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2018年6月23日土曜日

古い家屋に棲むモノが、人間の生活を侵す時――小野不由美『営繕 かるかや怪異譚』

今晩は、ミニキャッパー周平です。第4回ジャンプホラー小説大賞〆切は間もなく(30日)。ギリギリまで書いていて応募に失敗しないよう、応募方法を予め確認しておいて下さいね。
さて私は、春ごろ引っ越しをしたのですが、まだ細かい家具の配置(特に本棚)をあちらへ動かしこちらへ動かして理想の部屋づくりを模索しているところです。寝起きする環境はやはり快適で心安らぐものであって欲しいので……。

という訳で本日の一冊は、小野不由美『営繕 かるかや怪異譚』。



叔母の死により、城下町の古い家を受け継いだ祥子。その家には、箪笥で入口をふさがれた座敷、「開かずの間」があるのだが、その上の方の襖が何度閉めても気づけば開いている。それを不気味に感じていた祥子は、箪笥をどかして「開かずの間」を開け放ったのだが、その結果、カリカリという物音や人影の出現など、さらなる怪異に出くわすことになる。祥子は、叔母が懇意にしていた工務店の男・隈田から、かつてその家で起きた悲劇と、叔母がその「障り」を座敷に閉じ込めようとして失敗し、やがて病に倒れたという経緯を知らされる。窮地に陥った祥子に隈田が紹介したのは、「営繕 かるかや」の尾端という男だった。

「営繕」とは建築物の新築、増築、修繕及び模様替えのこと。これを生業とする男・尾端が、歴史ある城下町の家々に起こる怪奇現象を、「営繕」によって解決していくという連作です。
こう書くとゴーストバスターお仕事ものに聞こえそうですが、尾端は派手な祓魔や成仏を行う訳ではなく、霊や障りを、模様替えや修築によって「対処する」のみ。ちょっと風水に考え方が似ているかもしれません。霊を滅することができなくても、霊との共存の仕方を提供することはできる、或いは家主に害が及ばないようにすることはできる、といった、怪異への絶妙な距離感、敬意めいたものが、尾端というキャラの魅力ともなっています。

本書に収録されている6編は、それぞれ、屋根裏を動き回る何者かの足音、袋小路を近づいてくる喪服の女、家の中のあり得ない場所に出没する老人、井戸から家に近寄ってくるもの、ガレージに現れる子供の霊、などなど、決して派手ではないものの、日常と命を脅かし、読者をじわじわと怖がらせるものばかり。家に住む人の心が追い詰められ、最後の最後、あわやという場面で尾端が登場し、対症療法を施す。あとには人智を超えた存在への戦慄と感動が混ざった余韻が残る。「キャラクターもの」でありながら静謐な「怪談」であるという両面で楽しめる作品なのです。

ちなみに6編の中には、「これこれこういう事件が過去にあってその祟りだろう」という因果が明かされる短編もある一方で、「怪異の法則こそ判明するものの、いったいそれが何者だったのか最後まで全く分からない」といういかにも怪談然としたわだかまりを残す短編もあり(ネタバレになるからどれかは言いません)、私はその一作が特にお気に入りです。

2018年3月10日土曜日

交換した家は、「住んではならない」物件だった……S・L・グレイ『その部屋に、いる』


今晩は、ミニキャッパー周平です。絶賛予約受付中、3/19発売の第3回ジャンプホラー小説大賞の2作品に、欅坂46の石森虹花さんからのコメントが届きましたのでぜひご覧ください。→(『自殺幇女』『散りゆく花の名を呼んで、』

さて、3月といえば引っ越しシーズン、『住んではいけない物件』系ホラーにはぴったりの季節です。と言うわけで本日の一冊は、S・L・グレイ作、奥村章子訳『その部屋に、いる』。

