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2019年2月16日土曜日

金田一耕助を生んだ作者の怪奇探偵小説群。日下三蔵編・横溝正史『丹夫人の化粧台 横溝正史怪奇探偵小説傑作選』


今晩は、ミニキャッパー周平です。第5回ジャンプホラー小説大賞、絶賛募集中です。さて、去年までホラーの小説賞といえば、うちの他にも日本ホラー小説大賞が存在したのですが、第25回をもって惜しまれつつも休止となり、《横溝正史ミステリ大賞》に吸収されることになりました。それを契機として「横溝正史のホラー短編」を集めるべく編まれた、という経緯をもつのが、今回ご紹介する本です。



本日の一冊は、日下三蔵編・横溝正史『丹夫人の化粧台 横溝正史怪奇探偵小説傑作選』。収録作14編の中で、特にホラー味の強いものは、「双生児」「妖説血屋敷」「面(マスク)」「舌」「白い恋人」「誘蛾燈」「髑髏鬼」「恐怖の映画」「丹夫人の化粧台」あたりです。うち、まずはミステリの骨格を備えているものからご紹介しましょう。

「妖説血屋敷」……踊りの家元である菱川流には、初代家元が殺した女・お染の祟りが代々続いている。そんな菱川流の七代目・とらが、娘ではなく内弟子に八代目を譲ると宣告してから、家の中ではお染の亡霊が目撃されるようになり、とらは喉を抉られて死亡する。更に第二の殺人が起き、《血屋敷》という不気味なダイイングメッセージが遺される。

「髑髏鬼」……麻布のあちことで、目も鼻も唇もない髑髏そのままの顔をもった、正体不明の“髑髏仮面”の目撃情報が相次いでいるさなかに、吉井男爵家の令嬢・田鶴子の誕生祝いが男爵邸で行われる。その宴では田鶴子と、男爵の秘書・片山が婚約披露をする予定になっていたが、邸内で髑髏仮面が目撃され、片山の刺殺体が発見された。

「恐怖の映画」……夜の撮影所で、俳優の良一と女優の蘭子は密会をしていた。蘭子は撮影所所長の妻であったが、良一と秘密の関係を結んでいたのだった。逢引きの場面を見つかりそうになった良一は、蘭子を鉄の処女のレプリカの中に匿うが、翌日、蘭子は別の場所で、絞殺された上に眼球を抉られた姿で発見される。

「丹夫人の化粧台」……丹博士が不可解な自殺を遂げたことで、丹夫人は未亡人となった。彼女を巡って、二人の若者、高見と初山は争いを繰り広げる。ところが、初山が《気をつけたまえ。――丹夫人の化粧台――》と言い残して死亡する。高見は、丹博士の死や初山の遺言を気にかけつつも、未亡人との逢瀬を重ねていくが。

上記の4作品は、前フリとしてホラー成分がふんだんに盛られたミステリで、名探偵もおらず、事件の真相に辿り着いた人々もたいてい当事者になってしまうという、推理小説と怪奇小説の距離が近かった時代を象徴するような内容です。死体が発見される時の演出(血の付いた蛾が白い楽譜にとまる、など)も怪奇ムードを高めます。殺人の動機には、人間のどろどろした感情、むき出しの情念が横たわっています。深い愛憎のドラマが猟奇事件にマッチするということなのかもしれません。ところで、「恐怖の映画」は人妻に、「丹夫人の化粧台」は未亡人に、それぞれ懸想した男に災いが降りかかるのですが、こういう作品は他にもあり、下記の2編がそうです。

「面(マスク)」……絵画展に飾られていた一枚の絵。遊女と少年が起請を取り交わす場面を描いたその絵に見とれていた男は、老人に声をかけられる。老人はその絵が描かれた経緯――人妻に恋した若者に振りかかった悲劇――を語り始めた。

「誘蛾燈」……寝室の明かりの色を変えることで夫の不在を知らせ、愛人を家に引き込む女。ある日、彼女が愛人を迎えているうちに夫が帰宅してしまう。

こういったタイプの作品が複数存在するのは、人倫にもとる行為をしている人間はおのずと報いを受ける、という思想の表れかもしれません。ただ、そういう因果応報めいた部分から切り離された作品群――下記の3編などはよりホラーの濃度が高くなります。私が一番怖いと思ったのはこれらの作品です。

「舌」……夜の露店で売られていた人間の舌が売られていた。店主は通りがかった客に、その舌の持ち主の末路を語り始める。

「白い恋人」……映画女優がダンスホールで、見ず知らずの男を殺害したうえで自殺を遂げた。その衝撃的で不可解な事件の陰には、彼女がかつて見せられたおぞましい映画の記憶があった。

