちに本当に恐ろしい物語になってしまった」「この作品の内容は物議を醸すだろう」的な「著者からのメッセージ」が、共作なので二人分並んでいます。物語が始まる前からこんなに連続で脅かされる作品もあまりないでしょう。

というわけで、今回のテーマはマット・ショー/マイケル・ブレイ作、関麻衣子訳『ネクロフィリアの食卓』。



ガソリンスタンドの売店で働くクリスティーナは、1991年から現在(2014年)まで長きに渡って続いている連続失踪事件に、強い関心をもっていた。ホラー小説ファンでもあったクリスティーナは、ガソリンスタンドに訪れる客を殺人鬼に見立てる「遊び」を繰り返しているうちに、運悪く連続失踪事件の真犯人である老人と老女に遭遇し、拉致されてしまう。

クリスティーナが目覚めたのは森の中の家。叫び声を上げても誰も助けに来ず、厳重に封鎖されていて逃げ出すこともできない。家の住人は、老人と老女、そして彼らの息子――人間の皮でできたマスクを被った、二メートルを超す長身の怪物――だった。クリスティーナは、同じく拉致されてきた会社員の男性・ライアンとともに、息子の「誕生日」に必要とされたのだった。地獄の誕生日パーティーが始まる――

この物語は、ファンタジー・超自然の要素を一切含まず、徹頭徹尾、現実に存在しうる(性的なものも含む)暴力と殺戮の姿を描いた鬼畜系ホラーとなっています。

作中、もっとも精神に与えるダメージが大きい箇所は、「怪物」の誕生を描く章。夫から陰惨なまでの虐待を受けながら、逃げることも自殺することもできず、泥沼に嵌まっていく女性の姿を描いており、その臨場感に欝々とした気持ちになること必至です。特に、子供だけは守ろうとしていたのに、だんだん心が麻痺していく辺りの嫌なリアリティは強烈です。

しかし最大の見せ場はやはり誕生日パーティー。「メインディッシュは生きた人間」と帯でうたわれているので、カニバリズム描写は予想できると思います。しかし、「人間バースデーケーキ」に蝋燭を立てるために切れ込みを入れて……という箇所には、絵面のエグさにページから目を逸らしたくなりました。

暴力描写、精神的な痛めつけが強く、冒頭の警告文も納得の内容といえます。警告文に怯まない方はお楽しみください。


そして、カニバリズム描写といえば、第1回ジャンプホラー小説大賞銅賞受賞作『ピュグマリオンは種を蒔く』電子書籍で発売中。こちらもよろしくお願いいたします。

2017年11月4日土曜日

怪異集結、世界の存亡をかけた戦い――ロジャー・ゼラズニイ『虚ろなる十月の夜に』

今晩は、ミニキャッパー周平です。この間、CDを借りようと渋谷に向かったところ、ちょうどハロウィンの仮装をした大群衆と出くわして、進むことも脱出することもできない大変な目に遭いました。子どもの頃は日本国内ではそんなにポピュラーだった気がしないので、これほど日本にハロウィンが定着していることに隔世の感を覚えます。

さて、今回は、そんなハロウィンが舞台になった素敵な作品を。SF・ファンタジー作家のロジャー・ゼラズニイによる『虚ろなる十月の夜に』(訳:森瀬繚)です。



19世紀末、ある年の10月。切り裂きジャックに飼われる犬・スナッフの日課は、主人の仕事の手伝い。魔術的な力を持ち、人の言葉を理解するスナッフは、警察や敵対者に追われるジャックを守る番犬でもあり、使い魔でもある。スナッフばかりでなく、近隣では、ネコ・ヘビ・コウモリ・リス・フクロウなど様々な動物が、それぞれの飼い主の使い魔として動き、情報を収集し、何やら準備をしている。動物たちとその飼い主たちは、実は、世界をかけた戦いの参加者なのだ。彼らの正体は、古の神々を復活させようとする≪開く者(オープナー)≫と、それを阻止しようとする≪閉じる者(クローザー)≫。二つの勢力は、ハロウィンの夜に行われる「大いなる儀式」に向けて魔術的な闘争を繰り広げる――。

