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2017年11月18日土曜日

戦火の時代。少年は、あらゆる妖と霊宝が息づく屋敷に出会った――山吹静吽『迷い家』

今晩は、ミニキャッパー周平です。先週は、映画シン・ゴジラの地上波初放送が盛り上がりましたね。映画館で見た時もそうでしたが、やはり「自分の見知った町」がなすすべもなく破壊されるシーンが心に与えるインパクトは大きく、日本人にとって最上の恐怖を与えてくれる作品だと感じました。

今回ご紹介する本も、日本だからこそ生まれた恐怖譚にして、日本ならではの傑作――山吹静吽『迷い家』。



太平洋戦争のさなか。父が出征先で戦死し、母をも空襲で喪った少年・心造は、唯一の家族である妹・真那子ともに、集団疎開により山村に身を寄せている。心造は空襲の記憶に苦しめられながらも、戦争を厭う者たちを蔑み、本土決戦への覚悟を決めていた。

だがある日、真那子が同じく東京から疎開してきた少女とともに、姿を消した。警察の山狩りでも真那子は見つからず、自身で山中を捜索していた心造の前に忽然と現れたのは、巨大な屋敷だった。出会った者は神隠しに遭うというその屋敷に、妹のため、心造は単身で踏み込んで行くが……。

まずは、野山を駆けずり回って食糧を調達しようとする子どもたちの苦労、疎開者と地元の少年らの確執など、当時の空気が肌で伝わってくるような集団疎開生活のリアルな描写に、読者は否応なしに「戦時下日本」にタイムスリップさせられます。そして、両親を亡くし、戦局の不利を十分に理解しつつも、軍国少年として戦い抜く悲壮な決意を固めている心造の痛ましい姿に、胸を奪われるでしょう。

しかし何より素晴らしいのは、日本古来からの伝承である「迷い家」――神隠しに遭ったり山の中で迷ったりした人が出会う無人の屋敷――を、「妖や霊、霊宝の集まる場所」とした独自設定でしょう。心造は、迷い家の中で無数の霊宝に出会うのですが、その物量たるや、昭和までに日本で語られた怪異・怪談の全てを内包せんばかりの膨大さです。また、山姥や河童やのっぺらぼう、ろくろ首や雪女など、当時ですら一種ユーモラスにさえ感じられていた日本妖怪を、現代の私たちにとっても視覚的・生理的に「恐ろしい」存在として凄絶に描き切る筆力に舌を巻きます。そんな妖ばかりの家が、脱出不可能なホーンテッドハウスとなり、妹を助け出そうとする心造を翻弄する展開は手に汗握るものです。

物語には中盤から、戦後の視点――真那子とともに姿を消しながら、記憶を失って一人生還した女性の視点から語られることになります。迷い家のもつ恐怖はそのままに、時代が変わったことによって訪れてしまった「致命的な齟齬」が読者の心を突き刺さしていくことになります。そして訪れるのは破局か救済か。

「脱出できない幽霊屋敷で恐るべき次々モンスターが襲ってくる」というハリウッドホラーに通じるエンタメ感を持ちながら、日本怪談の総決算であり、ある時代の日本に暮らした人々――国家を信じて戦い、生き、死ななければならなかった人々――への鎮魂の詩として、涙を誘われる傑作です。


2016年6月11日土曜日

失ったもの、ここにあります――黒史郎『失物屋マヨヒガ』

 今晩は。ミニキャッパー周平です。第2回ジャンプホラー小説大賞〆切まであと19日です。
 WEB応募もできますので、ぜひぜひ挑戦してみてください!!

 さて、この前、深夜にテレビをつけていたら、ホラーアニメ『迷家-マヨイガ-』が目に留まりました。マヨイガ(マヨヒガ)とは元々、柳田國男が「遠野物語」で取り上げて有名になった伝承――道に迷った人が辿り着く無人の家で、そこに訪れた者に幸運をもたらす、というもの――ですが、様々なアレンジを加えて、現代でもホラー作品によく登場します。

 というわけで、今回は、黒史郎『失物屋マヨヒガ』をご紹介。



 行き止まりの路地の奥、誰も知らない商店街に、駄菓子屋「マヨヒガ」が存在する。
 その店には、誰かが「失くしてしまった」あらゆるもの(子どもの頃に作った粘土細工や、捨てたはずの日記、排水溝に流したはずの結婚指輪、などなど)が商品として並べられている。その商店街に迷い込んで、「マヨヒガ」に辿り着いた人々は、自分が失った大切なものを買い戻そうとする。ただし、買い戻すために必要な代価はお金ではなく、「商品と同等の価値をもつもの」。たとえば、大切な誰かの命を取り戻したければ、同じくらい大切な誰かの命を渡さなければならない。また、ルールに反し、代価を払わず商品を手にいれようとした人間は、怪物に姿を変えられ、永遠に商店街をさまようことになる。

 「マヨヒガ」には、己の失ったものを買い戻すため、様々な客が訪れる。
 小学生の男の子は、事故によって半年前に亡くなった「父親」を。
 チンピラの男は、幼いころ虐待によって失った「味覚」を。
 老人は、かつて想い人に送ろうとした、メッセージの記された「切手」を。
 失くしたものを求める人々それぞれの、不思議な体験の結末は、物語の後半で緩やかに繋がっていく……。

 設定自体は、悪魔との取引のように、「何かを手に入れるために何かを犠牲にしなければならない」というものなので、ブラックな物語になりそうですが、昭和の装いに満ちた商店街の光景や、子ども時代の記憶をくすぐるエピソードの数々に、何よりも「懐かしさ」を喚起させる作品になっています。

 「ムカデのように何本も腕を生やした黒衣の女」「首のかわりに向日葵を咲かせた犬」「大量の注射器をリヤカーに載せて運ぶ、緑色のぬめぬめした肌の子ども」などなど、商店街を闊歩する者たちの姿は、異様ですが、恐怖を感じさせるというよりも、幻想的で、こちらの想像力をかきたてます。そのファンタジックなムードはどこか『千と千尋の神隠し』めいています。
 大人になってしまったらもう取り戻せない、世界が輝きに満ちていた日々。それを鮮やかに呼び覚ます、素敵な一冊です。

 応募〆切までの更新はあとわずか2回。次に何を紹介するか、悩みに悩む一週間になりそうです。

(※書影はAmazonより引用しました。)