「双生児」……唯介と徹は双生児だが、別々の家で育てられてから改めて一つの家で暮らすことになった事情からか、性格も真反対で、互いに憎悪し合っていた。唯介と結婚したよし子は、ある日を境に、唯介の態度が別人のようになっているのに気づき、徹が唯介を殺してなり替わったのではないかと疑いはじめる。

「舌」は僅か6ページで、全てが語り切られないからこそ生じる凄味。「白い恋人」は人間を操る手段の異様さ。「双生児」は読者を引き込む謎の巧みさとずしりと来る読後感。それぞれにホラーアンソロジーに収録されておかしくない恐怖の風格をたたえています。

本書に収められた作品は全て戦前のもの。戦後、作者は金田一耕助シリーズを生み出すことになりますが、金田一耕助シリーズに横溢する独特の陰影・恐ろしさは、既にこのころに誕生していたといえるでしょう。

2018年6月30日土曜日

謎が解かれ、更なる戦慄が牙を剥く――芦沢央『火のないところに煙は』

今晩は、ミニキャッパー周平です。いよいよ、第4回ジャンプホラー小説大賞応募締め切り(6/30)目前。応募者の方は悔いのないようラストパートをかけて下さい!
さて、ホラー棚ばかり見ているので見過ごしていましたが、社内のミステリファンの人から、ホラーとしても面白いミステリが出たと教えてもらい、早速手にしました。

という訳で本日の一冊は、芦沢央『火のないところに煙は』です。



「小説新潮」から「神楽坂を舞台にした怪談ものを」という依頼を受けた小説家の「私」は、かつて自身が見聞した怪異が神楽坂に纏わるものであったことを思い出し、不思議な偶然に背筋を寒くする。それは八年前、編集者であった頃の「私」が、大学時代の友人から紹介された女性、広告代理店勤務の角田尚子に関するものだった。
尚子とその彼氏は、占い師に相性を診断してもらいに行った折に「不幸になるから結婚しない方がいい」と告げられた。それ以来、彼は豹変し、尚子に強烈な疑いの目を向け、生活を脅かすようになる。その後、彼は交通事故により亡くなったが、時を同じくして、尚子の取り扱う広告に血しぶきのような赤い染みが付くという怪現象が起こるようになった。彼の呪いを恐れた尚子は、除霊ができる人間を探していた。「私」は知人のオカルト専門家・榊桔平に尚子の件を相談するが、榊が導き出したのは、「染み」についての全く異なる真相だった――

本書は全6話で構成されており、いずれも、ホラーとミステリの歯車が見事に噛み合った作品になっています。上述したのが第1話「染み」の内容ですが、死者の力を前提としたオカルト的な内容でありながら、ミステリ的な構図の逆転をもち、しかし真実が暴露されたとき一層の恐怖が姿を現すという、技巧の冴えわたる短編となっているのです。

そして「染み」の執筆以降、「私」の周りには様々な怪異譚が集まっていくことになります。
狛犬に呪われたと称して常軌を逸した訴えをしてくる女の物語「お祓いを頼む女」、親切な隣人が急に根も葉もない醜聞を告げ口するようになる「妄言」、夢の中で迫ってくる恐怖から逃れようとした夫婦の悲劇「助けてって言ったのに」、アパート内での霊現象に対して盛り塩や御札で対抗しようとして起きた予想外の事態「誰かの怪異」。
いずれも、超常的な力の実在を前提に、榊が謎解きをすることによって、怪異の背後に隠されていた意外な事情が明らかになり、(多くの場合、後味の悪い)ホラーとしての異様な戦慄が残されるという形式になっています。それらのエピソードで積み重ねられた伏線が、最終話「禁忌」に至って一つの大きな恐怖へと鮮やかに収束する様は、手品のような驚きに満ちていて、読者を打ちのめします。

ところで、この本の裏表紙には、第一話「染み」の内容通り、血しぶきを模した赤い模様があしらわれているのですが、「染み」を読み終わったあと改めてその模様を見た人は、きっと10人中9人は鳥肌が立つのを抑えられないでしょう。

さて、第四回ジャンプホラー小説大賞までのブログ更新はここまで。第五回の募集ページが立ち上がるまで、しばらくは月1とか月2とか、思いついた時に(土曜深夜2時に)更新致します。


