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2019年1月12日土曜日

港町の特濃クトゥルー復活録――小林泰三『C市からの呼び声』

今晩は、ミニキャッパー周平です。2019年も気の向くままにホラー小説をご紹介してまいりますので、何卒よろしく願いいたします。もちろん、絶賛募集中の第5回ジャンプホラー小説大賞への応募もお待ちしております。

さて、本日の一冊は、小林泰三『C市からの呼び声』。

小林泰三といえば、ミステリ・ホラー・SFと多岐のジャンルでヒットを飛ばす人気作家ですが、デビュー作は子供時代のおぞましい記憶にクトゥルーネタが絡む「玩具修理者」でした。そして最新作である本書『C市からの呼び声』は丸々一冊クトゥルーネタに取り組んでおり、発表済の短編「C市」とその前日譚である書下ろし中編「C市への道」で構成される本になっています。

前に置かれているのは「C市への道」。各国で奇妙な災害が多発し、クトゥルーの邪神(作中では、名を呼ぶことをはばかって「C」と呼称される)の復活が囁かれている時代。世界的な「C」研究者であるビンツー教授は、CAT(“C” Attack Team)の研究所を建てるべき場所として、緯度や経度、特殊な地磁気から結界となっている土地を選んだ。それは「因襲鱒(いんすます)港」と呼称される、日本のひなびた港町だった。

この港町がどう見ても呪われた地で、異様な潮の匂いに満ち、常に暗天に覆われ、水揚げされる魚は奇形ばかり、食べると体に重篤なダメージを受ける。港の住民たちの間では、自分たちの祖先が「こことは違うどこか」から来たという伝承が伝わっている。モーターボートで沖へ出た調査メンバーは、遭難したすえに古代の遺跡に遭遇し、異形の邪神に追われる。ビンツー教授が保管している魔導書『ネクロノミコン』を奪うために街の住民(どう見ても人間ではないし、当然のように銃で撃っても死なない)が襲撃してくるし、怪しげな脳波計測装置やマッドサイエンティストが跳梁し、宇宙生物と屍食鬼が死闘を繰り広げ、遂には玩具修理者までサービス出演。帯に書かれた「クトゥルーマシマシ神話生物多め‼ これがクトゥルー神話界の超大盛家系ラーメンだ!」というものすごいコピーに恥じない内容となっています。固有名詞やシチュエーションなど、ラヴクラフト作品へのオマージュを大量に捧げまくっていることもあり、原典をどれだけ読んでいるかで面白さが変わる作品でもあります。

そして後日談たる「C市」では、とうとうこの港町に、CAT研究所が完成。間もなく復活するであろうCに対抗すべく、科学の粋を尽くしてつくられた人工生命、学習型C自動追撃システム=HCACSは自己改良と進化を初め……クライマックスシーンの光景の異様さに唖然とさせられます。クトゥルーの邪神の正体を巡る議論の濃さを初め、「C市への道」以上にディープな一篇です。

2017年11月4日土曜日

怪異集結、世界の存亡をかけた戦い――ロジャー・ゼラズニイ『虚ろなる十月の夜に』

今晩は、ミニキャッパー周平です。この間、CDを借りようと渋谷に向かったところ、ちょうどハロウィンの仮装をした大群衆と出くわして、進むことも脱出することもできない大変な目に遭いました。子どもの頃は日本国内ではそんなにポピュラーだった気がしないので、これほど日本にハロウィンが定着していることに隔世の感を覚えます。

さて、今回は、そんなハロウィンが舞台になった素敵な作品を。SF・ファンタジー作家のロジャー・ゼラズニイによる『虚ろなる十月の夜に』(訳:森瀬繚)です。



19世紀末、ある年の10月。切り裂きジャックに飼われる犬・スナッフの日課は、主人の仕事の手伝い。魔術的な力を持ち、人の言葉を理解するスナッフは、警察や敵対者に追われるジャックを守る番犬でもあり、使い魔でもある。スナッフばかりでなく、近隣では、ネコ・ヘビ・コウモリ・リス・フクロウなど様々な動物が、それぞれの飼い主の使い魔として動き、情報を収集し、何やら準備をしている。動物たちとその飼い主たちは、実は、世界をかけた戦いの参加者なのだ。彼らの正体は、古の神々を復活させようとする≪開く者(オープナー)≫と、それを阻止しようとする≪閉じる者(クローザー)≫。二つの勢力は、ハロウィンの夜に行われる「大いなる儀式」に向けて魔術的な闘争を繰り広げる――。