というわけで、10月1日から1031日までの戦いの経過を描いた作品です。序盤は次々に喋る動物が登場するファンタジックな絵面ですが、互いに「どちらの陣営に属しているのか」を探り合いながら情報交換をするという、ゲームの準備段階のような内容(登場キャラクター数がかなり多いので、自分で登場人物表を作りながら読んだ方が分かりやすいと思います)。当然ながら読者にも、どのキャラがどちらの陣営に属しているか、なかなか明かされないのでやきもきさせられます。そして新月の夜辺りから参加者がついに衝突を開始。死者や退場者が出始めるとがぜん物語は盛り上がり、大いなる儀式に向けて、一気に加速していきます。

作者の旺盛なサービス精神が満ちている物語でもあり、ジャックを追っている(女装もする)探偵はどう見てもシャーロック・ホームズだし、マッドサイエンティストが死体のパーツを繋ぎ合わせてフランケンシュタインの怪物を作り上げようとしているし、コウモリの飼い主は超常的な能力をもつ「伯爵」だし、満月の夜が近づくと変身しそうになるやつはいるし、とオールスターが夢の競演、といった感があります。その彼らが古の神々、即ちクトゥルーの神々の復活をかけて戦っているという豪華さであり、ゲーム化とか映画化とかしてほしい内容になっています。


11月になってしまいましたが、忙しくてハロウィンを楽しめなかった、という方はぜひ本書で、マジカルなハロウィンを体験してみてはいかがでしょうか。

2017年8月5日土曜日

化物屋敷で砂まみれの家族の団欒を――澤村伊智『ししりばの家』

今晩は、ミニキャッパー周平です。校正のために、生活が完全に昼夜逆転しました。このブログも朝4時に執筆しています。もし文章に変な部分があっても深夜テンションなのでご寛恕下さい。皆さんはぜひ、ホラー小説を読む際は、精神をもっていかれないよう健全な生活を心がけてください。

さて、前回から「絶対に住みたくない物件」探訪として、幽霊屋敷ものを取り上げておりますが、今回ご紹介するお住まいは、外からは一見したところ普通の住宅にしか見えません。けれど、中に住む者たちの実態はといえば……?
というわけで本日のお題は、澤村伊智『ししりばの家』。


『ぼぎわんが、来る』『ずうのめ人形』に続く、霊媒師「比嘉真琴」が登場するシリーズの3冊目ですが、ここからでも問題なく読むことができます。

小学生の頃、無人の幽霊屋敷に探検に訪れた五十嵐哲也は、その場で得体の知れない化物に遭遇した。友人たちは心を壊されたうえで命を落とし、哲也自身も、「頭の中で砂の音が鳴る」呪いらしき症状に四六時中苦しめられることになり、社会から脱落した。しかし、彼の人生を狂わせた幽霊屋敷には、新たな居住者が現れ、外からは平穏な暮らしがなされているように見えた……。

一方、夫とのすれ違いにわだかまりを抱える主婦・笹倉果歩は、幼馴染・平岩敏明と偶然再会し、妻と母との三人で暮らしているという敏明の家に招かれる。しかし、平岩家を訪れた果歩を待ち構えていたのは、家のあちらこちらにうっすらと砂が積もり、すすり泣きが聞こえる異常な空間で暮らしている家族の姿だった。敏明の妻・梓は、果歩に打ち明け話を始めるが……。

二つの視点から語られていくのは、一軒の家に長年巣食い続けてきた謎の存在「ししりば」の恐怖です。室内にあるはずがない「砂」を(床の上どころか、布団の中や、食卓にまで)呼び込み、中にいる住人たちにその異常さを気づかせない、という精神的な支配にぞっとします。家の住人たちが明るく談笑しながら食事していて、客人も恐る恐る料理に箸をつけると、口の中で「ガリっ」と……そういう「イヤ」さがぎしぎしに詰まっています。精神攻撃だけでなく物理攻撃も侮れません。ししりばが「砂」を用いて更なる暴威を振るい、二階建ての平凡な住宅を脱出不可能の異界に変える、映像的な表現は圧巻で、ぜひ最新のCGを用いてハリウッドで映画化してほしいほど。

恐怖を軸に先を読み進めたくなるホラーでありながら、読者の予想を裏切るどんでん返しを重ねつつ怪異の正体が明かされていく、ミステリ性をも備えている。そんな作者の手腕は今作でも健在です。意味不明な行動原理に従っているかに見えた「ししりば」が一体、この家で「何をしているのか」が明かされたとき、家庭という共同体に潜む狂気が抉り出される。読み終わった後、良質のホラーを読み終わった充足感とともに、「家族」を大切にしなきゃ、と思わざるを得ない、そんな一冊です。

そんなわけで、住む人はある意味で「幸せ」になれるかもしれない、しかし個人的には居住を全力で拒否したい物件『ししりばの家』でした。来週も、絶対に住みたくない家が登場します!