2018年6月16日土曜日

「狼狩り」と「裏切者探し」のホラー×サスペンス×ミステリ。氷桃甘雪『六人の赤ずきんは今夜食べられる』



今晩は、ミニキャッパー周平です。第4回ジャンプホラー小説大賞募集〆切(6/30)まであと僅か。応募者の方はぜひラストスパートを頑張って下さい! 
さて、これまでこのレビュー欄では(「ホラー」と銘打つ本の絶対数が少ないので)ライトノベルレーベルの本はあまりご紹介できなかったのですが、新刊棚の帯に「パニックホラー×ナゾトキ」の文字が躍っている本があったので、これ幸いとレビューしてみます。

という訳で、本日の一冊は、氷桃甘雪『六人の赤ずきんは今夜食べられる』。



かつて騎兵であったころ、功を焦ったために無辜の人々の殺戮に加担してしまった男は、その罪を悔いながら、猟師として生きている。彼はとある鄙びた村で、村人から恐ろしい話を聞かされる。
今日は一年に一度、満月が赤く染まる日であり、「ジェヴォーダンの獣」と呼ばれる狼が現れて村に住む「赤ずきん」の少女たちを襲って殺す日だ。その狼は、牛よりも大きく、熊よりも凶暴で、人間よりも賢い。村の人々が束になって狩り立てても殺すことができないし、少女たちが逃げ出しても執念深く追って殺す。抗う術はない――その話を聞いた猟師は、村に住む六人の赤ずきんを守り、ジェヴォーダンの獣を狩るため、村の外れにある塔に籠城しようとする。だが、狼の知恵は彼の予測を遥かに上回り、犠牲者が出始める。そして赤ずきんたちの中に「裏切者」の存在さえ見え隠れして……。

という訳で本書は、狼の襲撃から生き延びるホラーサスペンスであると同時に、赤ずきんの中に紛れ込んだ「犯人」を突き止めるミステリ性のある作品でもあります。

VS猟師といえば真っ先に思い浮かぶのは銃での戦いですが、何しろこの狼は銃ごときで撃ち殺されるようなヤワな相手ではなく、猟師は知恵によって狼と戦うことになります。とはいえ狼の方も、獲物が地下に逃げ込めば水を流し込む、獲物に忍び寄るために足音を消すなど、獣とは思えない悪辣さであり、単純な罠などたやすく看破されてしまいます。猟師は、6人の赤ずきんがそれぞれ所有する、「硬化」「発火」「透明化」などの特殊な効果をもつ秘薬を用いた策略で、必死の防衛戦を繰り広げます。つまり、ファンタジーの手法で描かれたモンスターパニックホラーなのです。

そして猟師は、迫り来る狼と戦いながら、一見したところか弱い少女にしか見えない赤ずきんたちに紛れ込んでいる「敵」を見つけ出す、という難事にも挑まなければなりません。彼らの籠城した塔は、かつて魔女が暮らしていて、凄惨な拷問が行われていたという超いわくつきの場所ですが、そこに隠されていた手がかりと、狼の挙動から推理することで、真実に辿り着こうとします。夢中で一気読みした私は真相の予想に失敗しましたが、伏線も丁寧に張られていますから、注意深く読めば第3章が終わるまでに「裏切者」の正体を見抜けるはず。ぜひ犯人当てに挑んでみて下さい。

2018年3月3日土曜日

殺人鬼テーマのお化け屋敷、その呪いが降りかかる先は……『レスト・イン・ピース 6番目の殺人鬼』


今晩は、ミニキャッパー周平です。SFショートショート集、古橋秀之・矢吹健太朗『百万光年のちょっと先』重版かかりました! 皆様のご声援のお陰です。このタイミングでSF感想ブログも初めてはどうか、と人から言われましたが週に二本ブログ記事を書くのは死にそうなので辞退します。

さて、今回ご紹介します一冊は、雪富千晶紀『レスト・イン・ピース 6番目の殺人鬼』



大学生の越智友哉のもとに、中学校のクラス会の招待状が届く。クラス会に向かった友哉を出迎えたのは、なぜか沈鬱な面持ちの同窓生たちだった。不穏な空気が漂う中、メンバーの一人が倒れ、救急車で搬送されたが死亡を宣告される。困惑する友哉に、元彼女であったリカが告げたのは恐るべき内容だった。実は、彼らのクラスメートがここ数か月の間に、原因不明の呼吸困難によって六人も亡くなっており、クラス会はその対策を練るための会議だったというのだ。
連続死の原因について議論がなされるうちに浮上した仮説は、彼らが中学時代に探検した建物「殺人館」の呪いではないか、というものだった。「殺人館」は、アメリカの資産家によって、殺人鬼をモチーフにしたお化け屋敷に仕立てられた建物を、日本のテーマパーク内に移築したものであった。次々に同窓生の訃報が届くなか友哉たちは、生き残るため「殺人館」に仕掛けられた呪いの真実を知るべくアメリカに渡るが……?