南アフリカ・ケープタウンに住むマークとステファニーの夫婦は、家に強盗に押し入られたことがトラウマとなり、防犯装置を家に張り巡らせても安眠できない、ノイローゼ気味の生活を送っていた。そんなおり、他人と短期間だけ家を交換して生活する『ハウススワップ』のサービスを知り、気分転換も兼ねてパリの家に一週間滞在することになる。
だが、彼らがたどり着いたパリのアパルトメントは何十年も前に時が止まったように荒れ果てており、血痕や怪しい日記など、かつて何かの事件が起こったような痕跡が残されていた。さらに、上階に住む老女は「ここにいてはいけない」と言葉少なに警告する。こうして、帰りの飛行機がくる一週間後まで、夫妻は不審な部屋に怯えながら暮らすことになる。更に、マークはとある少女の幻影にも悩まされ始める。それは、マークと前妻の間に生まれたものの、不慮の事故で亡くなった娘の姿をしていた……


作者名はS・L・グレイとなっていますが、実はサラ・ロッツとルイス・グリーンバーグという二人の作家による共同ペンネーム。本書は妻・ステファニー視点の章と夫・マーク視点の章が交互に書かれる形式をとっており、これは著者二人がそれぞれの語りを担当したということなのでしょう。夫サイドが現在進行形での語りなのに、妻サイドは未来視点から過去を悔やみつつ回想している語りになっている、ということに、不吉さと、悲劇の到来を、予感させられながら読むことになります。

アパルトメント内で、何かの目的のために集められたらしい大量の髪の毛が見つかったりするなど不気味な事態が進行していくのと同時に、夫と妻がどちらも隠し事をしているため、徐々に相手への猜疑心を募らせていくプロットも見事です。「霊や化物的な存在を目撃してしまったが、そのことを伝えたら正気を疑われてしまう、だからこのことは伏せておこう」そんな判断で挙動不審になり、結果、疑心暗鬼によって二人の間に嫌なわだかまりが積もっていく。それが夫婦を断絶と決定的な破局へ導いていくのです。亡くなった前妻との子・ゾーイへの未練と、現在の妻ステファニーとの子・ヘイデンへの愛情、その板挟みになるマークの苦しみは痛切であり、「死者」に抗えず選択を誤ってしまう場面には、恐れや嫌悪感とともに、共感も抱いてしまいます。

ところで世の読者には、幽霊屋敷ホラーに対して「引っ越して逃げればいいのでは?」という突っ込みを入れる人もいるかと思いますが、それに対して本書はまず「異国でお金がなく他のところに泊まることもできない」という状況設定で答えます。そしてパリのアパルトマンからケープタウンの我が家に逃げ戻ったところで、既に夫婦を取り巻いていた怪異が消え去ることはなく……幽霊屋敷に憑かれた人間は、存在そのものが幽霊屋敷を感染させる媒体になってしまっているのかも知れない。そんな発想の日本ホラーも連想させる一冊でした。

(CM)第4回ジャンプホラー小説大賞絶賛原稿募集中。応募締め切りは6月末です。


2017年8月12日土曜日

静かな丘の家に積み重なる、惨劇の年代記『私の家では何も起こらない』


 こんばんは、ミニキャッパー周平です。もうすぐ一つ校了の峠を越えて、ちゃんと睡眠がとれるようになるはずです。寝不足でホラーを読んで夢の中まで侵蝕されたり、朦朧とした意識で「この本、もう買ったんだっけ、まだ買ってなかったんだっけ」と悩まされたりする日々にも、これでおさらばできると思います。

それはさておき、本日のテーマは、幽霊屋敷ホラーの最前線をご紹介する「絶対に住みたくない物件」シリーズ第3弾。恩田陸の連作短編集『私の家では何も起こらない』です。

 
作家である「私」は小さな丘の上の家に住んでいる。家を建てた叔母は失踪し、家は持ち主を転々としたのちに、「私」の手に渡った。平穏に暮らしていた「私」だが、一つ悩みがある。この家が「幽霊屋敷」であるとの噂が立ち、それを信じる人々が訪れるのだ。今日も一人の男が家を訪問し、ここであったという惨劇について語り聞かせようとする。

いわく、台所で殺し合った姉妹がいた。ジャガイモの皮むきの最中に、何が原因かは分からないものの互いに包丁を向けあったらしく、二人の死体が発見された時、台所は血の海だったという。
いわく、近所から子供を攫ってきて、主人に食べさせていた女がいた。床下の収納庫には、ジャムやピクルスの瓶に混じって、子供たちの身体の一部がマリネとして保管されていたという。
そんなおどろおどろしい話を聞かされても、「私」にとってこの家は、ただの住みやすく居心地のいい住居でしかないのだが――