というわけで、10月1日から1031日までの戦いの経過を描いた作品です。序盤は次々に喋る動物が登場するファンタジックな絵面ですが、互いに「どちらの陣営に属しているのか」を探り合いながら情報交換をするという、ゲームの準備段階のような内容(登場キャラクター数がかなり多いので、自分で登場人物表を作りながら読んだ方が分かりやすいと思います)。当然ながら読者にも、どのキャラがどちらの陣営に属しているか、なかなか明かされないのでやきもきさせられます。そして新月の夜辺りから参加者がついに衝突を開始。死者や退場者が出始めるとがぜん物語は盛り上がり、大いなる儀式に向けて、一気に加速していきます。

作者の旺盛なサービス精神が満ちている物語でもあり、ジャックを追っている(女装もする)探偵はどう見てもシャーロック・ホームズだし、マッドサイエンティストが死体のパーツを繋ぎ合わせてフランケンシュタインの怪物を作り上げようとしているし、コウモリの飼い主は超常的な能力をもつ「伯爵」だし、満月の夜が近づくと変身しそうになるやつはいるし、とオールスターが夢の競演、といった感があります。その彼らが古の神々、即ちクトゥルーの神々の復活をかけて戦っているという豪華さであり、ゲーム化とか映画化とかしてほしい内容になっています。


11月になってしまいましたが、忙しくてハロウィンを楽しめなかった、という方はぜひ本書で、マジカルなハロウィンを体験してみてはいかがでしょうか。

2017年4月29日土曜日

怪獣映画の撮影が呼び覚ます、町の悲しき過去と「ほんもの」の脅威『大怪獣記』



今晩は、ミニキャッパー周平です。第3回ジャンプホラー小説大賞の〆切まで2か月。応募者の皆さんはGWを最大限利用してください! そして、私は平日であろうと連休であろうと、毎週金曜26時にはホラーブログを更新します。

さて、昨年は映画『シン・ゴジラ』が大ヒットしましたが、実は昨今、書籍のジャンルでも、『怪獣文藝』『怪獣文藝の逆襲』『日本怪獣侵略伝―ご当地怪獣異聞集―』『多々良島ふたたび: ウルトラ怪獣アンソロジー』ほか、怪獣をテーマにしたアンソロジーなどが次々刊行されており、ブームと言っていい活況を呈しています。巨大で圧倒的な存在感をもって人々に恐怖をもたらす「怪獣」。その魅力が今改めて注目されているのかもしれません。

というわけで今回取り上げますのは、北野勇作『大怪獣記』です。


『大怪獣記』というタイトルの映画を撮影するので、その小説版を執筆してほしい、という依頼を受けた作家の「私」。映画の舞台と撮影場所は、「私」の住む町。小説版執筆のための取材として、撮影現場に通う「私」だが、あり得ないほどの規模のセットの中に迷い込んだり、いるはずのない怪獣に踏み殺されそうになったり、奇天烈な体験を繰り返すことになる。やがて、「私」は町に隠された悲劇的な過去を知ってしまう。

映画は果たして完成するのか。そして、映画撮影の真の目的とは何なのか……?
 
 分かりやすく内容を説明するとこんな感じですが、ただこれだけでは、作品が持っている奇妙さの半分も伝えられていません。たとえば、主人公の「私」は小説版を書くために、映画監督からシナリオを貰おうとするのですが、映画のシナリオライターは町の豆腐屋の息子で、「私」に対してシナリオを「おから」の形状で渡してきます。この「おから」は、実は一種の記憶媒体であり、調理して食べることによって頭の中に映画の色んなシーンが浮かんでくる訳です。

……何を言ってるのかよく分からない方もいらっしゃるかと思いますが、奔放な幻想小説のように見えて、背後にこういった(夢の中のような)不思議な論理が、強固に周到に張り巡らされているのが作風でもあります。