帯にばばーんと「最凶のどんでん返し!」という文言が書かれている通り、本書はある瞬間に読者を驚愕させるために大小様々な伏線をこれでもかと張りまくり、大仕掛けを炸裂させることを追求した作品となっています。温かい人間関係が構築されていたはずの中学のクラスで起こっていた不審な事件、殺人鬼の研究者を訪ねて向かったアメリカで出くわす複数の不審な影、その間に日本で起こっていた惨劇の数々など、様々な局面に、「少しひっかかる部分」がちらつき、読んでいる最中には、「とてもこれは『呪い』だけでは説明がつかないのでは?」と思わされます。その不安が募り切った終盤に、一気にひっくり返され、「少し引っかかる部分」の全てが「メイントリック」に奉仕していたのだと気づかされると、名作ミステリを読み終えた時の衝撃に似た愉悦を感じさせられました。「日本」と「アメリカ」二か所を舞台にしていたのも、国を跨いだスケール感の演出のみならず、この企みのためだったのだと分かり唸らされます。真相を知った後から序盤・中盤を読み返すと、初読時とはまったく別の光景が見え、異なる感覚を味わわされること間違いありません。

ストーリーのカギとなる「殺人館」は、近代の殺人鬼五人――ジョン・ヘイ、ジョン・ゲイシー、エド・ゲイン、アイアン・ヒル、ヨーゼフ・メンゲレ(うち四人は実在の殺人鬼です)をモチーフにし、それぞれの犯行に纏わる展示をしているというおどろおどろしく悪趣味なものです。日本では不謹慎で絶対に開業できなさそうですが、作中の展示描写はいかにもこんなアトラクションがありそうだと思わされてしまう内容。しかし、この「殺人館」に実は「六人目」の殺人鬼の秘密も隠されており、六人目が何者なのか? という謎とその真相も、物語に驚きを生む要素の一つとなっています。また、「六人目の殺人鬼」周りのドラマは陰惨でありながら悲劇的で、越智たちのクラスで起きた事件以上に、「普通の人間」と「邪悪な存在」の圧倒的な隔たりを思い知らされ、心に棘を残す内容になっています。

メインの大仕掛けと、六人目の殺人鬼の正体。予想して謎解きに挑みながら読むもよし、「呪い」に追われるホラーとして友哉とともに翻弄されながら読むもよし、な一冊です。

最後にCMです。ジャンプホラー小説大賞銀賞受賞作2冊のうち、自分の編集担当本である『自殺幇女』の校了も間近。同じく銀賞の『散りゆく花の名を呼んで、』ともども3/19発売予定ですので、皆様どうぞよろしくお願いいたします!

2018年2月10日土曜日

神隠しの森に潜む怪異と悪意――三津田信三『魔邸』

今晩は、ミニキャッパー周平です。ホラーとは全然関係ないですが、小説:古橋秀之、画:矢吹健太朗のSFショートショート集『百万光年のちょっと先』が刊行されました。ぜひご一読下さい! さて、『百万光年のちょっと先』では帯に銀色の特殊紙を使用していますが、カバーに銀色の特殊紙を使用したホラー本を見つけました。

というわけで、本日の一冊は、三津田信三『魔邸』です。



小学校六年生の世渡優真は、幼いころに実父を亡くし、母の再婚後は義父との関係に悩んでいる。夏休み、義父の海外赴任に母が付き添うことになったため、優真は義理の叔父・知敬の所有する別荘に身を寄せることになった。優しい義父とともに暮らせることを喜んでいた優真だったが、別荘地付近で、かつて「神隠し」事件がたびたび起こったことを知らされ、恐怖に怯えることになる。

優真はそれ以前にも、「ここではない、別の世界」に迷い込んでしまい、そこで得体の知れない怪物に追いかけられる、という経験を2度したことがあり、超常的な「異界」の実在を知っていたのだ。別荘での不安な生活が始まったが、深夜、目を覚ましてしまった優真は、そこに存在するはずのない「何者か」を目撃してしまう――。

これまでにも二度(『のぞきめ』『わざと忌み家を建てて棲む』)著作をご紹介しましたが、三津田信三といえばミステリーとホラーの融合に並外れた実力を発揮する作家であり、今回もそういった楽しみのある作品です。ホラーかと思っていた物語がミステリに化ける。しかし油断しているとまたホラーへと化ける。そんな狐狸妖怪めいた物語が本作品なのです。