というのが、全10編を収録した本書の、第1編目の導入。ここまでで既に本書のタイトルが偽りあり、私の家ではヤバいことが起こりまくりだというのがお判りでしょう。しかし、これはまだ序の口で、この家の中は、「殺し合った姉妹」や「人攫い」のエピソード以外にも、女の影が映る二階の窓、少年の死んだ床下、木での首つりが起きた庭、幽霊屋敷探検に訪れた者たちが残した奇妙な痕跡、などなど、「いわく」の無い場所を探す方が難しいようなありさま。

明確な原因があるわけではないのですが(家の建っている丘は先史時代からあるものらしいですが、詳細は不明)、とにかくこの家の中ではひたすら猟奇的な事件、事故が起こり続けます。短編一編ごとに、様々な時代に起きたそれらの惨劇が、当事者の視線から静かに語られ、その積み重ねと絡み合いによって恐怖の年代記が積み上げられていく――というのが本書の趣向なのです。

独白や語り掛けなど、話し言葉を駆使した文体も恐怖の源泉のひとつで、

≪泣いてばかりいたから、肉がちょっとパサついているけれど、柔らかく煮えたわ。≫

などの一文の、さりげなくおぞましい言葉にぞっとさせられます。
本の後半になると、読者が見せられてきた無数の惨劇のこだまが家に降り積もり、「今」家に住む者、家にやってくる者に絶大な影響を及ぼすことになり、集大成といった趣があります。

というわけで、3回に渡った幽霊屋敷もの紹介、「絶対に住みたくない物件」シリーズはここまで。私の新居探しはまだ続いていますが、皆様も、お引越しの際は十分気を付けてくださいね。

2017年8月5日土曜日

化物屋敷で砂まみれの家族の団欒を――澤村伊智『ししりばの家』

今晩は、ミニキャッパー周平です。校正のために、生活が完全に昼夜逆転しました。このブログも朝4時に執筆しています。もし文章に変な部分があっても深夜テンションなのでご寛恕下さい。皆さんはぜひ、ホラー小説を読む際は、精神をもっていかれないよう健全な生活を心がけてください。

さて、前回から「絶対に住みたくない物件」探訪として、幽霊屋敷ものを取り上げておりますが、今回ご紹介するお住まいは、外からは一見したところ普通の住宅にしか見えません。けれど、中に住む者たちの実態はといえば……?
というわけで本日のお題は、澤村伊智『ししりばの家』。


『ぼぎわんが、来る』『ずうのめ人形』に続く、霊媒師「比嘉真琴」が登場するシリーズの3冊目ですが、ここからでも問題なく読むことができます。

小学生の頃、無人の幽霊屋敷に探検に訪れた五十嵐哲也は、その場で得体の知れない化物に遭遇した。友人たちは心を壊されたうえで命を落とし、哲也自身も、「頭の中で砂の音が鳴る」呪いらしき症状に四六時中苦しめられることになり、社会から脱落した。しかし、彼の人生を狂わせた幽霊屋敷には、新たな居住者が現れ、外からは平穏な暮らしがなされているように見えた……。

一方、夫とのすれ違いにわだかまりを抱える主婦・笹倉果歩は、幼馴染・平岩敏明と偶然再会し、妻と母との三人で暮らしているという敏明の家に招かれる。しかし、平岩家を訪れた果歩を待ち構えていたのは、家のあちらこちらにうっすらと砂が積もり、すすり泣きが聞こえる異常な空間で暮らしている家族の姿だった。敏明の妻・梓は、果歩に打ち明け話を始めるが……。