撮影に入る前には、スタッフ総出で謎の古文書を読む儀式が行われ、映画のセットが再現しているのは「私」の思い出の場所で、撮影現場では「私」に似た正体不明のエキストラたちが踏み潰され、町の回覧板では「映画の為に作られた怪獣が逃げ出したので気を付けて下さい」という注意書きが回る。そういった小さなエピソードは、不穏なばかりでなく出所不明の郷愁の想いを掻き立てます。そして、クライマックスで町に襲い来る異形が見せる一大スペクタクルは、呆然とするほかない強烈な「イメージ」を残していきます。

北野勇作作品に既に親しまれている方には、今回は大怪獣でクトゥルフでさらに楢喜八のイラストつきですよ、という風にご紹介しますし、まだ北野勇作作品を読まれたことのない方には、牧歌的で残酷で哀切でノスタルジック、そんなワンアンドオンリーな世界観に、ぜひ一度触れて欲しい、といった感じでご紹介したい、そんな一冊なのでした。

2016年4月16日土曜日

邪悪なる帝国と、邪悪なる神々のオデッセイ――朝松健『邪神帝国』


今晩は、ミニキャッパー周平です。まずは宣伝から。平山夢明先生の手による、ノベライズ『テラフォーマーズ 悲母への帰還』4月19日発売です。最凶ホラー作家が「テラフォーマーズ」の世界で描き出す怒涛の物語、ぜひご一読を!!

さて、GWも近くなってきましたので、前々回のイギリス、前回のインドネシアに続いて、今回も、異国を舞台にした作品を選んでみました。
というわけで、本日のテーマは、朝松健『邪神帝国』です。


タイトルにある「帝国」とは、第三帝国――第二次世界大戦期のドイツです。当時のドイツは、総統アドルフ・ヒトラーの指揮するナチ党に支配されていた訳ですが、ヒトラー及びナチスは、オカルトにも強い関心を持っていたことが分かっています。

本編は、彼らが傾倒・信奉していたのが、クトゥルーの神々――人間の想像力が作り出したもっとも邪悪な神だったら、という、歴史のifを出発点に、史上稀に見る凶暴な国家がなぜ生まれたかを、短編を積み重ねて解き明かしていく物語なのです。

「帝国」の内部にいる人々は、各々が少しずつ、その闇を垣間見ることになります。のちにヒトラー暗殺計画の実行犯となる男は、古代遺跡に記された予言からドイツの悪夢的な未来を知り、さらに総統のそばに、得体の知れない者たちを幻視します。ナチス内部では、副総統のルドルフ=ヘスと親衛隊長官のハインリヒ=ヒムラーが、「ヨス・トラゴンの仮面」なる呪具を巡って、暗闘を繰り広げています。ドイツが秘かに開発を進めていた南極大陸では、軍人たちが禁忌の地「狂気山脈」を侵して、眠っていた異形の怪物たちを目覚めさせます。彼らの遭遇する血なまぐさい事件を通して、読者には、帝国全体を覆った暗黒の正体が少しずつ見えてくるのです。

「第三帝国」から距離・時間を隔てた場所の物語も含まれていますが、それらも、この世界観の中心に向かって収斂していきます。十九世紀末のイギリスで起こった切り裂きジャック事件の陰にも、邪悪な神の意思と、ナチスへと繋がる災厄の種が隠されていますし、現代の日本にも、遠いドイツでの悲劇の残滓が影を落とすことになります。

スパイアクション風味になったり、オカルトミステリになったり、様々な趣向で読者を楽しませてくれますが、どの短編も、人間の太刀打ちできない禍々しい存在と対峙させられる、真に恐るべきホラー作品であることは間違いありません。クトゥルー神話に詳しい方なら、戦車VSショゴスとか、UボートVSダゴンといったような対決(一方的ですが)に興味を惹かれることでしょうし、そうでない方も、ロンギヌスの槍や高名な吸血鬼をはじめ、オカルト要素がふんだんにまぶされた「帝国」の物語に引き込まれ、恐れおののくことでしょう。