まずホラーとしての魅力。屋敷と呼べるくらい巨大な別荘で、深夜に響くこちらを探すような足音、ドアの隙間から覗いてくる真っ黒い顔など、幽霊屋敷ものとしての怖さも十分ですが、それにも増して怖いのは別荘に隣り合う「森」です。姿を消した子供が見つかるが、いなくなった時のことは何も覚えていないし、それどころか別人にすり変わっているような違和感がある。あるいは、姿を消した子供がそのまま見つからずに終わる。そんな事件がたびたび起こっている「蛇蛇森」の存在は、作中でも際立って禍々しいムードを放っており、その亜空間めいた「蛇蛇森」に優真は導かれて行ってしまいます。


一方で、超常現象の数々に紛れ込むように配され、優真が味わわされていた幾つかの恐怖体験には、ミステリ的な「真相」が隠されています。その中身、物語の裏で進行していた事態が明らかになり、見えていた世界がホラーからミステリのそれに急変する時の驚きは作中でも格別です。伏線が周到に張られていたにもかかわらず、真実にたどり着けなかった読者が味わう「騙される快楽」は格段のものでしょう。そして、謎が解かれた結果として優真は最大の窮地を迎えてしまいます。ホラー的な悪意とミステリ的な悪意の重奏によって、最後の一行まで気を緩めることのできない物語。最後はどちらで終わるのか、確かめてみてください。

(CM)第4回ジャンプホラー小説大賞原稿募集中。ふるってご応募ください。

2017年12月30日土曜日

小学生二人、死体遺棄の夏休み――乙一『夏と花火と私の死体』

今晩は、ミニキャッパー周平です。2017年も残すところわずか、今年最後のブログ更新となります。改めてになりますが、このブログは、面白いホラーを紹介しジャンプホラー小説大賞を宣伝しつつ、新人賞受賞を目指す方へのヒントにもして欲しいという願いのもと、続けています。そこで今回は、ジャンプJブックス編集部ともゆかりの深い、「新人賞受賞作」――第6回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞を受賞作をご紹介したいと思います。

本日のお題は、第6回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞を受賞した、乙一『夏と花火と私の死体』です。



夏休み。小学三年生の五月は、同級生である弥生と、その二歳年上の兄・健と、今日も仲良く遊びまわっていた。しかし、些細なことをきっかけに、五月は弥生の手によって木の枝から突き落とされ、殺害されてしまう。健と弥生は、五月の死体を遺棄して、近辺で起こっている連続誘拐事件犯人の仕業に見せかけるべく奔走するが……

ほのぼのとしたノスタルジックな夏休みの光景、子供たちのほのかな恋愛感情をめぐる微笑ましいやりとりから、一瞬で転調し、「殺人者とその兄が死体を隠す」というサスペンスフルなものに激変するプロット。主人公である五月が、死者となってからも語り手であることをやめず、死体の始末に右往左往する兄妹の姿をつぶさに語っていく、という異様な形式。その二つの衝撃で、序盤から心を鷲掴みにされます。

中盤は、様々なシチュエーションで、死体を隠していることが危うくバレそうになったる「ドキドキさせられる」シーンに溢れています。そこを小学生ふたりに可能な限りの機転で、警官や大人たちを欺いて切り抜けたり、あるいはまったくの偶然や幸運で難を逃れたりと、手に汗握る内容が続きます。私は中でも、「死体を押入れの中に隠した状況で、母親や来客が部屋に来る」というシーン(死体の一部がひょっこりはみ出たりします)の綱渡り的な恐ろしさ、「死体が足元にある状況で五月の母親と話をする」という場面の、理性を失いそうな異常な緊迫感が印象に残っています。

そして「死体を、発見されないような穴に落とす」という最終目標を立てて行動する二人の行く先に待ち構えているのは、巧妙な伏線を生かしたショッキングなラスト。この作品は言わずとしれた名匠・乙一のデビュー作ですが、再読するたびに改めて、弱冠16歳で書いたものであることに驚かされます。

短編「優子」も同時収録。こちらは第二次大戦後すぐ、とある旧家の使用人が、決して部屋から出てこようとしない女性に疑いを抱くことから始まる、どんでん返しの見事な一本です。

ホラーファンの方には当然ながらお勧めですが、小説新人賞の受賞を目指す方は、ぜひ一度本書を読んでいただき、「序盤で心を掴む」「中盤で読者を楽しませる」「ラストで衝撃を与える」技術を堪能し、吸収してください。