二つの視点から語られていくのは、一軒の家に長年巣食い続けてきた謎の存在「ししりば」の恐怖です。室内にあるはずがない「砂」を(床の上どころか、布団の中や、食卓にまで)呼び込み、中にいる住人たちにその異常さを気づかせない、という精神的な支配にぞっとします。家の住人たちが明るく談笑しながら食事していて、客人も恐る恐る料理に箸をつけると、口の中で「ガリっ」と……そういう「イヤ」さがぎしぎしに詰まっています。精神攻撃だけでなく物理攻撃も侮れません。ししりばが「砂」を用いて更なる暴威を振るい、二階建ての平凡な住宅を脱出不可能の異界に変える、映像的な表現は圧巻で、ぜひ最新のCGを用いてハリウッドで映画化してほしいほど。

恐怖を軸に先を読み進めたくなるホラーでありながら、読者の予想を裏切るどんでん返しを重ねつつ怪異の正体が明かされていく、ミステリ性をも備えている。そんな作者の手腕は今作でも健在です。意味不明な行動原理に従っているかに見えた「ししりば」が一体、この家で「何をしているのか」が明かされたとき、家庭という共同体に潜む狂気が抉り出される。読み終わった後、良質のホラーを読み終わった充足感とともに、「家族」を大切にしなきゃ、と思わざるを得ない、そんな一冊です。

そんなわけで、住む人はある意味で「幸せ」になれるかもしれない、しかし個人的には居住を全力で拒否したい物件『ししりばの家』でした。来週も、絶対に住みたくない家が登場します!

最後にCMを。第4回ジャンプホラー小説大賞絶原稿募集中。ミステリマガジンの書評欄でも取り上げられた白骨美少女ホラーミステリ『たとえあなたが骨になっても』、異世界転生極限恋愛ホラー『舌の上の君』もよろしくお願いします。

2017年7月29日土曜日

幽霊屋敷どうしを繋いでできた、究極の幽霊屋敷――三津田信三『わざと忌み家を建てて棲む』

今晩は、ミニキャッパー周平です。夏はホラー。白骨死体となった美少女探偵が謎を解く『たとえあなたが骨になっても』、食材として育てられた少女との恋を描く『舌の上の君』をどうぞよろしくお願いします。そして第4回ジャンプホラー小説大賞へのご応募もお待ちしております。

さて、私事ですが、引っ越しを考えております。ホラー小説の中でヤバい物件を数々見てきましたので、いわくつき物件を引き当てないよう祈りながら新居を探す毎日です。
という訳で、今回からはしばらく、「絶対に住みたくない物件」シリーズとして、ホラーの王道、幽霊屋敷ものを連続でご紹介します。

本日ご案内致しますのは、三津田信三『わざと忌み屋を建てて棲む』。同じく幽霊屋敷物の『どこの家にも怖いものはいる』の続編で、先週発売されたばかりの一冊です。



物件は、昭和後半に存在したらしき「烏合亭」。この建物を、世に数ある幽霊屋敷の中でも特異な存在たらしめているのはその設計思想。

謎の資産家・八真嶺(やまみね)が大金をはたいて造り上げた烏合亭は、さまざまな場所にあった「いわくつきの建物」を一ヶ所に移築し、繋ぎ合わせてしまった建物。つまり、一軒でも因縁があり人間に害なす存在である幽霊屋敷を、複数合体させてしまったわけで、八真嶺の意図は、「そこで何が起こるか実験する」というマッドサイエンティスト的なものだったのです! 

当然、烏合亭に近寄る人間が無事で済む訳はありません。八真嶺の支払う高額の報酬を求めて暮らし始めた者や、心霊現象の調査のため訪れた者に、烏合亭は怪物的としか言いようのない猛威を奮います。その記録は、日記やテープレコーダーなど全四本に残されており、それぞれ、烏合亭内の建造物、「黒い部屋」「白い屋敷」「赤い医院」「青い邸宅」について語られています。

幼い息子とともに「黒い部屋」に住み始めた母親は、髪の毛を引っ張る何者か、夢の中の正体不明の娘、匂い、物音、足跡、汚れ、などなどひっきりなしの膨大な怪奇現象に精神を蝕まれていき、原稿を執筆するべく「白い屋敷」で過ごす作家志望者は、自身の過去を抉るような人形の出現という怪異に見舞われ、探索のため「赤い医院」に踏み込んだ女子大生は、何者かの気配に追われて屋内を必死に逃げ回り、「青い邸宅」に調査へ訪れた心理学者は、撮影機材が捉えた不可解な足跡の謎に翻弄されます。