「邪神帝国」に収録された小説群は、カルトや終末思想が日本にはびこった、90年代半ばに書かれました。ただし、読み通して頂ければ分かると思いますが、この作品は、オカルト的なものを求める時代に便乗して書かれた、というよりも……「力を求める心が、クトゥルーの邪神/第三帝国の暴虐を呼び出してしまう」というホラー作品を通じて、時代に対して警鐘を鳴らそうとしたように見えます。悪夢が小説の中に留まり、現実に這い出してこないように祈りたいものですね。

(書影はAmazonより流用しました。)

2016年2月27日土曜日

Z級グルメに邪神も復活? クトゥルー×料理の異味ホラー、菊地秀行『妖神グルメ』

 今晩は。金曜26時の男こと、ジャンプホラー小説大賞宣伝隊長・ミニキャッパー周平です。
 グルメ漫画が花盛りですね。各種ランキングで1位を取った『ダンジョン飯』はすっかりメジャーになりました。私は『〆切ごはん』とか『新米姉妹のふたりごはん』とか『ラーメン大好き小泉さん』とか、女の子がまっとうに美味しいご飯を食べている漫画が特に好きです。

 今宵、ご提供したい一皿、もとい一冊は、グルメものなのですが――もちろんホラーですから、到底まっとうなメニューではありません。

 という訳で、『吸血鬼ハンターD』シリーズなどでお馴染みの超人気作家・菊地秀行の、裏代表作とも呼ばれる作品『妖神グルメ』です。



 高校生でありながら、イカモノ(ゲテモノ)料理の天才的シェフである内原富手夫の前に、ある日、「我々の主のために、料理を作ってほしい」という奇妙な来客が訪れる。来客が報酬として示した大量の金貨や宝石を前にしても、首を縦に振らなかった富手夫だったが、古代の料理の秘術が隠されているという『ネクロノミコン』なる書物のことを聞き、誘いを受けることにする――という幕開け。

 そう、本作品は、ラヴクラフトの生み出した暗黒神話大系「クトゥルー神話」と料理人テーマを悪魔合体させた、世界でも例のないホラーなのです。

 富手夫の作り出す極上の一皿には、絶大な力が宿っており、ひとたび口にすれば、飢え衰えた邪神クトゥルーは力を取り戻し、再び世界を闇に陥れる。ゆえに、邪神を復活させようとするクトゥルーの信奉者と、世界の破滅を阻止すべく動き出す各国の諜報機関・軍隊や、ヨグ=ソトース神を信仰する第三勢力が、富手夫の身柄を巡って血まみれの一大戦争を繰り広げることになる。クトゥルー神話ではお馴染みの怪物たちが、次々現れて人類を殺戮する様は圧巻で、おぞましく悪夢的ですが、しかし肝心なのは、この作品が「グルメもの」だということです。

 普段はぼんやりしているのに、料理のこととなると傍若無人・傲岸不遜となる、富手夫の作り出す料理が並尋常ではありません。カビ、蝿、サソリ、ガラガラ蛇、機械油、洗剤、その他おおよそ目を背けたくなるような「食材」を駆使して作り出される料理によって、邪教集団との料理対決に勝ったり、暗黒神を撃退したりする。料理対決して勝つとかいうと少年漫画の主人公っぽいですが、しかし、富手夫自身は人類の味方でも何でもなく、自分のイカモノ料理道の追求のためには人類が滅んでも一向に構わない、というヤバい奴。相手を罵倒、見下し、高笑いしながら料理をする絵面は完全に悪役。読者は、クトゥルーの怪物の襲撃ばかりでなく、「次に富手夫が何をしでかすのか」「もうすぐ富手夫がダークサイドに落ちるのではないか」「というか最初からダークサイドなのでは」などにも戦々恐々としながらストーリーを追うことになるでしょう。

 昨今では、クトゥルージャンルの小説や漫画が世に溢れていますが、32年も前に書かれたこの作品は、今なお、屈指の奇想天外な傑作として君臨し続けています。それは、「クトゥルー+グルメ」というアイデアのみならず、読者に絶大なインパクトを残す富手夫というキャラにも、強い魅力があるからなのです。

(※『妖神グルメ』の書影は、Amazonより引用しました。)