最後にCMを。第4回ジャンプホラー小説大賞絶原稿募集中。ミステリマガジンの書評欄でも取り上げられた白骨美少女ホラーミステリ『たとえあなたが骨になっても』、異世界転生極限恋愛ホラー『舌の上の君』もよろしくお願いします。

2017年7月8日土曜日

ゾンビがいる世界の密室殺人……&ゾンビ踊り食い!? 『わざわざゾンビを殺す人間なんていない。』



こんばんは、ミニキャッパー周平です。ようやく体調不良から生還しました。改めて、第4回ジャンプホラー小説大賞募集開始&「ミニキャッパー周平の百物語」第4シーズンを開始します! 絶賛発売中の『たとえあなたが骨になっても』『舌の上の君』ともども宜しくお願いします!

さて、『舌の上の君』は、食材として育てられた少女を食べることがテーマの話でしたが、今回ご紹介するのも、身の毛もよだつような「肉」を食べるお話なのです。




死者がゾンビ化するウイルスが蔓延し、人間を含む全ての哺乳類が「死ねばゾンビになる」可能性を持つようになった時代。死者の速やかな処理によって、人類はなんとか「ゾンビは出現するが社会は崩壊していない」世界を維持している。

そんな状況の中、密室に閉じ籠ったはずの研究者が、ゾンビになって発見される事件が発生した。生きていた人間が密室で殺されたのだから、つまりは密室殺人である。現場に乗り込んだ探偵・八つ頭瑠璃は、強引に事件捜査を請け負って犯人探しを開始する。瑠璃は密室殺人の謎を解くことができるのか、それとも、犯人の送り込んだゾンビたちの襲撃で命を落としてしまうのか。

密室殺人に加えて、読者の前に横たわるもうひとつの謎が、主人公たる探偵・瑠璃が「何者なのか」という問題。彼女はゾンビ関連技術に対して異様な執着を見せ、協力者からも疑念の目を向けられます。捜査パートの合間に挟まれる、瑠璃の子ども時代のエピソードでは、瑠璃の姉である沙羅が、瑠璃の存在をクラスメートたちにひた隠しにしたり、替え玉受験を瑠璃に強要したり……悲劇的な結末しか待っていなさそうな姉妹の愛憎劇からも目が離せません。

「事件の真相」と「探偵の秘密」という二つの謎で読者を翻弄し、やがて「ゾンビが普通に存在する世界だからこそ成立する密室トリック」が姿を現す、特殊環境ミステリとして極上の作品です。

さて、皆さんお待ちかね(?)何の「肉」を食べるか、という話ですが、ゾンビが当たり前に発生する世界で、倫理観の変化と食糧不足によってもたらされる結論は一つしかありませんね。そう、ゾンビの肉を食べるのです。ゾンビウイルスにより熟成されていて普通の肉より美味なのだという話で、この作品で一番ぎょえええっと叫びたくなる部分は、ゾンビを「踊り食い」する人たちの存在です。
こちらめがけて襲い掛かってくるゾンビを、鷲掴みにし、引きちぎり、肉をむさぼり食う。こちらにかじりつこうとするゾンビにかじりつき、食らう。ゾンビを「素手で倒しながら食べる」という想像を絶するスタイリッシュグロテスクアクションは、ゾンビ小説史に残る衝撃シーンとして必見です。

著者の小林泰三先生には、以前に「ホラー作家になるためのQ&A」企画でインタビューを行いましたので、ぜひこちらもご覧ください。

またゾンビといえば、Jブックスからはほのぼのゾンビスローライフ小説『たがやす ゾンビさま』も刊行されておりますのでこちらも宜しくお願いいたします。