作家・三津田信三と編集者・三間坂秋蔵は、上記4つの体験者の記録をもとに、元の建物にあったらしいそれぞれの霊障、怪異現象について考察し推理するのですが、あくまでこれはミステリではありませんし、真実をしっかり掴み切ることもできず、二人にもやがて恐怖体験が降りかかることになります。そして、バラバラの短編のようだった四つの記録をまとめた時、浮かび上がる違和感から、「烏合亭」そのものの怪異がゆらりと立ち現れる――世界に幽霊屋敷ホラーは数あれど、これほどの怪異濃度を誇る幽霊屋敷もあまりないでしょう。
博学な作者による、大量のホラー作品への言及も見どころのひとつで、紹介されているホラーについ手を伸ばしたくなる一冊でもあります。


という訳で、早くも「絶対に住みたくない物件」として圧倒的な家が出てきましたが、次週も邪悪な住まい情報、もとい幽霊屋敷ホラーをお届けします!

2016年1月30日土曜日

本日より映画全国公開!『残穢』はなぜこんなに怖いのか?

こんばんは。この間、全身をスズメバチに刺される夢を見てしまったミニキャッパー周平です。嘘ではありません。針が異様に長かったです。

まずはCMから。第1回ジャンプホラー小説大賞<銅賞>受賞作『ピュグマリオンは種を蒔く』のWEB公開がはじまりました。選考会激震の猟奇純愛ホラー、ぜひご一読を。

さて、いつもは「自由気ままに闇雲に」をモットーにホラー作品をレビューしていますが、今回はタイムリーなものを取り上げてみます。ずばり、小野不由美『残穢』。



本日、つまり1月30日(土)より実写映画が全国公開されるこの小説を、勝手に便乗してご紹介致します。映画版を観に行かれるご予定の方は、ネタバレにご注意ください。

そのあらすじは――という風にいつもなら紹介をはじめるのですが、まず一言。
怖いです。めっちゃくちゃ怖いです。
深夜のファミレスでこの本を読んでいたんですが、近くの客が椅子から立ち上がる時の些細な物音だけで、もう全身がビクッと硬直してしまいましたし、「ひとけの無い夜道を歩くのが怖くて仕方ない」という、小学生の頃の感覚を取り戻し、足早に帰宅しました。そのくらい恐ろしい小説です。

小説家の「私」は、読者・久保さんからの手紙――部屋の中で畳を擦るような物音を聞いたという体験談――をきっかけに、久保さんの住む「岡谷マンション」に出現する怪異の原因について調べ始めることになる。しかし調査すればするほど謎は膨らみ、その地に潜む闇が根深いことが示されていく……。

と、あらすじを示しただけでは、この作品の凄さは伝わりません。
『残穢』でまず徹底されているのは、「フィクションらしさ」を可能な限り排除するという点。
語り手の「私」は、明らかに作者・小野不由美であり、さらに平山夢明や福澤徹三といったホラー作家も実名で登場。「私」やその知人たちが怪異について聞き取りや資料探しを進めていくという形式で、淡々と、ドキュメンタリーのような文体で物語が綴られていきます。それらの道具立てのせいで、読んでいるうちに何度も『小説』ではなく『実際にあった話』を読んでいるのだと錯覚してしまいます。

そして、明らかになる怪異のひとつひとつは、決して荒唐無稽なものではなく、怪しい物音とか虫の知らせとか家族の不幸とか、「自分に起こるかもしれない」身近さの、じわりと怖い実話怪談的エピソード。それぞれは小さく不可解な怪談でも、手繰り寄せるうちに、背後に横たわる巨大な「怪異」の息づかいのようなものが徐々に感じられてくる。時代を遡るにつれ、少しづつ手がかりが減っていくものの、歴史の壁の向こうに、僅かにその正体がほの見える……まるで神話を読んでいるような畏怖と、底知れない恐怖があります。

紛れも無い傑作ホラーですが、読了後、私生活に実害が出るレベルで恐怖が残り続けるので、ぜひお気をつけてお読みください。

※『残穢』の書影はAmazonより転載しました。