今晩は、ミニキャッパー周平です。2019年も気の向くままにホラー小説をご紹介してまいりますので、何卒よろしく願いいたします。もちろん、絶賛募集中の第5回ジャンプホラー小説大賞への応募もお待ちしております。
さて、本日の一冊は、小林泰三『C市からの呼び声』。
小林泰三といえば、ミステリ・ホラー・SFと多岐のジャンルでヒットを飛ばす人気作家ですが、デビュー作は子供時代のおぞましい記憶にクトゥルーネタが絡む「玩具修理者」でした。そして最新作である本書『C市からの呼び声』は丸々一冊クトゥルーネタに取り組んでおり、発表済の短編「C市」とその前日譚である書下ろし中編「C市への道」で構成される本になっています。
前に置かれているのは「C市への道」。各国で奇妙な災害が多発し、クトゥルーの邪神(作中では、名を呼ぶことをはばかって「C」と呼称される)の復活が囁かれている時代。世界的な「C」研究者であるビンツー教授は、CAT(“C” Attack Team)の研究所を建てるべき場所として、緯度や経度、特殊な地磁気から結界となっている土地を選んだ。それは「因襲鱒(いんすます)港」と呼称される、日本のひなびた港町だった。
この港町がどう見ても呪われた地で、異様な潮の匂いに満ち、常に暗天に覆われ、水揚げされる魚は奇形ばかり、食べると体に重篤なダメージを受ける。港の住民たちの間では、自分たちの祖先が「こことは違うどこか」から来たという伝承が伝わっている。モーターボートで沖へ出た調査メンバーは、遭難したすえに古代の遺跡に遭遇し、異形の邪神に追われる。ビンツー教授が保管している魔導書『ネクロノミコン』を奪うために街の住民(どう見ても人間ではないし、当然のように銃で撃っても死なない)が襲撃してくるし、怪しげな脳波計測装置やマッドサイエンティストが跳梁し、宇宙生物と屍食鬼が死闘を繰り広げ、遂には玩具修理者までサービス出演。帯に書かれた「クトゥルーマシマシ神話生物多め‼ これがクトゥルー神話界の超大盛家系ラーメンだ!」というものすごいコピーに恥じない内容となっています。固有名詞やシチュエーションなど、ラヴクラフト作品へのオマージュを大量に捧げまくっていることもあり、原典をどれだけ読んでいるかで面白さが変わる作品でもあります。
そして後日談たる「C市」では、とうとうこの港町に、CAT研究所が完成。間もなく復活するであろうCに対抗すべく、科学の粋を尽くしてつくられた人工生命、学習型C自動追撃システム=HCACSは自己改良と進化を初め……クライマックスシーンの光景の異様さに唖然とさせられます。クトゥルーの邪神の正体を巡る議論の濃さを初め、「C市への道」以上にディープな一篇です。